第4話 強さのあかし
この世界いや少なくとも自分が見知った大陸や国家において人権とか社会秩序というものが十全に機能してるのはごく一部の都市や地域に限定されており、
天災。
人災。
予期せぬトラブルは悪意よりも善意が引き連れてくる。
身分や種族の差異を基に悪意を正当化してくる連中もいれば、揺るがなき正義と信仰が歪ながらも奇跡的に整った均衡を台無しにすることもある。親とはぐれた子供、不運な傷病者、あとは駆け落ちに失敗した恋人達の片割れ。
『まさかフルコースでやってくるとは。この家事妖精の目をもってしても斯様な展開を読むことは出来ませんでした』
節穴宣言かな、それは。
野営地と定めた場所に到着してみれば、保護者皆無の難民キャンプと化していた。しかも現在襲撃の真っ最中。
『ヒャッハアアアア!』
ちなみに奇声を上げているのは襲撃者ではなく、うちの
『音の速さを超えて繰り出す、衝撃波を伴った無数の連打である! そう、名付けるならば
『にゅん!』
著作権的にアウトな発言が出る前に、鷲馬娘の頭部にしがみついていた
怪物共にとっては有難くもない数秒間。
さりとて隙は無い。むしろ不意に訪れた空白が、襲撃者たる怪物たちに言いようのない不安を与えて行動を縛り注目を集める。
『すまぬ。拳は引っ込めたがうぬらはもう既に逝っておる』
けろりとした顔で鷲馬娘が言うと同時、怪物共の全身に拳の跡が生まれ吹き飛ばされていく。打ち上げ花火かな?
難民キャンプにいた幾人かが力なくた~まや~などと呟いていたので、
▽▽▽
支援職の冒険者は器用貧乏と言われがちだ。
極限状態では通用しないことが多いし、専門家のそれとは比較にもならない。たとえば傷口を縫ったり折れた骨を接いで固定する程度なら出来るけれど、道具もなく脳外科手術をしてくれと言われたら回復魔法の使い手か葬儀屋を呼べと返すだろう。即答してもいい。もっとも自分もある程度だが回復魔法を使えるので、咄嗟の時の応急処置なら問題ないはず。
多分。
怪物共の亡骸は鷲馬娘が集め、収納した。そのまま埋めると土壌や地下水の汚染が避けられない量だったので、冒険者組合の施設を借りて処分する。食べられる魔物がいれば良かったのだが怪物、怪物種の多くは血肉に染みた瘴気が有害すぎて素手で触れるのも
『にゅーん』
「主殿、合成獣が『浄化はマカセロー(バリバリ)』とやる気爆発なのだが」
そうだね、
ゴブリンとか
二脚羊の類だよ。王都で肉屋さんに並んでいたのは
『に゛ゅん!?』
あ、ガチ凹んでる。
食用モンスターが出没する迷宮なら、食べられるオークっぽいのが出てくるかもしれないよ。だから泣くのをやめておくれ。香しい匂いが辺りに充満してて、助け出した人たちが老若男女の別なく腹の虫で混声合唱しているから。
『涙を拭いたハンカチーフを煮込んだらコースの一品料理が出来そうですね旦那様』
神様が没収するだろうけどね。
指摘すると鍋を掲げていた家事妖精が笑顔で舌打ちする。
そういうやり取りを適当に流しながら、怪我人の治療は順調に進む。当事者にとっては災難だろうが、自分の技術と知識で対処できる範疇だ。空腹を訴える連中には愛用の携行保存食を御裾分け。医薬品含めて回収の目途の立たない慈善活動なんで、見栄えよりも栄養価を重視させていただく次第。
煮込むかそのまま食うか、選ぶ自由は彼らにはある。
子供たちの集団は、怪物達に襲われた別の隊商から逃がされたものらしい。
本人たちはそう主張している。
真実は分からない。自分がいたチームでも隊商が怪物や魔物に襲われたことは幾度となくあったし、襲われて壊滅した隊商の生き残りを救助したこともあった。そうした隊商を装った強盗に襲われたことも。
栄養の足りてない身体。
服で隠しきれない暴行の痕。
年長の女児、いや辛うじて少女と呼べる彼女が成人男性に向ける恐怖混じりの憎悪の感情。ああ飯が不味くなる想像しかできない。そして飯が不味いならデザートをお見舞いせねばなるまい。
練乳と卵を練りこんだ、甘い蒸しパン。
食え。
たんと喰え。
おかわりもあるぞ。
コーンポタージュ様もつけてやろう。
君ら携行保存食を拒んだからね。もはや拒否権など無いと思え。家事妖精アルビオンよ、このダークファンタジーで復讐系主人公を始めそうな少年少女達をポンコツラブコメ時空に引きずり込んでしまえー。
『ひゃっはー、でございます』
なんだかんだでこの家事妖精ノリノリである。
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