問題:「これは誰の台詞でしょうか?」
会話文って書いていて楽しいですよね。
キャラクターのかけ合いは作品の見せ場でもあります。
魅力的なキャラクターが紡ぐ言葉の応酬。楽しくないはずがない!
実際、「地の文よりも台詞の方が書いていて楽しい!」と感じる人は多いのではないでしょうか。
私の場合は「キャラクターが勝手にしゃべる」ような感覚に久しくなっていないので、地の文よりも遥かに難産なんですけどね……。しゃべってくれ……(白目)
そんな私にも、会話文がぽんぽん浮かんでいた時期がありました。
書きたい欲に支配されて、その欲だけで20万字を書いたモンスター処女作、未完。
――文法? ルール? 知るか! 書きたいように書く!
すごく乱暴な考え方で、ただ欲望のままに書き殴ってしまいました。
そしてある程度書き慣れて自分の作品を俯瞰で読めるようになった時に気づいた、あまりの稚拙さ。読んでくださった方々やキャラクターたちに対して申し訳ないとすら思いました。
プロットもないし導線もへたくそだしストーリーの強弱レバーぶっ壊れてるし。
当然、伸びるわけもなく。
何年も大切に温めてきたお話なのに、自分の力不足が憎いです。
とまぁ、本題はここではなくて!
その問題の処女作、書いている最中は何度も読み返して「キャラクターが魅力的でかけ合いもおもしろいのに、何で伸びないんだろう~」なんて、頭すっからかんなことを本気で思っていたのです。
ゴリラ扱いされている女騎士ヒロインが元婚約者の殿下ととにかく顔がイイ義兄と腕っぷしが強い幼馴染にブンブン振り回されるお話です。一応異世界恋愛枠。
ヒロインの周囲には殿下の現婚約者でもある女狐(ライバル)や個性豊かな騎士団員も揃えました。イケボショタオネェ枠なんかもいます。
「これだけ濃ゆいキャラたちを駆使しても伸びないなんて、やっぱりWEB小説界って厳しい世界だな~」
昔の私よ、それは違う。
しばらく別作品を書いていて、久々に処女作を読み返そうと思い数か月ぶりにページを開いて、愕然としました。
――誰が何をしゃべっているのか、わからない!
衝撃でした。
書いている当時はあれだけ色鮮やかに生き生きと動いていたキャラクターたちの動きが、とてつもなくぎこちない。
なんで!? どうして!? これじゃあキャラクターの魅力なんて全然伝わらないよ!!
答えは単純。
作者による脳内補完が完璧なゆえの圧倒的な描写不足です。
まぁ、読まれない理由は台詞だけではないのですが(遠い目)
何はともかく、こちらをご覧ください。
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登場人物は4人。
①団内報を作ろうとするノース
②その場に居合わせたダンテ
③いかついロールズ
④薬物中毒者ゼタ
誰が何を言っているのか思い浮かべながら読んでみてください。
「団内報だぁ?」
「ああ。だから団員に師団長たちの印象について聞いて回っていたんだ」
「ふひっ、誰が一番人気か賭けようぜぇ?」
「そんなの、ウチのボスの一人勝ちだろうが」
「ロールズは随分とテン師団長に心酔しているな?」
「俺は純粋に腕っ節の強い奴が好きだ! それで言えばあの人は間違いなく最高の上司だな」
「まぁ、確かに」
ロールズとダンテの物言いに、私の中で謎の対抗心に火が付いた。
「それを言うならアイシャ様だって、生前のルーカス様を彷彿とさせるグリツェラ家伝統の銀髪や凜とした佇まいが素晴らしいと思わないか?」
「お嬢はもうちっと胸と尻が成長しねぇと何とも言えねぇな」
「貴様、アイシャ様を下品な目で見るな! その不敬な目玉、今すぐ抉り取ってやる!」
「でへへェ、おれぁあの柔らかそうな脚が好きィ~、踏まれてみてぇ~」
「良い趣味してんなぁゼタァ!『くっ殺』とか言わせてみてぇよなぁ、ガハハハ!」
「どちらかと言えばくっ殺よりドスの利いた声で『ブッ殺す』って言って本当に息の根止めそうだけど」
「「わかるぅ~」」
「……お前らみたいなクズ共に同意を求めた私が浅はかだった。全員ここで死ね。ダンテ、君もだ」
「何で!?」
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予備知識ばっちりで解像度が高い状態の私はスラスラ読めました。
でも、初見だと誰の台詞かわかりにくくないですか……?
作者が知っていることの細部までは、読者様は知らないのです。
こんな風に登場人物が多く会話が連続する場合は、特に注意が必要です。
読む人を置き去りにしていませんか?
その会話文は自分以外の誰かが読んだ時に、きちんと伝わりますか?
独り善がりな書き分けになっていませんか?
台詞の書き分けは色んなやり方があると思います。
①「~が○○と言った」のように、地の文で明確にする。
最も簡単で手っ取り早い方法です。でも多用すると単調になりやすいので工夫が必要。
②キャラクターの話し方に特徴をつける。
わかりやすいのだと語尾ですよね。「~でヤンス」とか(令和だぞ)。
③登場人物を減らす。
元も子もないけど一番効果的かも。
2人までなら描写が少なくてもおおむね分かります。
3人以上になると書き分けの難易度が爆上がりします。とにかく管理が大変。さっきの例文みたいに。
多人数の場合は描写に相当気を使わないと、読む人が迷子になってしまいます。
④脚本形式にする。
これは好みが分かれます。
どうしても登場人物をたくさん出したいけど描写は極力したくないと言う時におすすめです。
A「おはようございます」
B「おはよう」
C「おっせぇよ」
こんな感じ。
おまけやあとがきのちょこっとしたところならいいけど、全編これは……うーん、私の目指すところと違う。
会話文って、書いていて気持ちよくなっちゃうんです。
脳内でキャラクターが勝手にしゃべり出したら嬉しくなってキーボードをタカタカターン!(豪速)と叩いてしまう。
だから、「会話文こそ寝かせた方がいいな」と最近ようやく気づきました。
予備知識が薄れた頃に読み返しても理解できるかどうかが、読者様への本当の伝達力だと思います。
せっかく思いついた魅力手なキャラクターたちを、きちんとお届けしないと。
ちなみにさっきの例文、今書き直すならこうなります。
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「団内報だぁ?」
スキンヘッドのロールズが鼻をほじりながら訝し気に言う。
「ああ。だから団員に師団長たちの印象について聞いて回っていたんだ」
「ふひっ、誰が一番人気か賭けようぜぇ?」
相変わらずの薬中ゼタが、アヒャアヒャと腹立たしい笑みを浮かべた。
そもそも、団内で賭け事は禁止だと言ってるだろ!
「そんなの、ウチのボスの一人勝ちだろうが」
「……ロールズは随分とテン師団長に心酔しているようだな?」
悪の吹き溜まりのような場所にいた彼がそこまで全幅の信頼を寄せるようになるなんて、どういう風の吹き回しなんだろう。
「俺は純粋に腕っ節の強い奴が好きだ! それで言えばあの人は間違いなく最高の上司だな」
「まぁ、確かに」
ご機嫌に言い切るロールズに、珍しくダンテが同意を示す。
その様子を見て、謎の対抗心に火が付いた。
「それを言うならアイシャ様だって、生前のルーカス様を彷彿とさせるグリツェラ家伝統の銀髪や凜とした佇まいが素晴らしいと思わないか?」
「お嬢はもうちっと胸と尻が成長しねぇと何とも言えねぇな」
「あ゛? 貴様、アイシャ様を下品な目で見るな! その不敬な目玉、今すぐ抉り取ってやる!」
ツルピカ頭の戯言を無視できず、思わず腰の剣に手を伸ばそうとしたが――そうだ、謹慎期間中でアイシャ様に取り上げられていたんだった。
フリフリエプロンを着た肩をわなわなと震わせる間にも、好き勝手な妄言は続く。
「でへへェ、おれぁあの柔らかそうな脚が好きィ~、踏まれてみてぇ~」
「良い趣味してんなぁゼタァ! 『くっ殺』とか言わせてみてぇよなぁ、ガハハハ!」
「どちらかと言えばくっ殺よりドスの利いた声で『ブッ殺す』って言って本当に息の根止めそうだけど」
「「わかるぅ~」」
第二師団きっての問題児二人に同調するダンテ。ぷっつん、と耳の奥で細い糸が切れた。
「……お前らみたいなクズ共に同意を求めた私が浅はかだった。全員ここで死ね。ダンテ、君もだ」
「何で!?」
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どうでしょう?
少しはわかりやすくなってる……はず。なっててほしい(切実)
細かく描写しようとすると、どうしても文字数は増えます。
だから改行を使って、文字の圧を少しでも分散させました。
これが無駄な文字数ではないと信じて、これからも丁寧に描写していきたいです。
忘れた頃に自分へ出題してみるといいと思います。
「これは誰の台詞でしょうか?」って。
蛇足。
こんな細かいことに気を使わなくても、読まれる作品は読まれます。
どうしてなのか考え始めてしまうと筆にヒビが入りそうなので、だから私は自分の創作とただひたすら向き合うのです。
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