🔹第一章『幼少期』 第11話『ジャックの合否発表』

 「8007年10月4日」

 今回は長男ジャック視点です。


 ボイド辺境伯邸に滞在し3日が経ち、今日はターヒティア帝国学校合格者発表日である。


 ジャックはボイド辺境伯の引きこもり息子であるロイ殿をなんとか説得しボイド辺境伯家達とターヒティア帝国学校に合否を確認しに来ていた。


 「いや~ジャック殿、本当に凄いじゃないか~。まさかバカ息子を部屋から引っ張り出すとはワシも驚いたわい。」

 とボイド郷はジャックを褒めているがロイ殿は不満そうだ。


 「いえボイド郷、ロイ殿に多少発破かけただけけで私は大した事はしておりません。」

 ジャックは平静を装いながら答えるが顔が強張っている…。理由は合否発表だ。


 「それでもじゃ! これでバカ息子も少しは成長できそうで良かったわい。」


 そんなロイ殿は「僕は合格決まってるんだからわざわざ合格発表見に行かなくてもいいじゃないかー…。」と項垂れながらも、まだぶつくさと不満を言っていた。


 ロイ殿は緑色の髪と青眼の珍しい組み合わせの色素を持ち顔立ちは整っているが背は低く、猫背で頼りなさそうに見え、おまけに感情の浮き沈みの差が大きく前世で言う「躁うつ病」状態であったがジャックはフィリップから仕込まれた「人心掌握術」を使用しいくらか感情の浮き沈みの差が小さくなった。


 「そんなんだからバカ息子なんじゃ! この経験もいつか自分の身に得る事もあろうから何事も経験しておけ!」

 今度は怒られていた。


 そんな気弱そうなロイ殿を引き連れたボイド辺境伯と共にスタンベルク伯爵フィリップとその長男ジャックは、ターヒティア帝国学校の『大聖堂』に待機していた。

 ターヒティア大帝国にある『大聖堂』とは別にある学校内専用の『大聖堂』であり、規模は小さいがリネレー村にあった教会と比べたら天地の差程もある大きさで軽く500人は入れる程の大きさであるが入試結果を待つ者は大聖堂に入りきらず大半の平民は大聖堂の横にある『演習所』と呼ばれる前世で言う「学校の校庭」や校門から校舎に続く長くて壮大な庭園通路や校

門外で大勢の受験者が待機していた。

 ざっと見る限り今年の帝国学校の入試を受けた人数は4000人を超えている。それに対して合格者は400人なので合格倍率は10倍と難関である。それでもジャックの合格は確定するのだが、不安でたまらない。

 そう、先程から顔が強張っているのは全て『最優秀合格者』かどうか心配なのだ。

 それほど入試の際の魔法のミスはジャック自身致命的だと判断していた。


 合格発表は、帝国お抱えの宮廷魔導士による『ツァイトディラ・プロジェクション』といわれる時空魔法である投影魔法を数人がかりで行い、学園内やターヒティア大帝国の各街内に合格者の放送がされる。 投影場所は事前に決められており、ターヒティア大帝国の国民は入試合格発表のこの日を休日にして見物に来る位である。合格発表は12時のお昼に大聖

堂の鐘が鳴るのと同時に始まり、合格者は学園長によってひとりずつ名前で呼ばれ、学園長自らが『学生証バッジ』を合格者に対して授与する仕組みである。なのでこの合格者発表はターヒティア大帝国の1大イベントであり、完全な見世物でもある。

 合格者として呼ばれた名前は町中の人達も聞く事になる為、合格だけでも町の人から羨望の眼差しを貰う事が出来る名誉みたいなものでもある。


 なので帝国学校に合格するだけでも知名度が上がり、卒業する事で【Eランク冒険者】が確約され、更に好成績者には付属の【帝国騎士団上級学校】及び【帝国魔術師団付属魔術研究学校】を入学し、卒業できれば【帝国騎士団】及び【宮廷魔術士団】という安定収入が確約され、貴族になれる可能性が秘めた出世コース等合格者自身に様々な可能性を秘めた学校であり大

帝国にとっては民衆に対する一大イベントでもあるのだ。


 そしてお昼を告げる大聖堂の鐘の音が鳴り響いた。


 大聖堂内の宮廷魔導士が一斉に魔法を唱える。 『ツァイトディラ・プロジェクション!!』


 魔法の発動と共に各地で大聖堂内が投影され始め映像の前に受験者や民衆が集まっている中、大聖堂の祭壇には白髪で髭の長い学園長アイギスが宣言した。


 「本日8007年10月4日、我らがターヒティア帝国学校第142年度の合格者発表式を始める! 受験番号順に合格者を読み上げるので名前を呼ばれたら大きな声で返事をし祭壇まで『学生証バッジ』を受け取りに来なさい。 尚呼ばれなかった者は他の者の邪魔にならない様、速やかに退出し不合格に囚われず今後の進路をよく考え己の為に活かしなさい。 

では合格者の番号を読み上げる! 受験番号1番~――」 とうとう合格者が発表されていった。


 若い番号は内定済みである男爵以上の貴族であり、呼ばれた者はみな凛々しく堂々とした貴族らしい立ち振る舞いをしながら『学生証バッジ』を受け取っておりデュフォール家長男のジャックも38番という確定枠の若番の為直ぐに呼ばれる事であろう事は既に分かっていたが中々緊張が解けない…。


 「受験番号18番、ロイ・ボイド祭壇の前へ!」

 ボイド辺境伯の息子も呼ばれ他の貴族とは違い気だるそうな足取りで『学生証バッジ』を受け取っていた。



 「受験番号37番、アリア・マーライト祭壇の前へ!」


 いよいよ次の番が自分の番である。 もう心臓のバクバクが止まらない!隣に座っている父フィリップは緊張はしてなさそ

うだ。


 「え~…38番を飛ばして受験番号39番、ガイ・ロンドル祭壇の前へ!」


 ジャックの番号が飛ばされジャックは頭の中が真っ白になった。


 「なっ!? どういう事だ?男爵家以上だから確定で合格なハズだ! 学園長!これはどういう事なのだ!」

 父フィリップは慌てて立ち上がり学園長に抗議をした。


 「デュフォール家よ落ち着きなさい、理由は後で呼ぶので今はお待ちなさい。」


 ジャックは落ち着きを取り戻し冷静に考える。


 何故番号を飛ばし後回しにされたのか…、過去に学校側が行った事を思い出す限り考えれる可能性は2つだ。

 1つ目は『最優秀合格者』である場合で、番号が呼ばれず後回しにされ、確定合格者である貴族全て呼ばれた後に呼ばれる場合と、同じく貴族全て呼ばれた後に呼ばれる『飛び級合格者』のどちらかである。


 考える限り上記2つの内1つだ、きっとそうだ! そう冷静に考えると余計に心臓が高鳴ってきた。

 それでも父フィリップはその事象を知らないのか心配そうだった。 息子が知っているのに親が知らないのもどうかと思うが…とジャックは内心苦笑した。


 そして学園長は全貴族の番号を読み終えた。


 「今年度1年生となる上位貴族受験番号全は以上で全てです、これからも貴族の名に恥じぬよう各自学業に励んでほしい!

 それと今年度の合格者の中に重大発表が有る! 受験番号38番、ジャック・デュフォール祭壇の前へ!」


 「はい!!」


 呼ばれた!間違いなく呼ばれた! これはもう間違いないとジャックは確信し自信を持って学園長が居る祭壇に向かう。


 「スタンベルク伯爵家長男、ジャック・デュフォール殿。 貴殿は近年稀にみる剣術と魔法の実力及び座学の知識を持ち合わせている事を総合的に判断した結果、今までの過去に一度としてなし得た者が居なかった『最優秀合格者』及び『飛び級合格者』の両方を与える!!」


 「うおおおおおおおおおおおおぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」


 辺りは大歓声に包まれたのだった。

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