まさかの 5/26(深夜)

 ケンイチに連絡を取り、僕は一通りの推理を聞かせた。


『なるほどな。俺たちはハメられたわけだ』

「ああ。だけど、動機が分からないんだ。明日、リョウマに会いに行って、ぶっ殺してくる。アノンさんの話を聞くと、確かにタイミングが良すぎるんだ」

『動機、ね。……双子に恨みがあるとかじゃねえか?』

「恨み? そんなの……」


 超が付くほど、あるだろう。

 むしろ、恨みしか持たれていないとすら、言い切れる。


『だって、リアルで無理やりは頭おかしいだろ。そんな抜けもしないバカな事やるなんて、恨み以外ないぜ』

「蕩坂さんが双子を恨む理由ってなんだ?」

『ん~~~……』


 ケンイチはしばらく唸り声を上げ、考える。


『……男、とか』

「なに?」

『恋敵なんだろ』

「お前な。そんな王道な理由で、僕たちが殺されかけて堪るかよ」

『落ち着け。確かに作り物の話じゃ、よくある理由だ。けどな。恋敵で相手を憎む、なんてのは王道になるくらい現実では当たり前にある話だろ』

「そ、そうなの?」

『むしろ、好きな男にちょっかい出された、とか。そういう理由でイジメに発展したり、ザラだぞ』

「……マジか」


 リョウマはモテるけど、その周りで熾烈な女子の戦いがあると思うと、想像だけでげんなりとする気分だった。


 しかも、巻き込まれた僕からすれば、いい迷惑だ。

 色恋沙汰で、こんな酷い真似をするのか、と神経を疑いたくなる。


「蕩坂さん。……清楚ビッチだったのに。ビッチなのは、エッチな所だけでいいのに。どうして、性格までビッチなんだよ」

『決まったわけじゃない。明日、リョウマの顔面を2、3発殴って、聞き出せばいい。リョウマは確かに、俺たちと同じバカだが、相手を傷つける言動を理由もなくする男じゃない』


 確かに。

 あいつが、情熱を爆発させるのは、ハイレグを見た時だけだ。

 ハイレグだけが、僕らの友情を固くさせているのだって、事実だ。


「ありがと。少し、気分が楽になった」

『おう。ついでに、ヘイタの顔も見てこいよ』

「ああ。乳首を執拗に弄ってくる。じゃあな!」


 通話を切り、ため息を吐く。

 色々あり過ぎて、疲れた。


 今日はもう寝よう。


 椅子から立ち上がり、ベッドの上に座る。

 いつの間に、自動のひじ掛けなんて設置したのか。

 僕が腰を下ろすと、両サイドから白いひじ掛けが伸びて、腹に回される。


 背中には柔らかいクッションが二つ付いており、アロマを焚いた覚えはないが、湿り気のあるフローラルな香りが鼻孔をくすぐった。


「僕をこんな目に遭わせた奴を、絶対に許さない。おかげで、人生がハードモードから、エクストラモードにシフトしやがったんだ」


 自分の人生をどうクリアすればいいか、全く分からない。

 ただでさえ、陰キャというだけで、社会的ハンデを背負っているのだ。


「電話終わった?」

「うん」

「……肩、揉んでやるけど」

「いいね。お願い」


 力強い指圧で肩の肉が解されていく。


「あ˝~っ、やっべ。うぅわ。すっご」

「ふん。気持ちいいだろ?」

「最高。カンナさんの手、メッチャ気持ちいい。あ~、ずっとこうしていたい」


 途中で、気づいた僕は取り乱そうとせず、冷静に尋ねる。


「で、いつから、いたんだい?」


 時刻は深夜1時過ぎ。

 呼んだ覚えはないけど、なぜかカンナさんがベッドに座っていた。


 早い。

 圧倒的に、段階が早い。


 普通の恋愛で、1~10あるステージが、カンナさんの場合、1~9まで飛んでくる。


 色々と、もう寸前である。


 なるほど。

 確かに、リョウマがビビるわけだ。

 迷惑がるわけだ。


 だって、わき腹に当たる冷たい風から察するに、この人窓から入ってきただろう。

 鍵は掛けておいたはずだ。

 首を伸ばして、後ろを確認する。


 あ、割れてる。

 ガラスの破片がない辺り、座る前に掃除したな、これ。


 錠の掛かる部分に、ガムテープが貼られていた。

 テープには小さな穴が空いており、ちょうど錠に当たる位置にあった。


「ガチじゃん」

「ん?」

「カンナさん。夜更けに男の家に来るのは感心しないよ」


 口を尖らせるのだ。


「迷惑だったのかよ」

「迷惑っていうか。あのねぇ。僕は、君のせいでムラムラしてるんだよ。一線だけは超えまいと頑なに誓っているんだよ。ガンガン攻めてくるんだもん。アタックが強すぎるよ」

「……ごめん」


 いや、ちょ、謝るなよ!

 自分でも矛盾したこと言ってるのは分かる。

 だが、普段から横暴に振舞ってる人が、こういう時だけ女の顔になり、泣きそうな顔で謝ってきたら強気で責めることができない。


「会いたいな、って」

「そっかぁ。それで……」


 窓ガラスぶち破って、窓からきたんだね。

 すごいな、君。

 行動力がとてつもないよ。

 怖れを知らないんだもん。


「床で寝るから、泊まりたい」

「はは。そうきたか。なるほどね。一歩も引く気はないんだね」


 謝るし、傷つくし、泣きそうになる。

 だが、一歩も譲らない。


 まさかのストロングスタイルに、僕は脱帽だつぼうだった。


「床には僕が寝るよ。明日は、リョウマの所に行かないといけないから」

「私も行く」

「え、く、くるのかい?」

「……ダメなんかよ」


 グイグイ来るねえ。

 香ばしいねえ。


「いいけど。リョウマを警戒させたくないから、一階で待っててね」

「……うん」


 この日、ムラムラして眠れなかったのは、言うまでもない。

 カンナさんは、中身がアレだけど、見た目はガチの美人なのだ。

 一線超えたら最後。


 ヤンデレがサナギから目覚めるだろう。

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