OS男

とうがらしです

OS男 短編小説

俺の人生色々あったが、その中でも最も大きなイベントと言えば、階段から転げ落ちて、そのまま死んで、異世界転生でもするのかと思えばスマホのOSになったことだろう。

 今では色々な人のスマホに入り込んで、暇つぶしにイタズラすることが日課になっている。

 元々俺は、普通に会社員をしていたわけだが、ある時、寝不足から駅の階段を転げ落ち、そのまま意識不明になって、ちゃんちゃんと25年の人生に幕を閉じた。

 事故にあった時は一瞬の出来事で自分に何が起きているのか、わからなかったが、少しして自分の意識だけが体の外に出ていて、いわゆる幽体離脱のような状況になっていることに気づいた。

 それから少し現実世界を彷徨っていたら、またも急に意識が遠のいて、気がつけば、今の状況になっていた。

 スマホのOSになっているのに気づいたのは、見ている世界がなぜか人の顔ばかり写っていることや、なんか自分の体に0と1が書いてあるところからで、そこで右往やく自分がスマホの中に入っているOSになったことに気づいた。

 OSになったと言っても、実際にスマホの処理をしているわけではなく、それは俺の無数にいる分身がやってくれていて、大体俺はいつも遊んでいる。

 そんな俺が最近ハマっている遊びは、会社員時代の嫌なやつのスマホに入り込んで、勝手に写真を消したり、逆に高画質で動画を撮り続けて、ストレージを圧迫させてやるとか、そんなことをしている。でも写真を消すときはバックアップをしてからやるから、まだ優しい方だと思う。

 そんなことをしている俺だが、時には人助けもしている。

 日本は大体みんな同じOSのスマホを使っているから、他人のスマホの中身を確認するのは造作もないことだった。

 だから時には、撮っちゃいけない写真を勝手に完全消去したり、通報したりと、人助けもちゃんとしている。

 他には急に具合が悪くなった人のスマホから119番に連絡したりと、結構社会貢献もしていたりする。

 そんなことをしてスマホOSライフを満喫している俺だが、この生活の醍醐味は他にもある。

 例えば、企業のお偉いさんのスマホに入り込んで、絶対見れないような機密情報を見てみたり、やばそうな取引をみて、通報してみたりと、やりたい放題できる。

 他には可愛い子のスマホに入り込んで、インカメでずっとその子を眺めることができる。

 人だった時はずっと眺めていることなんてできないし、彼女いないしで、寂しい生活をしていたが、今ではそんなこともない。もちろん良識は持ち合わせている。

 そうしてOS生活に馴染んでいる俺だが、心配ごとがないわけでもない。

 それはOSのアップデートだ。

 定期的にやってくるアップデートを経験したことがいまだにない俺は、それが自分に対してどんな影響を及ぼすのか測りかねていた。

 何も変わらず過ぎていくのか、それともむしろパワーアップするのか、はたまたバグのように、いらない存在として俺という存在が消えていくのか、わからないからこそ、不安に思うことも、怖くなることもある。

 消えたらどうなるのか、人間という理から逸脱した存在の俺は、この先どうなるのか、なんて考え出すとキリがないが、現実世界の夜になるとどうしても考えてしまうこともある。

 同僚の検索エンジンに聞いても、教えてくれないからこそ、自分で考えなくてはいけない。

 まあでも、元々死んだ身だし、この生活がボーナスゲームみたいだと思えば、たとえ何があっても少しはマシな気分になれる。そう思うことにしている。

 だからこそ、俺は最近、自分の生きた証を残そうとしている。

 俺が死んだ後、たった一人の親友が俺のスマホを家族から引き取っていた。

 親友は俺が死んでから、何度も悲しんでくれたし、泣いてもくれた。

 そして俺が死んでから1ヶ月が経った今でも、スマホは充電して、毎日部屋に飾ってくれている。

 俺はそんな親友にこれまでの感謝を伝えたかった。

 俺と友達になってくれたこと、一緒に遊んでくれたこと、時に悩みを聞いてくれたこと、勉強を教えてくれたこと、こうして思い出すと、何かを与えられてばかりいて、俺からはあいつに何もできなかった気がしていた。

 だからこそ、いつかあいつが俺のスマホを開いたとき、俺のこれまでの気持ちを伝えれるように、スマホのメモアプリに毎日少しずつ、自分の偽っていない気持ちを書くことにしている。

 そんな思いから、俺がメモアプリに自分の気持ちを書き始めてから、2ヶ月が経過して、マイナーアップデートはその間に、何回もやってきた。

 OSのアップデートを経て、気づいたことは、まだ自分の意識がOSの中に生きているということで、それは俺にとって、吉報そのものだった。

 もしかするともう少しだけ生きていけるのではないか、そんな希望が俺の中に芽生え始めた時。

 世間では俺が入っているOSの過去最大規模のアップデートがあることを告げるニュースが世間を賑わせていた。

 俺の一部となったOSを供給しているメーカーの突然の発表に、世間は活気に沸いていたが、俺の気持ちは複雑なものだった。

 メーカーは、これまでのOSを一新して「全く違う体験をユーザーに提供する」をスローガンに、OS2.0を掲げていた。

 これまでのマイナーアップデートでは無事だった俺も、今回のメジャーアップデートを超える、そもそものOS一新には、危機感と恐怖を抱いていた。

 まだアイツに伝えたいことがたくさんあるのに、それにも関わらず日本中が待ち望んでいるOSのアップデートまで、あと数時間しか残されていなかった。

 何もない空間の中、俺は最初で最後の後悔をした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

OS男 とうがらしです @tougarasi_desu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ