陰キャ・マストダイ

陰キャと双子姉妹 6/1

 徐々に暑くなってきて、6月を迎えた。

 この時期は蒸れる季節で、早いけど夏服に切り替わった。


 異常気象のせいだ。

 前までは、ガチガチに制服の切り替える時期が設定されていたが、今では臨機応変に日付を変えているとのこと。


 今日、僕は双子の家にきていた。


 目の前では、スマホで映画を見ているアノンさんがいる。


「お願い。協力してくれませんか?」

「んー、やだ」

「何で!?」


 映画を一時停止すると、マスクをずらし、僕の方をジロっと見てくる。


「あそこ、近々摘発されると思うよ」


 地獄通りのことか。


「どうして、そんな情報を知ってるんです?」

「パパに警官がいてぇ。危ないから近づくな、って言われたの」


 おい、日本。

 どうなっとんじゃい!

 警官がパパ活してんじゃねえか!


「だからぁ、あのビッチ補導されるでしょ」

「それじゃ、ダメだ! おおぅん!」


 首筋を吸われて、変な声が出てしまった。

 カンナさんは今、僕を抱き抱えて、腹を撫でながら首筋に吸い付くという、何ともアレな状態になっていた。


「実際、危ないじゃん。外人とか、一番NGだよ」

「理由はあるのかい?」

「ある。金払わないヤツが多いし。エイズ持ちとか、普通に出歩いて、やりたい放題やってる。そのせいで、変な病気に罹ったら、紹介した子ヤバいじゃん」


 ああ、普通に管理なされてる。

 どうして、その頭の使い方を他に使わなかったんだろう、とはなはだ疑問である。


「アンタも気を付けなよ。あいつら、”日本大好き”ってリップサービス言って、付け込んでくるから。あと、都合悪くなったら、外国語ではぐらかすから、コミュニケーション拒否るんだよね」


 ダルそうにソファへもたれ掛かる。


「カッコいいのは、映画の中だけで~す」


 僕の知らない日常の裏側だろうか。

 知らぬが仏とは言うが、そういう生々しい話を聞くと、金髪ヒロインとかを見る時に、妙な考えが働くから、あまり聞きたくはなかった。


 まあ、二次元は二次元だ。


 リアルはクソッタレの温床と前々から分かっていたし、今更か。


「……チュ……ん~……」

「ほわああああっ! やっべ! 股間がイライラするぅぅ!」


 カンナさんから逃げようとするが、腕力で勝てない。

 暴れる僕の腕を巻き込んで、腹に腕を回し、固定してくるのだ。


 ずっと熱に浮かされたような顔をしているし、少し前とは打って変わって、カンナさんの甘々っぷりが半端なかった。


「だいたい、どうしてあのビッチにこだわんの? 浮気?」

「あぐっ」


 首筋に歯を立てられ、体が硬直していく。


「う、ち、違うって」

「何でよ。言ってみ?」


 誤魔化すのはやめだ。

 心にもないことだが、とびっきりの情熱をのせて、僕は姉妹に話す。


「友達が、……ピンチだったら、動くでしょ」


 アノンさんは、何も言わずに見つめてくる。


「それだけじゃない。蕩坂さんだって、放っておいたらマズいことになる。でも、僕だけじゃ助ける力がないんだ。これは復讐でもあり、救済なんだよ」


 無言でアノンさんが立ち上がる。

 黙って近づいてくるのが怖かった。


「ウチらのこと巻き込んで、危険な目に遭わせるって?」


 足の底で股間を踏まれ、「んもおおっ!」と腹の底から叫んだ。


「アンタ、大概にしないとマジで殺すよ?」

「い、でででっ!」


 股間をグリグリと踏みつけられ、首筋には甘い吐息が当たる。

 まさに、天国と地獄。


「なら、聞くけど。アノンさん。パパ活止める気ないでしょ!」

「それと、これと何の関係があんの?」

「ああっ、くそ! 段々気持ち良くなってきやがった! カンナさん! 乳首を爪でカリカリすんの止めて! もう何のプレイか分からないよ!」


 普段の様子と違って、手つきが優しいから、気分に流されそうになる。


「前に、紹介した子がバックレたって話あったでしょ!? あれ、ぐっ、……スゥゥゥ、……ぷふぅぅぅ……っ。んおっ!?」


 耳元で、「可愛い」と言われ、女の子にまるっきり耐性のない僕は、頭が蕩けそうになった。

 だが、今は真剣な話の最中だ。


 心を鬼にしないといけない。


「あれ、んだ! ってええな!」


 ぎゅぅ、と股間を強く踏みつけられ、痛みに叫んだ。


「……あー……やっぱ……ね」


 力なく、僕を見下ろすアノンさん。

 目がどす黒くなっていて、負のオーラが半端なかった。


「僕の友達が調べたんだよ。蕩坂さんが、アノンさん達をハメたのは、リョウマを寝取ることだけじゃなかった。アノンさんが、特に邪魔だったんだよ。だから」


 アノンさんがしゃがみ、僕の目を真っ直ぐに見てくる。


「で、アンタがそこまで説得してくる、ってことはさ。考えがあって、言ってんの?」

「ある。さっき、アノンさんから摘発の情報を手に入れて、より一層やりやすくなったくらいだ」


 僕の考えていることは、実際に警察が過去に動いた事と同じ。

 その警察が動いた事件は、都会で起きたものだったけど、こう言う事で警察は動くんだな、って勉強になったくらいだ。


 にっとアノンさんが笑うと、こう言った。


「いいよ。……乗ってやろうじゃん」


 交渉成立。

 アノンさんは、僕の後ろにいるカンナさんにも聞く。


「姉ちゃんは、もち動くっしょ?」

「ナックル持ってた方いいよね」

「もうちょい、準備しよっか」

「……喧嘩慣れし過ぎなんだけど。怖いんだけど」


 カンナさんは、耳たぶを咥えながら、その後もずっと僕の体を弄り続けた。

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