リョウマ邸 5/9

 リョウマの入院する『深淵病院しんえんびょういん』から、『地獄通り』という商店街を通り、次に『自害橋』を通ると、『林道』に差し掛かる。


 ここを抜けると、『住宅街』がある。

 そこに僕やヘイタ達の住む家があり、他には団地や社宅などが建ち並んでいる。


 建ち並ぶ、とはいったが、ド田舎なので家屋と家屋の距離が、結構開いている。


 なので、緑に囲まれた場所に、ポツポツ家が建っていたり、密集するところは密集している、といった景色を想像してくれたら伝わるだろう。


 住宅街の一角にある大きな家を訪れた僕は、リュックを背負い直し、インターフォンを鳴らす。


「はーい」


 しばらくすると、家の中から綺麗な女の人が出てきた。

 僕の母さんと変わらないくらいなのに、相変わらず美人なおばさん。

 リョウマの母親、キヌエさんである。


 パーマの掛ったダークブラウンの髪を一つに結んで、片方の肩から垂らし、全体的におっとりとした美魔女。


 友達の母さんなので、変な目では見ないようにしているが、胸が大きいために、どうにも目が胸部にいってしまう。


「あ、ども。リョウマ君に部屋から持ってきてほしいものがある、って頼まれてきたんですけど」

「あら? あの子ったら、ご友人に頼んでぇ。ごめんなさいね、ウチの子、ほんっとにだらしなくて」

「いえ。大丈夫です」

「さ、上がって。よかったら、私が届けるから」

「はい。すいません」


 家の中に入ると、とても良い匂いがした。


「モリオくん。相変わらず可愛いわね。ウチに欲しいくらいだわ」

「えへへ」


 照れくさくて、赤べこみたいにヘコヘコ頭をスライドさせる。


「お邪魔しま~す」


 お母さんに断って、家の中に上がる。

 そのまま、二階に真っ直ぐ行き、突き当りの部屋を目指す。


 リョウマの部屋は、本当にヤバい。

 何がヤバいか、っていうと、オタクグッズもそうだが、造りが半端ないのだ。


 一部屋、20畳半である。


 このだだっ広い部屋には、ベッドと机、テレビにゲーム機などが置かれているが、空間の方が広いので、僕は落ち着かなかった。


 部屋の中は、僕と違い、綺麗に整頓がされている。


 クローゼットは3畳半ほどの広さをしているため、エチエチな物や大事な物は、全てそこに収納されているのであった。


 前にきた部屋の扉を開け、控えめに挨拶をしながら、入室。


「……ぇ」


 そして、驚愕きょうがくした。


 リョウマの部屋は、散乱していた。

 広い部屋だから、泥棒が入ったようなゴチャゴチャした感じにはならない。だからこそ、部屋の中で散らかった場所が目立つ。


 後ろを見て、お母さんがきてない事を確認すると、そっと入り、静かに扉を閉める。


「これ、ヤバいだろ」


 机の上は教科書がグチャグチャ。

 ラックの上は無事。

 問題は、クローゼットだ。


 豊崎のグッズがメチャクチャに破壊されていて、見るも無残な光景だった。中は外に放り出され、まるで何かを探していたかのように散乱している。


 僕はリョウマにチャットを送る。


『どこにネックレスしまっておいた?』


 返信がくるまでの間、僕はリョウマに黙って部屋を片付ける。

 友人なりの気遣いだ。


『机の引き出しにあるはず。グッズは?』


 無事かどうかを聞きたいんだろう。

 返信に迷った。


 教科書とかは綺麗に揃えてあげればいいし、無事なグッズは並べてあげればいい。けど、破壊された物販に関しては、どうしようもなかった。


『一部、壊されております。来たみたいです』


 既読が付いたまま、返信がない。

 ショックなんだろう。

 荒れているかもしれない。


 痛みが分かる僕は、そっと片づけて、壊れたパーツは一つにまとめて、クローゼットの隅っこに置いてあげた。


 一通り、片づけ終えると、机の方に向かう。

 引き出しを開けると、違和感があった。


「ここまでやるか?」


 引き出しは鍵の掛かるタイプだ。

 そして、だった。


 なのに、引き出しを引けた。


 その理由は、鍵が破壊されていたからだ。

 中を見ると、小物がいくつか入っているが、例のネックレスはない。


 ポロン、とメッセージが届き、スマホを確認する。


『引き出しに入ってるストラップは?』


 今、開けている引き出しの中には、ストラップが入っていた。

 その数は、全部で5個。


『5個とも無事だよ』


 すぐに返信があった。


『10個だよ! 他の5個は?』

『ないよ』

『待った。メッセきたわ』


 リョウマが何かを受信したらしい。

 僕はその間、待つことになった。


 だだっ広い部屋で待っていると、コンコンとノックがされる。


「あ、はい」

「頼まれていた物は見つかったかしら?」

「あー、そう、ですねぇ。ないんですよねぇ。ははは」


 双子の事を話せるわけがない。

 大事にしたら、リョウマがヤバいだろうし、僕は愛想笑いで誤魔化した。


 キヌエさんは半開きの扉から顔だけを出し、ニコニコとして言う。


「よければ、ゆっくりしていって。下にお茶用意してるから」

「ありがとうございます! あはっ。ケーキもあったり?」

「あるわよぉ。おいでぇ」

「わーい!」


 図々しいが、それを受け止めてくれる優しいお母さんなのだ。

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