ちきゅうは白い 6/3

 準備に時間が掛っているが、何もしないで過ごしてるわけじゃない。

 ケンイチがリョウマと段取りを確認して、蕩坂さんをおびき寄せることを話し合い、僕は双子と情報の共有をしている。


 今日は休みなので、カンナさんのトレーニングに付き合っている。


「だあっ! お、お、だぁぁっ!」


 ミットを持ち、ひたすら蹴りを受けるだけ。

 衝撃が相変わらずすごくて、脇に構えて踏ん張っているのに、力負けして蹴られるたびに倒れてしまう。


「はぁ、はぁ、……きっちぃ」

「休憩するか?」

「うん。するぅ」


 積み上げたタイヤの上に置いた飲み物を口にして、カンナさんはタオルで汗を拭っていた。


「はぁ、……はぁ……」


 白いジャージを着ているのだが、汗で透けて、赤いハイレグが透けて見えていた。


「マジで、ドスケベボディだな」


 尻と太ももが大きいので、ドッシリとした重量感がある。

 見ただけで、それは伝わってきて、あまりの迫力に目を離せなかった。


 そんな風に見ていると、カンナさんが振り向く。


「……好きなの?」

「え、その。何が?」

「こういうパンツ」

「好きか嫌いかで言ったら、愛してます」


 好きの上位互換が自然と飛び出てくるくらいには、僕はハイレグを愛していた。


「ふ~ん」


 カンナさんが飲み物を置くと、僕の所にきた。


 なんだろう。と、見ていると、ジャージに指を引っかけて、聞いてくる。


「み、……見たいか?」

「ええっ!?」


 脳に高圧電流を流された気分だった。


 蕩坂さんが友達のアレをチュパっていた時より。

 昨日、とろける愛撫を受けていた時より。

 親のクレジットカードを黙って使い、エッチなグッズを買ってバレた時よりも、僕は心臓がバクバクと強い脈を打った。


「前に、同じパンツ盗ったから。好きなんだろうな、って」

「……み、見せてください! お願いします!」


 額を地面に擦り付け、その場で正座をする。


 カンナさんはガードが固いけど、アタックがとてつもない。

 尽くすタイプだから、顔を真っ赤にして恥ずかしがりながら、ガンガン攻めてくる。


 さすが尽くすタイプだった。


「シャワー、……浴びてきていい?」

「え、ダメ!」


 興奮状態の僕は、疲れなんて吹っ飛び、食い気味に拒んだ。


「い、今の方がいい。いや、違うな。今の状態がベストなんだ!」

「……変態」

「そんな変態に尽くしてくれてありがとう! 大好き!」


 まずい。

 言葉と心がシンクロし始めている。

 このままだと、本当にカンナさんを好きになってしまう。


 カンナさんは引っかけた指をそのまま下におろす。

 吐息が震えていて、何か言いたげに僕を見つめていた。

 僕の反応が気になるのだろう。


 僕はカンナさんの視線をガン無視して、目の前の光景に手を組んだ。


「あ、あぁ……。なんてことだ……」

「へ、変なとこ、ないと思うけど」


 汗で濡れた太ももは、光沢で筋肉の陰影がハッキリとしていた。

 真ん中には、真っ白くて、柔らかな肉がある。

 さらに、中央には赤いシルクロードが伸びていた。


「ちきゅうって、……白かったんだ」


 かつて、ちきゅうを見た飛行士は言った。

 ちきゅうは、青かったと。


 嘘を吐くんじゃない。

 ちきゅうは、青くなんかない。

 見たことがない奴を侮辱する発言だ。


 そいつの嘘を証明するために、僕は今ちきゅうを見ている。


 雪景色だった。

 雪景色の中に、赤い細道が伸びていて、上に行くに連れて、Yの字に道が分かれている。


 左に行けば近道かもしれない。

 右には面白い景色があるかもしれない。


 でも、違うんだ。

 どの道も、僕が知らないだけで一本に繋がっている。


 風で運ばれてくる空気は蒸れていて、湿っぽかった。

 雨が降るのだろう。

 ならば、曇天に変わる前に、この景色を脳に刻み込んでおくんだ。


「……ふつくしい」

「き、今日は、ここまで」

「待ったぁ!」


 屈んだカンナさんは、ズボンを引き上げようとした。

 しかし、そうはさせなかった。

 僕は股下に頭を置くことで、ズボンの引き上げを妨害する。


「バカ。そんなとこに寝るな!」

「い、嫌だ! だって、僕はさ。今まで、ハイレグは都市伝説なんじゃないか、って自分を疑ってきたんだよ!」

「知るか!」


 ハーフだから、純正の日本人と違って、肌が白い。

 それだけじゃない。


 肉の付き方や骨格からして、全然違う。


 純正の外国人はもっと大きいだろうけど、僕にはカンナさんぐらいがベストだ。


 真下から見たハイレグは、雲の影に覆われた雪景色だ。

 食い込みが激しいので、柔らかなお肉は見えているが、具はちゃんと隠れている。


「あぁぁ、……もぉ、愛してる」

「知ってる」


 僕はハイレグに向かって、素直な気持ちを打ち明ける。


「ずっと前から、ハイレグの事しか見えなかったんだ。寝ても覚めても、僕の前には君がいた。どれだけ恋い焦がれたか」

「……そんなに? 気づかなかったけど」

「君のためなら、僕は死ねる。陰キャ生活を幼稚園時代から送って、辿り着いた理想郷アバロン


 股間の熱さと込み上げる欲望。

 それは他の奴らが抱いている劣情とは違う。


 真っ白な欲望だった。


 人はこんなに純粋な気持ちで、欲望を抱くことができる。

 僕はそれを実感していた。


「あんま、体冷やすと。風邪引くから。続きは、中で」

「いや、このままがいい」

「……馬鹿」


 澄み切った気持ちで、僕は真下からハイレグを見上げていた。

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