真実と現実 5/27

 行為を終えた蕩坂さんと僕は待合室で話し合う事になった。


「んもぉ。出しすぎ……」


 ティッシュで口元を拭い、息を吐く蕩坂さん。

 頬は上気していて、ピンク色に染まっている。

 汗で濡れた髪は頬や首に張り付き、どこか色っぽかった。


「蕩坂さん。僕を、……僕らをハメたのか?」


 目を丸くして、蕩坂さんは固まった。

 動揺して、言葉を探しているのか。

 そう思ったが、甘かった。


「今更気づいたの? おっそ」

「な、何を言ってるんだよ。ていうか、認めるのか」


 蕩坂さんは髪をくるくると指に巻き、ダルそうにする。

 その態度からは、反省の色は窺えない。


「どうしてだよ……」

「だって、私リョウマくんの事好きだし」

「……そんな」


 ケンイチの予想は、見事に的中していた。

 当たってはいたが、蕩坂さんの態度は相変わらずで、僕は何とも言えない気持ちが込み上げてくる。


 双子は確かに悪いことばかりしていて、前の僕だったら関わりたくないと、本気で思っていた。


 今だって、できる事なら関わりたくないという気持ちがある。


 けど、双子だって人間だ。

 カンナさんなんて、気持ち悪いって言われて、すごく傷ついていたと妹が言っていたんだ。


 僕はそれを信じてしまうし、カンナさんが素直じゃない一面を持ってると知った今、疑う気持ちがない。


 あげくに、大勢の男に襲わせるだなんて、犯罪という言葉で言い表していいものじゃない。


 言いたい事は山ほどある。

 怒りだってある。


 だからこそ、僕は真剣に聞いた。


「……さっき」

「んん?」

「さっき、布団で、……チュパっていたのかい?」


 言葉は濁すが、あの動き。

 あのシチュエーション。

 僕の頭には、アレをしていたようにしか見えなかった。


「口でしてたって? うん。してたよ」

「なんて、……ことを……」


 羨ましかった。

 リョウマは顔面偏差値だけで、美人三人と関係を持ったのだ。


 こんなことなら、もう一発、ギプスの方に拳をくれてやればよかった。


「モリオくん、後藤さんと付き合うことになったんでしょ。よかったじゃ~ん。なら、彼女にしてもらえば?」


 その一言に、頭の血管がキレそうになった。

 拳を振り上げ、テーブルに叩きつけようと思ったが、途中で止めた。

 ナースステーションから人がくるかもしれない。

 なら、やるべきではないだろう。


 振り上げた拳を自分の膝に落とし、痛みでうめき声を上げる。


「ぐっ!」

「な、何してんの?」


 この清楚ビッチめ。

 エッチな所だけは、認めてやる。

 だが、性格の悪さはリアルにいらないんだよ。


 それが認められるのは作り物の世界。

 だ。

 ……3Dも含めるぜ。


「あ、もしかして、怒ってる? 後藤さんに言っていいよ。用は済んだし」

「用って?」

「私とリョウマくん。付き合うことになったから」


 にこ、と笑い、蕩坂さんは歯を見せた。

 口元には、ちぢれた毛がついていて、その一本が先ほどまでの行為を物語っていた。


「あと、ブロックしておくから。モリオくんって、気持ち悪いし。他の二人もさ。犯罪とか、やらかしそうじゃん? 今後は近づかないでね」


 蕩坂さんは席を立ち、手を振ってリョウマの病室に戻ろうとする。

 待合室の扉に手を掛け、出て行く悪女の背中に僕は精一杯の声を掛けた。


「カンナさんはさ」

「……え?」

「良い、……女だよ。料理、作れるし。尽くすタイプだし」

「惚気? やめてよ。聞きたくない~っ」


 勢いのまま、言葉を続けた。

 ケラケラ笑う蕩坂さんの目を真っ直ぐに見つめ、拳を硬く握る。


「君より、おティンティンをチュパるのが上手いはずだよ。だって、ずっと尽くしてくれるからね」


 いや、そうじゃない。

 他に言う事があったはずだ。


 くそ、先ほどの光景が頭に焼き付いて離れやしない。


「あ、そ」

「君は、……きっと後悔するぞ……っ!」


 蕩坂さんは手をひらつかせ、その場を去っていく。


 悔しかった。

 羨ましかった。

 ていうか、女という生き物の豹変ぶりに、ドン引きしていた。


 ここまで、非情になれるのか。

 残された僕は、やるせない気持ちを抱き、あいつにリベンジしようと決めた。


「……くそ。口で、ってなんだよ!」


 絶対にリベンジしてやる。


「気持ちいいのか? そんなに? くそ! 今日も眠れねえよ!」


 絶対に後悔させてやる。


「……くっ、股間が、……苦しいッ!」


 目と股間から涙をこぼし、僕はその場に蹲ることしかできなかった。

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