第9話

拝啓

ルナ姉さん

僕は、疲れました。もうゴールしていいよね。うん。本当に疲れました。

敬具

僕は、この都市、パラディンを実質的に統治し始めて5年が経った。

何とかやってはいるが、正直エリカと仮称シルバーの恩恵が大きい。

彼女たちが姿を見せるのはかなり稀である。さらに、方や竜の神様的存在、もう片方はヴァンパイアの真祖。崇拝するものもいる存在だ。


「アルト。暇だから少し、散歩してくるぞ。」


「今日は、パーティーがあるのであまり遠くに行かないでくださいね。」


「分かっているよ。」


シルバーは気晴らしに外に出かけたようだ。

今日は、この年に彼女たちが降臨して5周年を祝うパーティーだ。まぁ、町の人が勝手に出店をしたり、劇をしていたりとしているのだがね。みんなが楽しそうならそれは大いに結構。


僕は、今日も忙しく政務をこなす。


「アルト君。調子はどう?」


「エリカさん。何とか、こなしている感じだよ。」


「そうね。あなたは確かに才能は無いわね。ただ、知っているだけ。それを使って、いえそれに沿って辿っているだけ。逆に言うと安定して統治できる。」


「そうですね。今は、みんなの力が大きいところに依存しているから、もう少し考えないとね。」


「私からしてみれば、私より遥かにうまく立ち回っているわ。」


彼女なりの褒め言葉なのだろう。ありがたく受け取っておこう。


「そうだわ。これについて君の意見を聞きたいかったの。」


一冊の本を机の上に置いた。どうやら、新しい魔法の理論のようだ。


「これは。」


「核融合炉の魔法的可能性の理論と実験の成果だそうだ。」


「成功したようだが、維持が出来なく、高レベルな魔法師を必要とするか。」


まだ、実験レベルの話というわけか。実用レベルに達してないと。

しかしながらこれは魔法のレベルを1つ上げることは間違いない。


「アルト君。これを見てみて。」


エリカの示したところを見るとそこにはウルの名前がこの理論と実験の主任として載っていた。


「まさか、彼女がこれを行うとは。というか、君は彼女を知っているとは。」


「彼女に会った時に貴方のことを聞いたわ!」


エリカは豊満な胸を見せつけるようにさらに胸を張った。

あまりそういうことを気にしていないようだけど、目のやり場に困る。


「彼女にこれについて聞いたのか?」


「そうよ!でも、周りの人たちはダメね。彼女の教え子はまだいいけど、他の人はダメだわ。」


そう。彼女がやっていることは、戦国時代に相対性理論について語るようなものだ。

私の場合は今の魔法理論を拡張したまで。彼女はその拡張に私の知識と彼女の考察によってなり得ていて他の人を置いてけぼりにしてしまっている。

天才とは格も不幸な存在になってしまうのだろう。


私は少し思案に耽るとドアをノックする音がした。


「アルト様。お客様がお見えになりました。こちらにお通ししますか?」


「客室で構わないよ。」


「承知しました。」


「私は退散するわね。」


転移魔法で帰って行った。転移魔法は最近やっと使えるようになったが、やはり魔力の消費量が多く連発できないという点と距離が遠くなるほど消費量が自乗化するのが問題である。



私は、客室を開けたことを後悔するだろう。

その絶望の扉を開けた。


「お待たせしました。」


「やぁ。アルト君。」


私は、なぜこいつがいるのか不思議でならない。


「なんだ。私がいることが不快か?」


「いや。そうではないが、よく里から出られたと思って。」


「君が里からいなくなって、私の役目も無くなったからだね。」


彼女は、エルフの次期族長候補のサレーネ。本当なら今頃族長としての修行を行なっているはずだが。


「私は、族長候補から外れたわ。」


「なぁ!」


「あら、貴方が外から出ていった時点で私から選択肢は無くなったわ。」


どうやら彼女もめんどくさい女の1人のようだ。






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