第4話

 忠雄の浮気に気付いて暫く経ったある日、千里の母がインフルエンザで倒れた。

 父も会社を休もうと思ったようだが、タイミング悪く出張が重なり、千里が田舎に帰ることになり、帰省したはいいが、一週間程も家を空けてしまった。

 母の具合もよくなり、家に帰ると、中がグチャグチャになっていた。

 洗われていない食器、捨てられていないゴミ、山となっている洗濯物。

 家の中を一通り見て「まあ、予想通りね」と一人呟いて、この一週間の『借金』を返すべく千里は奮闘をし始めた。

 食器やゴミはさほど時間が掛からなかったが、洗濯物の山に時間を取られ、全てを終えたのは、帰宅してから三時間後のことだった。

 部屋の中に張ったロープに掛けられている洗濯物を見ていると、どっと疲れが襲ってきたので、忠雄が帰るまで休もうと思い、寝室へと向かった。

 しかし、寝室の中もグチャグチャになっていた。

 寝るだけだし……、と思いそのままベッドに倒れこもうとして、違和感に気付いた。

 忠雄のベットだけではなく、千里のベッドも乱れている。

 ここを出る前に確実に布団を正してから出て行った。そうしないと、気持ちが悪いからだ。

 忠雄が寝るだけなら、千里のベッドが乱れるわけが無い。

 では、何故……。

 ざわつく感情が、何かを訴えていた。

 お前も、気付いているんだろう?

 心の奥、誰かが発した言葉が響く。

 でも、まさか。

 甘い幻想でその言葉を打ち消そうとするけれど、言葉はしつこく残っている。

 それでも、何か他の理由があるのだと、自分を騙して自分のベットへと近付いて、腰を掛けて、横になる。


 布団の上で、息を……吸った。


 そして、千里は絶望した。



 他の女の匂いがする。



 我慢しようと思った。

 だけど、もう、我慢できなかった。


 ベッドから起き上がり携帯電話を取ると、忠雄の携帯電話を呼び出して通話ボタンを押した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る