🔹第一章『幼少期』 第9話『父の企み』


 ジャック兄の祝福の儀の夜、夕食後にジャックは父フィリップによって書斎に呼ばれていた。

 そんなジャックに対して父がどんな話をするのかが気になりアランは聞き耳を立てている。


 「ジャックおめでとう! 良い固有スキルを貰えて本当に良かった。 さて、ジャックの今後についてなんだが私が厳しく育てたジャックであれば帝国学校入学試験は簡単に合格する事ができるだろう。 しかし合格だけではダメだ! 最優秀者として合格をしなさい。 私からの大きな要求でかなりのプレッシャーを感じると思うがこれは全て我が子のジャックの為だ!今までしてきた英才教育を無駄にせず我が家の為に勝ち取るのだ。 私が伯爵家となって初の代ではあるがジャックお前には私以上の才能が有る。 だから私よりも高みを目指せ、そしてゆくゆくは『エブゾフェア公国』の頂点に君臨し民を統べろ! サポートは全て私がする、また弟達を上手く扱いデュフォール家の為に尽くさせろ。 特に『アラン』を上手く扱うんだ、アランは私やマリーナ以上に頭が良く、民の為になる考え方をしている。 普段はアランが何か工夫をし誰かの為になる行為をする度私はワザと一蹴してきたが私よりも頭が良く政治に向いているのは明白だった。 ジャックお前よりも全てにおいてアランは上回る存在になるだろう。 だがデュフォール家を継ぐのは長男であるジャックお前だ! だからアランを上手く扱うのだ! 明日から私が入学試験の勉強と人心掌握術を徹底的に教え込むから絶対に付いてこい、分ったな?」


 おいおい…俺を上手く扱えとかヤバい事言ってるんですけどぉ? 俺は自由に生きたいのに政治絡みに利用されるのはマジで勘弁だ、まさかこんな話をするとは…聞き耳立てて良かった。これで俺自身は対策出来る、何も知らずに洗脳とか絶対に嫌だからな!


 「父様分かりました、絶対に『最優秀合格者』を手に入れて見せます! またアランですが、僕もアランは人間離れした思考をしていると普段から思っていました。 1歳半で既にまともに会話ができ立って歩く事が出来る時点で『異常』でした。そのアランが僕たちの稽古を見ただけで僕たち以上に魔法が使えるようになったり、思考の仕方が大人びており行動そのものは駄々っ子の子供ですがその行動の先にあるモノは全て成長に繋がる行為かつ、効率の良い生き方をしています。 僕もここ最近ではかなりの劣等感を覚えるほどでした。 僕は正直アランが怖いです、家族という縛りが有る以上仲良く出来るでしょうが上手く扱えるかと言われたらかなりの不安が有ります。 またアランと敵対してしまったら全てが台無しになってしまう程の頭のキレと行動力がありますので現段階ではいつも通り接していきたいと思います。また父様の言う通りアランを上手く扱えれば『エブゾフェア公国』をこの世界で一番にする事も可能だと思いますので父様、僕が帝国学園入学後はアランへの愛国心を鍛える徹底指導を宜しくお願い致します。」


 兄ジャックまで俺を洗脳する気じゃないかよ…、前世は親と仲悪かったから仲良くしたかったんだが『モノ』みたいに扱われるなら今後仲良くはしたくない…。


 「あぁ分かった、ジャックの為に尽くすよう日々言い聞かせよう。 アランは賢過ぎるがまだ子供だからな、なんとでもなるだろう。」


 チチヨ…実は中身はオトナナンダナ…、俺はもうこの2人が嫌いになりそうだわ…。


 「父様、エドガー兄はどうされるのですか?」


 「エドガーか… あれはダメだ、知識欲の欠片も無いバカ息子で紳士力も全く無い。 帝国学園に入学は出来るだろうから卒業後は帝国騎士団にでも入団して世の中の厳しさを知ればいいだろう。」


 息子に向かって「あれはダメだ」は無いだろう…。 どんな息子であろうと向き合い正す事が親の役目では無いのか?


まぁ子に対する考え方は家庭によって様々だけど納得いかない。 俺は完全に父フィリップが嫌いになった。


 今後、2人に対してどういう態度を取ろうか思考していると、 「さて、明日から入学試験までの日程を教えるぞ…」 と話し出した。もう自分の話は出てこないだろうしバレないうちに退散するとしよう…。


 俺はトイレに寄ってから居間に戻るとマリーナが茶を飲みながらくつろいでいた。


 マリーナは俺に気が付くと、「おいでおいで~」と手招きされた。

 俺はマリーナの傍まで行くと、「遅かったけどお腹でも痛かったの? 治癒魔法かけてあげようか?」と心配そうな顔をされた。


 「いえ、かあさま大丈夫です!」 俺は前世を含めて2度も家族に裏切られた悲しみを顔に出さない様に平静さを保ちながら笑顔で返事をした。


 「うふふ、それなら良かったわ! 痛かったら絶対にママに言うのよ?」 ――めっちゃ子ども扱いされた。子供だけど(笑)


 「アランが言っていたフィリップや私達のステータスの紙を持ってきたわよ。 見たかったんでしょ? 私たちが冒険者を辞める前に鑑定したステータスよ。 こう見えても私は夜限定だけど賢者より強いって評判だったんだから!」


 ――うん、正直見たかった。見るだけでも今後の方針に役立つので本当に有難い。そして…うん、夜限定最強固有スキルも以前聞いた覚えがある…。


 「かあさま、僕の為にわざわざありがとうございます。」 とお礼を言いながら渡されたステータス用紙を見る。




【名前】フィリップ・デュフォール

【称号】[元]C+ランク冒険者

【種族】人族・エブゾフェア公国貴族所属スタンベルク伯爵 デュフォール家当主

【年齢】  27歳

【ランク】 [C] 【合計値1241】

【レベル】 39

【HP】   210

【MP】   82

【攻撃】  215 (+25)

【防御】  50  (+05)

【魔攻】  107

【魔防】  40  (+07)

【ちから】 195

【魔力】  79

【敏捷】  136 (+11)

【回避】  11% (+01%)

【賢さ】  117

【運】   10

【状態一覧】健康

【武器】  アークファンジャル[ダガー](攻撃+25 敏捷+7)

【盾or弓】

【頭】   エーデルホンブルク[軽](魔防+7 回避+1)

【体】   ブリリアントアデルコート[軽](防御+5 敏捷+4)

【アクセサリー】プラチナリング[結婚指輪](魔力+3) コーマバングル(混乱無効)


【固有スキル】[千虻魔剣士 Lv10](魔剣では無くても全ての属性魔法を付与可能。属性魔法1種付与毎1.5倍)

【通常スキル】[剣術 Lv10][槍術 Lv3][短剣術 Lv7][弓術 Lv4]

       [火魔法 Lv12][水魔法 Lv2][土 Lv3][風 Lv9][氷魔法 Lv6][雷魔法 Lv1][光魔法 Lv3]




【名前】マリーナ・デュフォール

【称号】[元]C+ランク冒険者

【種族】人族・エブゾフェア公国貴族 リネレー女爵デュフォール家第一夫人

【年齢】  23歳

【ランク】 [C+] 【合計値1278】

【レベル】 36

【HP】   165

【MP】   204

【攻撃】  81  (+05)

【防御】  45  (+17)

【魔攻】  233 (+65)

【魔防】  51  (+37)

【ちから】 72

【魔力】  189 (+14)

【敏捷】  79

【回避】  08%

【賢さ】  144

【運】   15

【状態一覧】健康 [リジェネ・状態異常耐性・光属性1.5倍] 

【武器】  月光の杖[杖](攻撃+5 魔攻+65 光属性1.5倍)

【盾or弓】

【頭】   ルナールエナン[魔](魔防+37 魔力+7)[状態異常耐性・小]

【体】   ルナールローブ[魔](防御+17 魔力+7)[リジェネ・小]

【アクセサリー】プラチナリング[結婚指輪](魔力+3) ムーンアミュレット[月の御守](女性第六感強化・中)


【固有スキル】[満月の魔女 Lv7](魔力上昇、新月1.1倍・二日月1.3倍・三日月1.5倍・上弦の月1.7倍・十三夜2倍・満月3倍)

【通常スキル】[剣術 Lv2][槍術 Lv1][短剣術 Lv3][弓術 Lv4]

       [火魔法 Lv9][水魔法 Lv11][土 Lv5][風 Lv7][氷魔法 Lv7][木魔法 Lv5][時空魔法 Lv2][光魔法 Lv4][神聖魔法 Lv3]


 当たり前だが2人とも7レベル時とは比べ物にならない程成長していた。 やはり7歳時のステータス同様に長所は伸び、短所はステータスの数値が低くなるようだ。 それに祝福の儀の鑑定と違って今回は固有スキルの効果がしっかりと記入されていた。しかも固有スキルの効果がマジで凄い。 父フィリップの【千虻魔剣士】は魔剣を使用しなくても自身が持つ剣を実質魔剣にする事が出来る上に1属性付与毎に1.5倍の効果上昇は強い。ただ魔法は[火、風、氷]以外は強く無いのでやはり[ちから]主流になってしまい、上級冒険者になれなかったのだろう。 母マリーナの固有スキル【満月の魔女】は夜の時に魔力上昇効果が有り、月の満ち欠けによって効果上昇率の変化があり満月時の3倍だと魔力の数値が567となるので賢者より強いというのも本当なのだろう…。 ていうかこの固有スキルチートだろ…。

 それにこれは結婚して冒険者を辞めた頃の8年前のステータスなので、もしかしたら今はもっとステータスが高いのかもしれない。


 ステータス用紙を食い入るように見る俺をマリーナが「あらあら」言いながら可愛い顔で微笑んでいた。

 こんな可愛くて非の打ち所がない美人がまだ31歳なんだぜ?18歳に見えちゃうぜ!!


 「かあさま、祝福の儀のステータスでは固有スキルの効果が書かれていなかったのに何故このステータスには固有スキルの効果が書かれているのですか? それにかあさまの装備は『月』で統一されているのですね、これも固有スキルと関係があるのでしょうか?」


 「上位の神聖属性使いの鑑定だと固有スキルやその他のスキルの効果を詳しく鑑定する事が出来るのよ。 私たちが冒険者を辞めて結婚する前に記念として鑑定してもらったの、上級神聖魔法使いだったから高かったわよ~。」とマリーナはニコニコしながら指で輪っかを作っているので「お金」の事をなのだろう。


 「魔装備の月装備シリーズが一番私にしっくり来たの! ドロップ品から作った完全オーダーメイド製で、正直効果より見た目重視でお願いしたわ!」


 この母は「効果よりも見た目重視」と言っているが父フィリップの装備と比べてみても効果がかなり高いのだが俺の見間違いか? この母はナニヲイッテルンダ?


 「かあさま、ですがとうさまの装備より効果が高いですよ?」


 「あぁそれはね~。 今着てる貴族服の効果なのよ~。 冒険者辞める時に既に重装備は辞めて貴族服を着て鑑定したからその数値なのよ~。 え~っとちょっと待ってね!」と言いながらマリーナは何かを探し始めた。


 成程、今着てる貴族服の効果なのか…。それにしても重装備か、どんな装備か気になるな。


 「あっ! 有ったわよ! これがフィリップ現役時の装備よ。」 とマリーナは別の紙を俺に渡した。



【武器】  プラチナソード[片手剣](攻撃+55)

【盾or弓】 プラチナシールド[盾](回避+20)

【頭】   プラチナヘルム[重](魔防+30 ちから+2)

【体】   プラチナアーマー[重](防御+39 ちから+5)



 確かにマリーナが来ている魔装備よりも数値が高かった。 というか全て装備が『プラチナ』で統一されていた。この世界の冒険者は装備を統一するのが普通なのかもしれない…。 前世の記憶では確か、金やプラチナ等の貴金属は熱に弱く柔らかく脆いのが特徴だったハズなのでそれが装備として成り立っているのが不思議だ。


 「かあさま、貴金属は柔らかいから重装備には向いてないと思うのですが、何か貴金属が使われる理由でもあるのでしょうか?」


 「アランそんな事まで知っているの? プラチナは本来は装飾品に使われるのだけどプラチナには魔力を付与出来る特性を持っているからフィリップの【千虻魔剣士】との相性が良かったからプラチナ装備をしているの。 脆い部分は他の金属との合金で強度をカバーしたわ! それでもフィリップの得意な火魔法とは相性が悪かったわね…。」


 成程、この世界の貴金属には魔力を付与する事が出来るらしい、勉強になった。


 「かあさま、見せて下さり有難うございました。僕もかあさまみたいな立派な冒険者になってみせます! 後いつになったら僕のステータスを見せて頂けるのでしょうか?」


 「あらあら、本当はアランにはまだ内緒だったんだけどアランの誕生日に『真眼の水晶』が届く手筈になっているわ! この事はフィリップに言っちゃダメよ? 内緒なんだからっ!」


 「本当ですか!? 有難うございます! 誕生日まで楽しみにしてますね!」

 ステータスを確認できる誕生日がとても楽しみになった。



 マリーナに返した後2人で会話を楽しんでいると、父フィリップとジャック兄が部屋に戻ってきた。


 「ジャックと今後について話してきた。 将来有望だからな、明日から入学試験の為に付きっ切りになるから弟たちは何か有ればマリーナに頼んでくれ。 そういえばエドガーが居ないがどうした?」


 そういえばエドガー兄は居なかった。普通に俺も存在を忘れていた…スマソ。


 「エドガーはもう寝たわよ、初参加の祝福の儀で疲れてしまったみたいだわ。」


 自分が祝福された訳ではないけどやはり家族が受けるだけでも精神的にかなり疲れたようだ。


 「そうか、アランも優秀だから日々精進するように。」


 「はい、とうさま。」 俺は短い返事だけをした。


 父フィリップは満足げに頷くと居間から出て行き、ジャック兄も父を追うように部屋から出て行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る