噂の裏側 5/29

 ヘイタのお見舞いにケンイチも連れてきて、僕らは久々の作戦会議をすることになった。


「つまり何か? あの野郎。病室でジュポジュポされて、パコパコのアヘアヘになって、友達売ったってことかよ」

「びどい˝ね˝」

「うん。あの、ヘイタ、無理に喋らなくていいぞ」


 ヘイタは数日見ない間に、かなり痩せてきた気がする。

 病院食は痩せるっていうけど、前のパンパンな顔が萎んできたので、見ていると心が痛い。


「ハブる事は絶対にしない。が、処刑はする」

「ああ。俺ららしいぜ」


 陰キャを舐めてもらっては困る。

 友達が少ない分、友達を大事にするんだ。


 だから、パリピな連中と違って、「お前いらねえわ」とか、すぐに切り捨てることはしない。


 まあ、女子の喧嘩みたいに、一時期無視し合ったりとか、くだらないことをやったこともあったけど、四人でやめようぜって話になって、やめたんだ。


「問題は蕩坂さんだ」

「モリオに言われて、俺も気になってさ。調べたんだよ」


 スマホで地獄通りの写真を見せられる。

 商店街になってる表通りは、普通の店がいっぱいあるけど、路地裏から入った裏通りは、バーとかお酒を呑む店が並んでいる。


 その一店舗を写した画像には、蕩坂さんと柄の悪い男が写っていた。


 後ろからスカートの中に手を突っ込み、黒人の男と話してるみたいだ。


「不良外国人のたまり場だ」

「お前、よくいったな」

「あの人、色々な奴らとつるんでる。だからさ。双子の妹。アノンさんが商売敵なんだよ」

「……なに?」


 ケンイチは手招きをして、ヘイタに顔を近づける。

 僕らは円陣を組むようにして、ヒソヒソと話した。


 ヘイタは団体部屋だから、ディープな話は声のトーンを抑えなければいけない。


「外人相手に、色々な女の子紹介してんだよ。結構な金貰ってるんだ」


 おいおい。

 恋敵にプラスして、商売敵。

 ますます、合点がいったぞ。


 どうりで、双子を目の敵にするわけだ。


「硫酸事件のこと覚えてるか?」

「アノンさんが中年男の顔にぶっかけた奴か?」

「そうそう。あれな。紹介した女の子が、質の悪い奴に引っかかって、殺されかけたんだと」

「はあ?」


 だとしたら、話が変わってくるぞ。

 パパ活で相手を紹介する、ということ自体はもちろん悪い事だ。

 非行をしているのは変わらないし、世間からは咎められるだろう。


 僕が驚いてるのは、アノンさんの意外な行動で、人格に対しての評価が変わっているということだ。


「その時、現場にいた奴と接触できたんだ。お前が双子と仲良くなったおかげで、随分聞きやすくなったぜ」

「で、どう質が悪いんだ」

「ヤル時に、縄で首を絞めるんだよ」


 最悪の野郎だな。

 馬鹿じゃないのか、そいつ。


「中に入ったら、ずっと通話状態にしておく決まりがあったらしい。それで、中の状況が分かるから、外で待機していたアノンさんが、現場に駆けつけたってわけ」

「鍵は?」

「来たのが分かって、中にいた子が死に物狂いで、鍵開けたらしいぜ。それが叶わないなら、他の方法取ってたろうな」


 アノンさんは、手段をえらばない。

 あげくに、その時は硫酸を持ってた。

 他にも、色々な道具を持ってた可能性だってある。


 あの人は、それぐらい平気でやるんだ。


「つっても、相手は大の男だ。勝気なだけじゃ、絶対に負ける」

「まあ、大抵の女の子は弱いもんね」


 その現実は理屈だけ並べたって、覆せるものじゃない。

 だからこそ、自分を弱いとが、逆に強いわけだ。


「何も言わずに硫酸浴びせたらしいぞ」

「こええな」

「で、硫酸の話だけが独り歩きしたから、詳細は誰も話してないけど。男が倒れた後、股間を何度か刺したらしい。足とか、色々」

「……結果として、助けたわけだ」

「警察がくりゃ、色々話すだろ。その時に、売春斡旋ばいしゅんあっせんの話とか、色々聞き出される。助けた、ってだけなら、まだよかったけど」

「やる事やっちゃったから、少年院か」


 滅多刺しだもんな。


「その子は、アノンさんのこと……」

「好きだって言ってたよ。メンヘラで、めんどいし、イラつくけど。好きだって」


 僕らのような外野には、噂だけで何も見えていなかったわけだ。


「けど、蕩坂さんが紹介するのは外人だぜ。何が嫌かって、事件に発展するような事でも、逮捕されない時があるらしい。アメリカとか、中国籍とか、特定の国だとザラらしいぜ」

「うげぇ。マジかよ」

「そういうの相手に紹介してんだよ」


 あのクソビッチ。


 段々と怒りのボルテージが上がってきた。

 小遣い稼ぎにしたって、やり過ぎだ。


「さすがに集団呼ばれちゃ、勝ち目がないな。……どうする?」


 双子なんかより、よっぽど凶悪じゃないか。


「化物には、化物をぶつけるってどうだ?」

「どっかで聞いたなぁ、それ」

「とにかく、あのクソビッチをどうにかしないと。話しが大きくなりすぎて、怖くなってきたもん」

「双子を誘導するのは、お前に任せるわ」


 ほんと、何でこんな事になったんだ。

 友達を助けるつもりが、クソビッチへの復讐に変わっていた。

 もはや、復讐だけではないのが、複雑な所だ。


 ともあれ、僕らはこの日解散して、一階で待つカンナさんにどう切り出すかを考えた。

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