殺 6/6

 地獄通りに向かった僕は、以前に蕩坂さんを見つけた路地裏に入っていく。

 後ろからは、ケンイチがビクビクとしながら、ついてきた。


 路地裏を真っ直ぐ進んでいくが、蕩坂さんの姿は見当たらない。


「いない。どこだろう」

「もしかして、あそこじゃねえか?」


 ケンイチは通路に並ぶ、バーの内の一つを指す。

 そこはピンクの明かりが点いて、ギラギラとした、いかにも怪しげな店だった。


 看板には店名が英語で書かれているが、さっぱり読めない。

 けど、店の外装には見覚えがあった。


 以前、ケンイチが見せてくれた写真。

 ケツを揉まれながら、入店した店だ。


「僕が、覗いてくる。ケンイチは、すぐに通報する準備をお願い」

「わかった」


 店の前には、ガタイの良い男がいた。

 縄張りって感じ。


「ヘイ」と、声を掛けられる。


 あとは何言ってんのか、サッパリで、適当に「イェア」と返し、無理やり扉を開けようとする。


 だが、すぐに止められ、今度は怒鳴ってきた。


「く、くそぉ。どうすればいいんだ」


 ガタガタ震える手を押さえ、別の入り口を探すしかないのか、と考える。


 目を剥いて、突き飛ばしてくる色黒の男。

 今にも殴りかかってきそうな勢いなので、ビクついてしまう。


 拳を振り上げ、さらに威嚇してきたので、僕は両手を挙げた。


「わかった。わかりました」


 他を当たるしかないか。

 そう思い、振り返る。


 ――ビュン。


 頭上から風を切る音がした。

 直後に、『ゴチン』と鈍い音が鳴る。

 傍には、後をついてきたカンナさんがいて、ゾッとするほど冷たい目をしていた。


 恐る恐る振り返ると、黒人の男は顔を押さえ、片手を突いている。


「どいて」


 言われるまま、その場を離れる。

 すると、正面に立ったカンナさんは、狙いを定めて、まるでゴルフクラブのように、男の頭をフルスイングでぶん殴った。


「そこにいて」

「……お、押忍」


 容赦ない暴力を目の当たりにして、この人だけは敵に回してはいけないな、と痛感した。


 扉の前で、カンナさんは色とりどりの玉を取り出した。


「なんだ、あれ?」

「煙玉~」


 いつの間にか、後ろに立っていたアノンさんが代わりに説明してくれる。


「はい。これ使ってね」


 渡されたのはスタンガン。

 アノンさんは、片手にナイフを持っていた。


「出てくる人を、片っ端からヤっちゃってね」

「は?」


 言ってる意味が分からなかったが、カンナさんが大量の煙玉に火を点けて、扉を開けて中に放り込む。


 すると、中からは悲鳴が上がる。

 それを聞いたカンナさんは戻ってくるときに、さらに2つの煙玉に火を点けて、扉の前に放り投げた。


 何やってるんだろう。

 僕がそう思っていると、中からは『ジリリリリ』とベルの音が鳴る。


 左にアノンさん。

 右にカンナさんと僕。


 バーの入り口を凝視する事、数分。

 慌ただしい様子で、中からは人が出てきた。

 どれも外国語で何を言ってるか分からないが、その様子を見るに火事でもあったのか、というリアクションだった。


「やるよぉ!」


 合図を送り、アノンさんは出てきたデブの男の足を


「ちょぉ!」


 躊躇いがない。

 容赦がない。

 本当に、文字通りの襲撃である。


「ボーっとすんな! やれ!」

「ひ、ひい!」


 自棄になり、僕はおっぱい丸出しの女の人にスタンガンを当てる。

 叩かれようが、何しようが、無我夢中で電流を流し、それでも逃げようとすれば、カンナさんが足を引っかけたり、頭を見事にかち割っていた。


 特に大柄の男には、一切の妥協がない。


 顔面は叩くし、足は折る。

 もし、バットを避けようものなら、すかさずカンナさんがナックルで軽く叩き、膝蹴りを何度も顔に当て、逃げ道を塞ぐようにしてバーの前に転がした。


「やるって決めたらさぁ! 加減しちゃダメよ! キャハハハハっ!」


 悪魔だ。


「モリオ! 消防がくるぞ! やべえって!」


 そうだ。

 ベルが鳴ったって事は、警察もワンセットで来るはずだ。


「カンナさん! 警察が来ますよ!」

「うん。……その前に」


 目の前に立つ、無害そうな外国人を思いっきり殴り、カンナさんは口を塞いで中に入っていく。


「な、何をやってるんだ」


 サイレンの音が聞こえ、僕の緊張は極限まで達する。


「早く!」


 そう叫ぶと、中からは二人の人影が見えた。


「急かすな。アノン。行くよ」

「おっけぃ」


 時間にして、数分の出来事。

 カンナさんは逃げ遅れたであろう蕩坂さんの髪を引っ張り、無理やり外に引きずり出してきた。


「は、離して! クソ! 離――」


 抵抗し、怒りを叫ぶ蕩坂さん。

 容赦のないカンナさんは、顔面平手打ちの一発で黙らせた。


 蕩坂さんはカンナさんが担ぐ形で、僕とケンイチはさらに路地裏を縫うようにして、双子をナビする。


 表通りには出ずに、川沿いを歩く形で、人気のない場所に移動することになった。


 当然、予定とは大幅に違う結果となった。

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