其の三・キス
「ご主人様起きて下さい、起きないと唇を奪っちゃいますよ」
「うーん、それはまだ早い」
「じゃあ起きて下さい」
「わかったよ」
目を開けると、唇同士が触れそうな位置に玲奈の笑顔があって、嬉しそうに話す。
「後一ミリでキス出来ますよ」
「する時は俺からするから待て」
「私はもう我慢の限界です」
「俺もしたいが今はダメだ」
「わかりました、残念です」
やっと離れた、起き上がりリビングに移動する、朝食をサッと食べて制服に着替える、出かける前に玲奈を抱き締め、小声で耳元で囁いた。
「今夜帰ったら大事な話がある」
「いい話ですか?」
「ああお前なら喜んでくれるはずだ」
「はい期待してますご主人様」
学校に到着すると、下駄箱にラブレターが二枚入っていた、思わず顔がニヤける。
「ご主人様それは何ですか?」
「ラブレターだ」
玲奈に取り上げられ、乱暴に自分のカバンに入れた。
「何すんだよ返せよ」
「こんなので鼻の下を伸ばしてるご主人様は嫌いです」
「厳しいな」
教室に入ると、玲奈の机にも大量のラブレターが置いてあった、玲奈は机の中に押し込んだ。
「お前の方が多いじゃないか」
「私は興味ありません、読んだら捨てます」
クラスの女子が集まって来た。
「玲奈ちゃん人気あるわね」
「私はご主人様がいればそれで十分なの」
「そんなに海斗君が好きなの?」
「うん、言葉では言い表せないくらいよ」
「じゃあ卒業したら結婚するの?」
「ご主人様がいいって言ってくれたら」
担任の坂上が入って来た。
「はいみんな座って、進路調査票集めるから順番に持って来て」
出席番号順に進路調査票を渡しに行った。
「推薦入学が決まってる人と、就職の内定を貰ってる人は二学期から自由登校よ、もうすぐ夏休みだからって気を抜かないように」
俺は嘘だが就職で内定決定に丸を付けたから問題ないだろう、授業が始まると玲奈が机をくっつけて来たので、教科書を見せてやった、俺は昼まで寝て過ごした。
「ご主人様お昼ご飯にしましょう」
「んー何を食べる?」
「今日はお弁当作ってきたの」
「ありがとう」
クラスの女子も数人集まって来て、一緒に弁当を食べた、食べ終わると玲奈と他の女子が電話番号やLINEを交換し始めた。
午後の授業もウトウトとしながら終わるのを待った。
「ご主人様帰りましょう」
「ああ、俺宛のラブレターを見せろ」
「はい、もう先に読みました」
「順番が逆だバカ」
二枚共見たが、放課後に屋上と体育館へ来て欲しいと書いてるだけだった。
「断ってくる」
「行かないで下さい」
「ちゃんと断って来るだけだ」
「私だけを見て! 私が好きなら行かないで下さい!」
玲奈が初めて感情を剥き出しにし叫んだ、クラスの注目の的になったが構わない。
「わかった行かない、帰ろう」
「はい、わがまま言ってごめんなさい」
「お前宛のラブレターはどうした?」
「全部読んでから捨てました」
「わかった帰るぞ」
みんなの注目を無視し、玲奈の手を取り帰路に着いた、帰ってからも玲奈は落ち込んだ様子で、うつむいてコーヒーを飲んでいる。
「何をそこまで落ち込んでるんだ?」
「今夜ご主人様から話があるのに、あんなわがままを言って嫌われるのが怖いの」
「さっきの事はもう済んだ事だ、あれくらいで嫌ったりはしないから安心しろ」
「本当に?」
「ああ本当だ、いつまでも落ち込んでたら怒るぞ」
「わかりました、晩ご飯の準備をします」
二人で晩ご飯を済ませ、玲奈が入れたコーヒーを一口飲むと、心の準備が整った。
「玲奈、話すぞ」
「はい」
「俺はお前が好きだ、アンドロイドや人間関係なく一人の女性として玲奈を愛している」
「凄く嬉しいです」
「で、これからも俺に付いて来て欲しい、俺の彼女になってくれないか?」
「はいご主人様の彼女になります、一生愛して下さい、私も心から愛してます」
玲奈の唇に初めてキスをした、玲奈がボロボロと泣き始めた。
「私からも一ついいですか?」
「ああ何でも言ってくれ」
「将来結婚して下さい」
「わかった、俺もそのつもりだった」
もう一度キスをして、玲奈とベッドに入った。
夜中に話し声で目が覚めた、玲奈が電話をしているようだ。
「そうなんです、愛の告白をして貰って、初めてキスをして貰って、その後抱いて貰いました、そこで博士にいくつかお願いがあります……」
博士に頼み事か、俺は再び眠った。
……
「ご主人様、起きて下さい」
「んー疲れてる」
「起きて下さい、話があります」
「昨夜の博士に電話した事か?」
「聞いてたんですか?」
「一瞬だけだすぐに寝たからな、何をお願いしたんだ?」
「私を一人の人間として、戸籍を作って貰う事と、将来ご主人様との子供が欲しい事をお願いしました」
「何で戸籍が必要なんだ?」
「法律的にちゃんと結婚出来るようにです」
「そうか、でも子供は無理だろ?」
「それが出来るんです、私の細胞から人工子宮を作って体外受精させるんです、簡単な事らしいです」
「そうかわかった、どちらにせよお前に対しての愛は変わらない」
「ありがとうございます、私もです」
「玲奈、俺達は付き合ってるんだから、そろそろご主人様とか、ですます調の言葉使いを普通にしたらどうだ?」
「そうですね、これからちょっとずつ変えていきます」
「出来る範囲内でいい」
「はい」
「後、起きたら服を着ろ」
「裸でもいいじゃないですか」
「夜だけにしてくれ」
「はーい」
朝食を食べて学校に行き、授業は寝て過ごし、夜は眠くなるまで玲奈とお喋りをする、そんな生活を繰り返し、やっと夏休みになった。
「ご主人様、夏休みの予定は?」
「お前と一緒に海と花火大会に行く、後はダラダラ過ごす」
「海と花火大会いいですね、私初めてです、それと私も暑いのは苦手なのでダラダラして過ごしましょう」
「やっぱり気温が高いと、パソコンみたいに熱暴走するのか?」
「そんなヤワな体じゃないけど、熱中症みたいな症状になるの」
「そうか気を付けろよ、この夏はお前と記念写真をたくさん撮りたいからな」
「はい気を付けます」
「真面目な質問だけど、お前は何年生きれる設定で造られてるんだ?」
「脳や内蔵の半分は人工臓器だから、普通の人間と同じくらいよ、定期的にメンテナンスして取り替えればもっと長生き出来るけど、私はご主人様と一緒に死にたいわ、私の人生は全てご主人様と共によ」
「そうか嬉しいな、後お前には性欲はあるのか?」
「あります、人間より性欲は強いかも」
「わかった、俺の嫌なところや直して欲しいところがあれば、いつでも言ってくれ」
「今は全くないわ、全て愛してます」
「ありがとう、俺も愛してる」
話が一段落すると眠くなり、玲奈の膝枕で少し眠った、目を覚ますと玲奈が団扇であおいでくれていた。
「ありがとう、気持ちよく寝れた」
「ご主人様、晩ご飯にしますか?」
「ああ、軽い物でいい」
「わかりました」
上体を起こし、アイスコーヒーの残りを飲み干した、玲奈はキッチンに入った。
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