第4話
風呂を済ませて自室に戻るとそのままベッドに倒れ込んだ。
黛の前で滑稽な姿は晒すし、楓からはディスられるしで散々な一日だ。
こんな日は早いとこ夜見さんとのイチャイチャデートシーンを読み返して心の安定を保たなければ。
そう思って、起き上がろうとした時にふと、自分が頭を乗せている枕にちょっとした違和感があったので、まさかと思った。
楓め、本当に入れてやがった。
枕をひっくり返すとそこには楓のオススメのラブコメである『義妹に間違ってプロポーズしてしまったら「はい」と返事がきた俺はどうすればいい』通称『まちプロ』の最新刊が置かれていた。
まちプロは同じクラスの男女が親の再婚によって義理の兄妹になる話で、兄が義妹への初メールで間違ってプロポーズの言葉を送ってしまうというラブコメだ。
楓からの布教活動が激しい作品で一応、俺も前作までは読んでいる。
キツネ娘とのあまあま生活が最高な件の夜見さんも好きだけど、まちプロのヒロインのクロエちゃんもまた良い。金髪・ロリ・巨乳というオールスターな容姿と健気な姿に心惹かれるものだ。
それにしても、これに気付かずに寝ていたらいったいどんな夢を見ていたことか。
そう考えた瞬間に意図せず、まちプロの一場面を俺と楓のキャスティングで妄想してしまった。
お風呂上がりのクロエ(楓)は主人公(俺)の部屋にやって来て話をしている。
話の途中、勇気を振り絞って告白した楓は座っていた椅子から思わず立ち上がるも、勢いが余ってしまいベッドに腰掛けていた俺を押し倒してしまう。
鼻と鼻が触れ合うほど接近する二人。
そして、お決まりのように俺の手は楓の柔らかい場所を鷲掴みしてしまい……。
「兄さん、何をそんなに地獄の釜が開いた時のような顔をしているのですか?」
「か、楓!?」
楓の声によって妄想の世界から一気に
もちろん、現実では楓が俺を押し倒してなどいない。
「ノックをしたのに返事がなかったので勝手に入って来たのですが」
ノックの意味知ってる?
「返事がないからって勝手に入らないでくれよ。それに俺がお風呂に入っている間に忍び込んでまちプロまで仕込んだだろ」
「忍び込んだなんて、まるで楓が悪いことをしたみたいじゃないですか。楓は兄さんがお風呂に入ったのを確認してから堂々と兄さんの部屋に入って、お話したとおりまちプロを置いただけです」
罪の意識がないって怖い。
「堂々としていたらいいってもんじゃないから。それで、今は何をしに来たんだ」
「実は『キツネ娘とのあまあま生活が最高な件』の最新巻を探していまして。兄さんは昨日購入済みですよね。まだ、後半は読んでいませんか?」
俺の買い物履歴ってどっかから漏れているの。
お兄ちゃん、時々、楓ことが怖くなるよ。
「まだ、序盤までしか読んでいないけど、貸して欲しいなら俺が読み終わるまで待ってくれ」
「いいえ、待てません。というよりも兄さんが読み終わる前に回収しなければいけません」
「回収ってどういうことだよ」
「実はですね。楓のたしかな情報筋によると最新巻の『キツネ娘とのあまあま生活が最高な件』は後半にムフフ展開があるとのことだからです。現実逃避するように読んでいる兄さんがそんなムフフ展開まで読みだしたら、もう、こちらの世界には戻って来られないのではないかと楓は心配しているのです」
楓のなかでの俺の評価はいったいどんなものになっているのだろう。
あと、女子中学生がムフフな展開とか使わないの。アラフォーのおっさんみたいだから。
それにしても、あまあま生活がついにムフフ展開に突入するとは……、生きていてよかった。
「楓、安心しろ。俺は楓より大人だからそんなムフフ展開を読んだとしても平常心のままだ。現実と空想の世界の区別だってついている。そうだ、まちプロも読んでおくから来週の週末にケーキでも食べながらまちプロの感想を一緒に話そう」
「そ、そのぐらいで楓は買収されませんが、本を回収しては兄さんがもっとアンダーグラウンドな世界に進んでしまうかもしれませんから、今回はよしということにします。ちなみにケーキはフルーツがたくさん乗っているものがいいです」
今、思いっ切り唾をごくりと飲んだだろ。
ケーキの出費は痛いが背に腹は代えられぬ。
そうと決まれば、楓にはさっさと自分の部屋に戻ってもらって、あまあま生活の続きを読まなければ。
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次回が最終話です。最後までよろしくお願いします。
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次回更新は7月14日午前6時です。
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