🔹第一章『幼少期』 第7話『ジャックの祝福の儀』


 「8007年8月15日」

 あれから1ヵ月半が経ち、8月中旬に入った。


 今日の日付は前世では「お盆」だが、この異世界にはお盆は存在しない。

 その代わりに、この世界では毎年8月15日が女神様から【固有スキル】を貰う事が出来る『祝福の儀』の日である。


 そんな今年の祝福の儀だが、デュフォール家では長男である「ジャック・デュフォール(7歳)」が参加する。

 俺はこの世界に来て初めての公共イベントなので凄く楽しみにしていたが、俺以外の家族はみな緊張した面持ちでデュフォール家の馬車に乗り、教会に向かっていた。

 そりゃそうだろう、女神様から貰える固有スキルの種類によって、この先の人生が決まってしまうと言っても過言ではないのだから緊張や心配もする。


 「我が子ジャックは優秀な子なのだからきっと大丈夫だ! 自信を持って臨みなさい。」


 「分かっています父様、父様の子なので絶対良いスキルを頂けるはずです!」


 「祝福の儀」を受けるジャック本人は緊張しながらも自信を持っている様子だが、父フィリップは平静を装ってはいるが眉をヒクヒクさせているので内心ではかなり心配しているようだ‥。

 正直に言うと父フィリップは心配な事や不安な事が有ると「眉をヒクヒク」させる癖が有るので直ぐに分かってしまうのである。


 そんなフィリップを見たマリーナは「あらあら、いつもの癖出てるわよ~。」と軽く指摘をしていた。

 それにしても今日はエドガー兄が凄く大人しい…体調でも悪いのであろうか?


 「エドガーにいさま、今日はいつもより元気が無いですが体調でも悪いのですか?」 と俺は軽く弄ってみる事にした。


 「うるせぇ、黙ってろ…。」 前世の何処かで聞いたフレーズだが… それにしてもいつものエドガー兄と違い文句の数もいつもより少ない。


 「今回エドガーにいさまが祝福の儀を受ける訳では無いのですよ?ジャックにいさまを心配したり、にいさま本人が緊張したりするのは仕方ないですが、エドガーにいさまが普段通り元気じゃないと家族みんなが心配して元気でいられなくなります。」


 更に煽ってみたが、エドガー兄からは軽く睨まれただけで何も返事が返って来ない…。 ――こりゃあ相当重症だな…。


 そんなこんなで少しでも家族の雰囲気を良くする為に色々試してみたが意味が無かった。 それ程この世界の人々にとって「祝福の儀」が重要なのだろう。


 30分程馬車を走らせていると馬車の外が少し騒がしくなってきた。 馬車の窓を開けてみると道には沢山の子供連れの家族が教会に向かって歩いていた。

 みな祝福の儀を受ける家族なのだろう、誰もが緊張した面持ちで話していた。


 更に10分程経ち教会に到着し、馬車を降りるとそこには真っ白な教会があった。


 教会の建物自体は真っ白でそこまで大きくはないが、縦に長い長方形かつ奥行きが少し膨らんでいる形をしている建物で、見た感じではデュフォール家の屋敷よりも小さいが凄く綺麗で美しい建造物だと感じた。


 教会に到着すると神父とシスターらしき2人が、馬車を降りるフィリップを見つけると駆け寄ってきた。

 神父らしき男性はチョビ髭のおじいさんで縦に長い立襟の黒い祭服を上品に着こなしており、シスターらしき女性は頭まで被ったローブに似た黒と白の修道服を着ており20代と思われる顔立ちの女性だった。


 「お待ちしておりましたスタンベルク伯爵様とそのご家族様。 既に此方で席をご用意しておりますのでご案内させて頂きます。」 と神父さんが手早く教会内に案内してくれた。


 教会に入ると、前世で言う「カト〇ック教会」の様な中央に道があり、その左右に人々が座る席が並び道の一番奥に豪華な祭壇が存在しており、いわゆる「礼拝堂」であった。

 祭壇の中央には『大地の女神ディーネ』の石像が安置されており、その祭壇の壁にはステンドグラス風のガラス張りで光が差し込みかなり幻想的な空間になっていた。


 神父に案内されたデュフォール家は、祭壇が目の前にある最前列の席に案内され席に着くと先ほどのシスターらしき女性がフィリップの目の前で膝をついた。


 「本日の『祝福の儀』を執り行わせて頂きますこの教会司祭のライラと申します。 神聖属性使いに恥じぬよう女神様の使いとしてお役目を果たしますので何卒宜しくお願い致します。 また本日の『祝福の儀』の進行についてですが…」

 「ライラ」と名乗る司祭の女性がフィリップに今年の『祝福の儀』の進行について説明していた。


 フィリップが説明を受けている最中教会の入り口が騒がしくなり見てみると、神父の指示により子供連れの家族が続々と教会に入り席に案内されていた。

 どうやらリネレー村の祝福の儀の参加者は、祝福を受ける順番が既に決まっているらしくその順番通りの席順に座らされていた。

 それでも教会に全員は入りきらず、協会の外には列が出来ていた。 リネレー村が寒冷な地域でもこの世界の8月は流石に暑いので、日向である教会の外に並ぶ人々は直射日光を受け続けてしまうので長時間の日向は辛そうだった。

 ――これはリネレー村に住んでいる人達の為にも是正が必要だな…フィリップ父様にでも後で言わないとだな。でも父様が対応してくれる可能性は低い気がする…だってこの世界の貴族は「クソッタレ」な性格をしているからね、父様に断れた時の事を考えておくとするか…。

 それにしてもこの世界は不便過ぎるんだよなぁ、民衆に対して何も考えていない。 スタンベルクとリネレー村を任されてる父様や母様のお陰でまだ他の地域よりかは良くなってはいるが、前世の世界を知る俺にとっては社会のレベルが低すぎる。

 俺はこの世界の治安や政治的政策について思案していると、どうやら祝福の儀が始まるらしく周りが静かになった。


 祭壇に神父と司祭が立ち司祭であるライラが発言をする。


 「この度7歳になり祝福の儀を受けるご本人様及びご家族様、誠におめでとうございます。 これより前エレンティア期8007年度、大地の女神ディーネ様の力を授かる『祝福の儀』を執り行います。 女神様から頂いた力を大切にし、女神様の意思に反しない人生を歩む事を心より願っております。 また儀式中『女神の門』が開かれます、順番にお呼び致しますので名前が呼ばれたら速やかに『女神の門』の前で跪き、女神様に両手を握り祈りを捧げて下さい。」

 司祭ライラは丁寧に説明しており如何にも聖職者って感じだ。


 「では今から『女神の門』を開きます、『グラトゥールホーリーゲート!』」

 ライラが唱えると祭壇上で「サァーーー」と柔らかな音が鳴り続けるとともに白い光が発生し、少しずつ周りを光で飲み込んでいく。 ――おおっ!? 初めての光景で心躍りながらも必死に目の前の光景を目に焼き付ける。 それにしてもまぶしすぎるぞ…太〇拳か?

 その白い光が膨れ上がると同時に教会の内部全体に広がり始める。


 白い光に包まれる事に一瞬恐怖を感じたが他の人は誰も微動だにせず、ただただ祈り続けているので大丈夫なのだろう、皆無言のまま白い光に包まれていく‥。


 そして教会が光に包まれ「カァーーー」というひときわ高い音が鳴り終わると同時に光が収まり、目の前の祭壇には白いミスト(霧)で包まれた金色に淡く輝く『女神の門』が出現していた。


 その門の大きさは3メートル位の大きさで見た目は前世の「凱〇門」によく似ており、門の両側の支柱には子供を抱きかかえている女神ディーネをかたどった模様をが刻まれており、門の中は青白い光が渦巻いており先は全く見えない。

 そんな美しくも幻想的な門を目の当たりにし、俺はこの世界の魔法の凄さを再認識すると同時に新たな目標を見つけたのであった。



 そして祝福の儀が本格的に始まった。


 司祭ライラは一人ずつ祭壇の上に呼び、呼ばれた子供は『女神の門』の前で跪き首を垂れて祈りを捧げる。

 すると『女神の門』の青白い渦の中から緑色の光が出現し、祈りを捧げる子供に光が降り注ぎ「カッ!!」っと音がした後その光はその子供に溶け込んでいった。

 ライラは子供に光が溶け込むのを確認すると、『心理眼』を唱えステータスを確認し書類2枚に『テレスクリン』という念写魔法を唱える。 そしてステータスが書き込まれた2枚の書類の内の1枚を本人に渡しながらその場で発言した。


 「レグルス様ご子息のユーリ様の固有スキルは【狩猟戦士】です! 戦える狩猟であり狩猟スキルの中では上位のスキルです!」


 ――ええ?この場で公表するのか?悪いスキルだったらただの公開処刑じゃないか!? 俺の家族が異常なまで緊張していた理由がここで判明した…。


 「良かった!これで俺の跡を継げるな!しかも狩猟よりも良い戦士付きじゃないか!」 固有スキルを聞いた子供とその家族は笑顔で抱き合っていた。


 成程、確かにただの「狩猟」のみと比べて戦闘スキルの「戦士」が付いた「狩猟戦士」は当たりなのかもしれない…。それにあの家族の反応だと遺伝したらしい。



 その後も続々と固有スキルを会得していったが正直見るに堪えないものだった。


 良いスキルを貰えた家族は問題無いのだが、明らかに悪いスキルを貰った子供は親から怒られ周囲から悲しまれたり、良いスキルを貰った家族からは見下され蔑まれる…。 中には暴言を吐く者まで存在していた。 ――なんかもう根本的に間違ってる気がする…


 当たりハズレ抜きで観察して分かった事なのだが、『女神の門』から出現し子供に降り注ぐ光の色はそれぞれ違う事が分かった。


 因みに長男ジャックは伯爵家のご子息の為、一番最後に祝福を受けるらしい。

 ジャック兄を見るとずっと下を向いたまま微動だにしない…。 ――ヒエッ… ジャックのプレッシャーの重さは計り知れないだろう、マジでジャック兄が心配だ…。



 祝福の儀が始まってから5時間以上が経過し、既に54人が祝福を終えていた。


 司祭ライラも『心理眼』や『テレスクリン』の使い過ぎで途中で『エーテル水』らしき物の飲みながらも絶えず魔法をかけていた。 もう見るからに疲れの色が顔に出ている…。 ――よくMP持ったよな、大したもんだ。


 今回の祝福の儀で、今の所俺が見てきたスキルの中で良スキルっぽいと思ったスキルは【鉱石大商人】【魔弓戦士】【雲の魔術師】【黒煙の騎士】の4種類だけだった。

 ――良スキルっぽいのは14人に1人か…それでも「明らかに良いスキル」っていうのは無かった。 この世界には突出して良いスキル所持者は少ないのかもしれない…。



 そしてとうとう最後であるジャックが呼ばれた。



 「スタンベルク伯爵、フィリップ様ご子息のジャック様祭壇までお越しください。」


 「はい!」 俯いていたジャックは覚悟を決めると元気よく返事しながら祭壇に上がり『女神の門』の前で跪き、祈りを捧げる。

 父や母、エドガー兄も一生懸命に祈っていた。


 すると『女神の門』の青白い渦の中からそれぞれ色の違う7個の光が出現した。

 今まで1人1色しか現れなかった光が7個同時に現れる異様な光景から、教会の中から「おお!?」とざわめきが聞こえる。


 その7色の光はまるで虹のように円を描きながらジャックの体に溶けていき消えていった。

 その神秘的な光景に参列者はジャックのスキルに期待が膨らみ、更にざわめきが大きくなる…。


 ライラは唱えた。 「心理眼!…………えっ!?」 どうやら司祭ライラが驚いているようである。

 もう家族は当たりを確信していた。 フィリップやジャックは自信を持って司祭ライラを見つめている。


 そしてその時が来た。


 「スタンベルク伯爵、フィリップ様ご子息のジャック様の固有スキルは~ ――――――――

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