グローリー・ホール
ヤンデレの理由 5/10
放課後、教室の隅っこで、僕たちは話していた。
昨日の出来事を全て話すと、ヘイタとケンイチは驚愕し、僕以上にショックを受けている。
「ストラップ……ビリ……ビリ……?」
ヘイタがわなわなと震えた。
「あいつら、人間じゃねえぞ。クソ、俺まで震えが止まらねえっ!」
ケンイチは
当たり前だ。
愛しのグッズを無残な姿に変え、それを放置する悪行。
まさに、女子供に対し乱暴を働く悪漢が如し、許されざる大罪であった。
「そっちは、何か分かったの?」
「ああ。姉のカンナだが、……あいつはヤンデレだ」
ケンイチが腕を組み、声のトーンを落として話す。
「ヤンデレ?」
「この前、説明したろ。愛しまくって、相手を殺すってやつだ」
「んん? 姉のカンナさんが?」
乱暴で荒いカンナさんが尽くすタイプには見えず、疑問しかなかった。
「どこから仕入れたんだよ」
「この高校は地元の奴が多いだろ? 俺たちだって、例外じゃない。だから、中学時代の事を知ってる女子がいたんだ」
「気持ち悪がられて近寄ることができなかったんだけどね。お金をあげることで、情報を買う事ができたんだ」
「やめてくれ……ッ! 悲惨すぎるよ! どうして僕らは女の子と会話するのにお金を払うシステムが普及してるんだ!」
涙が込み上げてきた。
気持ち悪がられることは、かなりある。
あるいは、「いたの?」と、存在さえ気づかれない事がある。
そんな僕らが女子と会話し、食い下がるにはお金が必要だ。
グッズを買うお金が、会話のために消えるのだ。
ここまでして、僕らは大事な友達を助けたがっているのだ。
「女子のデータベースは、他のヤンキーに情報提供をする代わりに手に入れたものばかり。俺の代わりに聞いてくれたことだって、数知れず。つまり、タダで手に入る情報だ」
聞いていられなかった。
「も、もういいから。中学時代に、その、何があったんだ?」
「ああ。中学時代、カンナさんは、ある男と付き合ってたらしい」
ヤンキーなのに、メチャクチャ恋愛するなぁ。
素直にそう思った。
「どうも惚れっぽい性格のようでな。大したことはされてないらしいんだが、野球部のエースにコロッといったらしい」
「へえ」
「でも、あの見た目だろ? だから、相手は即OK。付き合ったはいいが、浮気癖の酷い奴だったみたいでな」
「ふむふむ」
「家の前で待つようになったり、教室の外で待つようになったり。次第にエスカレートしていって、呼んでもいないのに、家の中にいたりとか。それで、気持ち悪がって、カンナさんの悪い噂を吹聴して……」
何だか、可愛そうになってしまった。
そりゃ、常軌を逸した行動だけど、浮気をした方が悪い。
なのに、野球部の男子は、カンナさんをイジメて、追い詰めていたわけだ。
「更衣室で、……首に縄をかけて、サンドバックにしたってわけだ」
「なるほどなぁ。ん? でも、何でヤンデレ?」
「血まみれのそいつを人がくるまで、ずっと抱きしめてたらしいぞ。正確には見かけた人が何人もいたけど、怖くて固まったんだってよ」
現実にそんな事が起きれば、そりゃ固まるか。
「野球部のあんちゃんは、アバラと両腕、両足、顎の骨折。完治まで3か月は掛かったみたいだぞ。治っても、家から出れなかったらしいし。とっくに引っ越して、新居地で暮らしてるだろうさ」
ようは、『惚れやすくて、一途』なんだ。
だけど、常軌を逸した行動が目立つ、ってのが相手からすればネックになっている。
「別れさせるには、時間が必要かな」
と、僕が話すと、目の前にひょこっと可愛い顔が表れる。
「な~に話してんの?」
「うわあああ! 女子だああああ!」
「ま、まま、まずいぞ! 息ができねえ!」
もはや、モンスターを見つけた時の反応である。
「ひっどぉ!」
「す、すいません。僕ら、女子との会話に慣れてないんで」
蕩坂さんは頬を膨らませ、後ろ手を組む。
「当ててあげよっか? 後藤さん達とリョウマくんを別れさせるって話でしょ?」
「聞いてたんですか?」
「ちょっとね」
ぺろっと舌を出して、いじらしく笑う。
陽気なオーラを浴びた僕らは、どんどん生命力が吸収されていく。
「ねえ。よかったらなんだけど。……それ、手伝ってあげよっか?」
「へ?」
「こういう話ってぇ。女の子の協力が必要だと思うの」
僕は二人の顔を見つめた。
ヘイタは漂う良い匂いを鼻から吸引していた。
ケンイチは舌なめずりをして、首筋辺りを見ている。
ロクなヤツがいなかった。
「まずはね……」
こうして、僕らは蕩坂さんの協力を得る事ができた。
作戦内容を聞くと、血の気が引く思いだったが、そこまでやらないとダメなのかな、と最終的には納得した。
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