双子が求めたものは 5/9

 昨日、エレベーターですれ違ったのだが、まさかこうなるとは思わなかった。


「よぉ。モリオか」


 包帯が増えていたのだ。

 片方の腕にはギプスがはめられており、僕は愕然がくぜんとした。


「い、生きてる?」

「なんとか、な」

「あいつら、病室を知らなかったはずだよ」

虱潰しらみつぶしに捜したんだろ。それぐらいやるよ。けほっ」


 よく騒ぎにならなかったな、なんて愚問か。

 口封じをされたのだろう。


「だ、誰も、騒がなかったのかい?」

「ああ。サッカーの試合のために、筋トレしてたら、腕やっちゃったって言ったから。たぶん、気づいてない」

「なんで、そんな嘘を吐くんだよ!」

「仕方ねえだろ。……あいつら、俺の大事なものを壊すって言うから」


 昨日の今日でこの有様なので、リョウマに残された猶予は少ないように感じてしまう。


「契約の、ネックレス、……持ってなかったから……」

「契約のネックレス? なに、それ?」


 リョウマは疲れたように目を閉じ、教えてくれた。


「紫色のさ。バッテン印の、ネックレスなんだよ。受け取ったら、恋人。離したら、さようなら、って。でも、俺、アノンちゃんから、無理やり渡されて、持ってただけなんだよ」


 文字通り、悪魔の契約書だった。

 しかも、悪魔の方から握らせてくるスタイル。

 質が悪かった。


「モリオ。頼みがある」

「何でも言ってくれよ」

「俺の家に行って、確認してほしいんだ」

「家族の安否か?」

「いや、そんなものはどうでもいい」

「おい」

「家に、バッテン印のネックレスがあるか、どうか。あと、豊崎のグッズが無事かどうか」


 大粒の涙を流し、変態王子様は歯を食いしばった。


「あいつらが無事なら、俺は死んだっていい」

「すっごい侍精神だな」

「頼む。お前しかいないんだ」


 手を握られ、真っ直ぐな目で見つめてくる。

 僕は友人の頼みを断る事なんかできる訳がなく、「わかったよ」と頷いた。


 だけど、これで終わりじゃない。

 あの双子の事について、もっと詳しく聞かないと。


「なあ、こっちからも聞きたいんだけど」

「なんだ?」

「馴れ初めっていうのかな。双子とどう知り合ったんだ。そんで、どう変わったんだ? 簡単でいいから教えてくれ」

「あー、……初めに、……アノンちゃんに声を掛けられたんだ」


 *


 リョウマは双子と出会い、交際し、豹変した出来事を語ってくれた。


 実は、双子の関係は、高一の頃にまでさかのぼる。


 まずはアノンちゃんに「カッコいいね。君」と声を掛けられたらしい。

 こいつは赤べこみたいに、ヘコヘコしながらやり過ごそうとしたんだけど、グイグイくるものだから、ドキドキしてしまったとの事。


 そして、次に姉の方が街中で変なのに絡まれていたので、警察を呼び、追い払ったらしい。


「夜中にウロウロしちゃダメだよ」

「……うるせぇな」

「襲われたら、ヤバいじゃん」


 なんて会話をして、その日は紳士的に家まで送り届けたらしい。


 それで、学校ではアノンちゃんがグイグイときて、相槌を打つ毎日。

 お姉さんの方は、街中で会った時に、笑顔で話す程度には仲良くなったとのこと。


 一発で様子が変わったのは、バレンタインデーの日だった。

 その頃にはカンナさんと打ち解け合って、ちょっとからかうくらいにまで、仲良くなっていた。


 そして、こんなやり取りをしたらしい。


「ほい。チョコ」

「は?」

「いや、チョコ。今日、バレンタインデーじゃん」

「……いらないって」

「前に食べてたじゃん。だから、あげる」


 と、チョコを差し出すと、カンナさんが乱暴に受け取ったみたいだ。

 それから、帰ろうと振り返ると、真後ろにアノンちゃんがいたらしい。


 もう、この時点で怖いが、アノンちゃんがお姉さんとの関係を聞いてきて、「じゃあ、じゃあ、付き合っちゃう?」とか、そういう話になったとのこと。


 その時に、『例のネックレス』を渡され、『持っていると、私たちと繋がってる』けど、『離したら、さようならだよ』と、警告を受けたみたいだ。


 この頃は、彼女ができると思って、浮かれていて、後で僕らに自慢してやろうと思ってたらしい。


 しかし、付き合って一日目。


「何であの子と話してんの?」


 これをアノンちゃんに言われたみたいだ。

 真顔で言われたので、とりあえず謝り、放課後を迎える。

 すると、教室の外で双子が揃って待っていたとのこと。


 一緒に帰るだけだと思い、生徒玄関まで行くと、他の女子から手を振られたり、挨拶をされて、通学路の途中まで帰っていった。……は、いいが、「休憩できる場所行こ?」と言われ、ホイホイついていったら、橋の下に連れて行かれたらしい。


 この日に初めて殴られて、カンナさんが止めてくれたらしいが、マーキング代わりに色々された。


 その日を境にどんどんエスカレートし、ついにはカンナさんまでイラ立つようになり、暴行が繰り返されたらしい。


 それだけでも悲惨だが、何よりヤバいのは、人が通りそうな場所で、双子から襲われたとのこと。


 簡単にはなるが、大体こんな感じだった。


 *


 話を聞き終えた僕は、第一声でこう言った。


「お前、何やってんの?」

「え?」

「正規ルートばりに攻略してんじゃねえか」


 そりゃ、殴られたりするのは嫌だ。

 でも、今の話を聞いてると、どこのギャルゲ主人公だってくらいに、しっかりと相手を攻略していた。


 多少おかしなところがあっても、こいつは双子とフラグを立てまくって、ガンガン攻略をしていたのだ。


 その結果、今に至るわけだ。


「そうは言うけど、俺だって頑張ったんだ。引かれようと思って、カンナさんにハイレグ履いてくれって、上から物言ってやったり、アノンちゃんにもっとスケベになれよ、とか。最低な事を言いまくったんだ!」


 握りこぶしを口に当て、僕は問う。


「その、……結果は?」

「ハイレグはともかく、なんか、色っぽくなってた……ッ!」


 犯人の自供シーン張りに、リョウマは声を搾り出した。


「これ、……え、これ、どうすん、……の? え? これを別れさせんの? 僕らが?」

「友達だろ!」


 思いっきり手を握られ、僕は思った。

 ほぼ、自業自得じゃねえか。


 とりあえず、この日は解散し、リョウマの家に向かう事になった。

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