初めての 6/6

 神社の水道を借りて、顔を洗った僕はやっと目が見えるようになった。

 ケンイチはすでに満身創痍の状態だったが、「がんばれ、男子」というアノンさんの甘い言葉で、気合だけは取り戻していた。


 それから神社から出て、地獄通りの前にある、自害橋にて僕は一休みした。


 ケンイチとアノンさんは、地図を見て、場所を確認している。


「はぁ、はぁ。……不良なんて、可愛い子以外いらないんだよ」


 どんな時も純粋な欲望は忘れない。

 不良外国人の男は百害あって一利なしなので、本当に消えてほしいと思っている。


 というか、外人に限らず、柄の悪い男は本当に嫌だ。


 欄干らんかんでグッタリとしていると、頭に感触があった。


「頑張ったじゃん」

「へへ。こんな事もあろうかと、護身用グッズ準備しておいたんですよ」


 今月分のお小遣いは、全てリョウマを助けるための道具に使った。

 後悔はしてない。


 元々、一人でアニメやゲームなどを楽しんでいたなら、小遣いの損失は痛手だったろう。


 けど、僕には共に楽しむ仲間がいて、共有できるからこそ、楽しい趣味がとても輝くのだ。

 それを知っている僕らは、友達を助けるための費用は惜しまない。

 買えなかったグッズがあるなら、「お前のせいで買えなかったぞ」と、責めながらも、笑い話にしたかったのだ。


「ていうか、カンナさん。スカートなんですね」


 こういう時、ジャージの方が動きやすいと思ったが、パンツが見えるくらいのミニスカート。


「ズボンの方が、実は邪魔なんだよ。今日、ぶん殴るでしょ」

「生足の方が、いいんすか?」

「ん~、……見られることに抵抗なければ、パンツ一丁の方がやりやすい」


 考え方が脳筋過ぎるよ。

 乙女の嗜みをファイターの思想で掻き消してるよ。


「モリオ」

「あ、はい」


 呼ばれて、振り向く。


「……ん」


 すぐ近くに、カンナさんの顔があった。

 唇には、柔らかくて、温かい感触。

 ついばむように、下唇を吸われ、小さく水音が鳴る。


「モリオは、イジメられてる方が、ずっと可愛い」


 カンナさんの言葉は、告白のようだった。


「あの、……昔の状況と何も変わらないんですが」


 イジメられて喜ぶ奴なんかいない。

 でも、カンナさんの一言は、どこか愛情があって、嫌な気分はしなかった。


 なかなか、良いムードだったので、僕はもしかしたら今日童貞を卒業するんじゃないか、なんて淡い期待を抱いてしまう。


「だからね」


 初めて、おっぱいを吸って、おティンティンを一皮むくのだ。

 なんて考えていたら、カンナさんからどす黒いオーラが噴き出てくる。


「あいつ、……殺すわ」


 ジャンバーのポケットから、ある物を取り出す。

 メリケンサックだった。

 ゴツゴツとした攻撃的なデザインで、これを喧嘩で使うのだから、相手は無事じゃ済まないだろう。

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