🔹第一章『幼少期』 第12話『帝国学園歴史初の英雄』

 「スタンベルク伯爵家長男、ジャック・デュフォール殿。 貴殿は近年稀にみる剣術と魔法の実力及び座学の知識を持ち合わせている事を総合的に判断した結果、今までの過去に一度としてなし得た者が居なかった『最優秀合格者』及び『飛び級合格者』の両方を与える!!」


 「うおおおおおおおおおおおおぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」


 辺りは大歓声に包まれ、その大歓声は中継されている町中でも沸き起こり国中が歓喜の声で満ちていった。


 そんな中、祭壇の前で授与される当の本人は無表情で呟く。


 「魔法の試験を失敗したこの僕が本当に勝ち取ったのか!?」


 そう、ジャックは帝国学校入試において、「筆記試験」や「剣術の試験」では実力を出し切り試験の結果にはかなりの自信を持っていたが、最後の試験である『魔法の試験』で魔法5発中4発も外してしまい失敗したと感じ『最優秀合格者』は無理だと感じていたのだ。

 その為、呼ばれた際は確信を持っていたがジャックはよく考えてみるとこの結果に理解が出来ない。


 「おおおおおーーー! ジャックゥーーー! 良くやったァ! 祝福の儀といいお前は本当に良く出来た息子で最高だァ! 愛しているぞォォーーーーー!!!」

 父フィリップは興奮のあまり貴族らしからぬ言動をしてしまっている。


 「あの抜け目ないフィリップの息子ががやりおった! これは歴史に残るぞぉ!」

 ボイド辺境伯も流石に驚いていた。


 「ふーん… やるやん…」

 ロイは不貞腐れながらも感心している。


 「ジャック殿、貴殿に『最優秀合格者』及び『飛び級合格者』の2種を授与する! これはターヒティア帝国学校の初となる快挙であり歴史に残る偉業でもある! 我が学校の代表として今後の活躍を期待している!」


 学園長はジャックに『2つのバッジ』を渡すと会場からは「パチパチ」と大きな拍手が巻き起こった。


 「はい!頂いた名に恥じぬよう日々努力致します! ただ学園長殿、1つだけ質問があるのですが僕は『魔法の試験』で失敗しておりますが何故僕が選ばれたのでしょうか?」


 「簡単な事だよ。 この入試試験の内容は個人の能力を判断する1つでもあるが、実はその試験の大半が初年度の授業で行う物が多いのだ。試験内容の中には応用問題も含まれていてその内容を全て満点を取ったジャック殿には『飛び級』の資格が十分に有る。またジャック殿が『失敗した』と言っていた『魔法の試験』だが最初の1発目で十分すぎる威力の「ファイアーボール」を撃ち見事的に命中させている。それなのにも関わらずジャック殿は的には外しはしていたが、更にその上の呪文「フレイムアロー」の魔法自体には成功している。 同じ下級火系魔法ではあるものの在学初年度で使用できる人が少ない事や、ましてや入学前に使用できる人は魔術特化の家系以外は居ないことも含めて今回の結果となったのだ。 理解できたか?」


 どうやら『魔法の試験』の内容云々以前の問題だったようだ。


 「理解致しました。 ですが僕は正直一番優れているとは思っておりませんので今後とも慢心せず日々努力していきたいと思います。」


 ジャックの脳裏には自分より魔術が格上になり、今後智謀ですら上回るであろうと踏んでいる弟アランの事を思い浮かべながらも獲得した『飛び級』を有効活用しようと心に決めたのだった。



 帝国学園合格者発表式終了後、各合格者はその場で入学金を納めて入学書類を受け取っており、ジャックは『最優秀合格者』なので入学書類だけ受け取りフィリップが居る席に戻った。後は書類を提出して帰るだけである。


 父フィリップは頬が緩み切った状態でジャックを待っていた。


 「おお来たな! 優秀な息子よ! 白金貨7枚も浮いたし今日は存分に祝おうぞ!! 何か食べたいものや欲しいものはあるか? 何でも言ってみろ!」


 「いえ父様、僕を祝うためのお金は無駄遣いなので必要ないです。 入学金として浮いた白金貨はデュフォールの今後の為に有効活用したほうが良いでしょう。 父様、前回弟アランが希望していた『風呂』を屋敷に造るのは如何でしょうか?」


 「ジャック、お前の達観した視野と現実的な思考で聞き分けが良い事はいい事だがたまにはわがまま言っても良いのだぞ? まぁ『風呂』位この際造るのは良いがそんな事でいいのか?」


 「父様、ただ屋敷に風呂を造るだけではありません。 以前弟アランが口に漏らしていた『銭湯』なるものを造ろうと思います。」


 「なんだ? その『銭湯』とは…戦う風呂なのか?」


 「いえ、弟アラン曰く貴族だけでなく一般の人も入れる大きな風呂を良心的な値段で提供した場の事を言うみたいで風呂が少ない平民が喜ぶのは間違いないかと…。 また『銭湯』より更に一段上位となる『温泉』というモノが存在するとアランが言っていました。

 その『温泉』については詳細は不明ですが、どちらにせよ風呂が無い平民にとっては住みやすい地域となるでしょう。アランが言う『銭湯』は我が家が運営すれば大きな利益にもなり民も満足する一石二鳥ですので弟が前に漏らした考えですが僕は取り入れるべきだと思います。 まずは屋敷に風呂を造りその際ですが使用人も入れる風呂を造りより良い環境を与え、その上で改良を重ね庶民向けの風呂『銭湯』を運営しましょう! 僕は帝国学校の寮に入ってしまいますが、入学までにある程度基盤を作ります。正直アランに頼めば何とでもなるでしょう。」


 「成程…、私は平民に風呂は必要無いと思うがあの頭のキレたアランやジャックが言うのだから間違いないのだろう…。 我がスタンベルク領土がそれで栄えるのであれば今回の入学金をその『銭湯』なるものに使用することを許可する。」


 「父様、有難う御座います。 この件に関しては屋敷に戻り次第アランに上手く協力を取り付けるよう手配致します。」


 「なんじゃあ? めでたい日なのに2人して真剣な表情をして何か問題でも有ったか?」


 入学金を支払ってきたであろうボイド辺境伯とその息子ロイ殿が戻ってきた。


 「いえ、今後について父様と少し話してただけですよ。」 ジャックは笑顔で答えていた。


 「おいフィリップよ、ジャック殿もお主によう似てきてるのぉ…。思考の隠し方がお主と同じじゃぞ…。 ワシのバカ息子も同じくらい頭のキレが良ければよかったのだがのう…。」


 「フン、エレガントの欠片も無いジャックには学力と力が有っても上流貴族の僕には及ばないよ。最後に笑うのは完ぺきな貴族の立ち振る舞いさ! 今度僕主催の貴族が集まるパーティーが有るんだ。 ジャック殿も呼んであげるから貴族の経験を積むといいさ!」


 ロイは二大伝説を叩き出したジャックを何処吹く風で全く気にしていない様だった。


 「バカ息子は放っておいて今日は我が友の息子を我が屋敷にて盛大に祝おうぞ! 今日は泊まって行くと良いのじゃ。」


 「ボイド辺境伯殿有難う御座います。 ジャックも今日位羽を伸ばせ。」


 「はい父様!」


 その後書類を提出したジャック達はボイド辺境伯邸にお邪魔することになった。



 一方その頃スタンベルクでは――



 アランは居間で母マリーナから借りた『魔術書』を読みながら寝転んでおり、エドガー兄は俺が教えた自重トレーニングの『腕立て伏せ』を必死に行っていた。

 そんな中何やらドタバタと廊下が騒がしい。


 「凄いわっ!! 大変よ~~ッ!!! ジャックが『最優秀合格者』と『飛び級合格者』の2つを同時に貰ったみたいよ!!」


 曇りのない笑顔の美女である母が居間に飛び込んできたのだ。


 俺とエドガー兄は目を丸くしながら母マリーナの言葉をもう一度聞く。


 「ジャック兄がどうだって?」 エドガー兄は理解出来ていないようだ。かく言う俺も理解できていない。


 「ジャックが『最優秀合格者』と『飛び級合格者』両方とったのよ! 帝国学校歴史で初だって聞いたわ! 凄いでしょ!? 凄いわよ! 凄すぎるわよ~!」

 母マリーナは笑顔でピョンピョン飛び跳ねながらはしゃいでいた。 そんな母を俺ら兄弟2人は見惚れながらもジャックの結果に驚いていた。


 「かあさま、それは本当ですか? ターヒティア大帝国はかなり遠い国です。どうやってその情報を手に入れたのですか?」 母マリーナを疑っている訳では無いのだが幾らなんでも情報が早すぎるので疑問に思った。

 母マリーナは未だにピョンピョン飛び跳ねているが答えた。

 「ターヒティア大帝国の近くに存在する国のルテイト魔導王国に古くから仲良しの魔術師が居るんだけど、定期的に情報を貰っているの! それで今回の結果も情報一早く貰えるようお願いしてたのよ! その魔術師は私に並ぶ実力でルテイト魔導王国からスタンベルクまで離れていても念話でやりとりできるのよ~」


 ――念話?凄いな… もはや前世で言う『携帯電話』みたいな魔法だな!凄く興味がある。


 「ジャック兄すげぇな! ジャック兄が出来るのなら俺たちも頑張ればイケるんじゃねえか?」 エドガー兄はそこまで実力差が無いジャック兄の結果を聞いて自信が沸いてきたみたいだ。


 正直俺も「帝国学校の入試は簡単なのか?」と軽く感じてしまった。 ジャック兄がイケるのなら俺もイケるハズ…と考えない方がおかしい。

 特に前世を経験している俺はこの世界で学んだ事の中で魔法や剣術以外は正直低レベルで、数学に関してはもはや小学生低学年レベルだ…。 なので筆記試験は全く問題ないと思っている。 問題は剣術や魔法の実技試験だが、魔法に関しては原理さえ分かってしまえば前世の知識を使って簡単に応用できるし必要なのは練度だけだ。剣術に関してはまだまだだが今後エドガー兄に扱かれる(日頃の恨み)だろうからそれを利用して俺も強くなるだけだ。

 そう考えるとやはり帝国学校入試は何も問題ないと思う。まあ伯爵家だから前世で言う「指定校推薦」みたいなやつの顔パス出来るんだけどね…。

 よくよく考えてみると【元C+ランク冒険者】の親かつ【満月の魔女】の母と【千虻魔剣士】の父の稽古で実技を落とす方が難しいと思う。

 俺やエドガー兄もジャック兄の様に最低でも『最優秀合格者』を目指そうと心に決めた。


 母マリーナが未だにはしゃぐ中、エドガー兄は真面目に筋トレをし始め、俺は姿勢を正して真剣に魔導書を読むのであった。

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