作戦会議 5/8

 僕らは強敵を前に、途方に暮れていた。


 気分は、昔ちょっと興味が惹かれて見た、大日本帝国時代の軍法会議の緊迫感に似ている。

 まあ、史実なのじゃなくて、フィクションなんだけど。

 軍曹が部下の尻を触ったかどうかで、裁かれる寸前を描いたものだ。


 ケンイチは顎をしゃくって、沈黙。

 ヘイタは二の腕を抱いて、下唇を噛む。

 僕は前に置いたスマホの画面を凝視して、震える息を吐き出す。


 スマホの画面には、リョウマからのメッセージが届いた。


『殺されるって。きたんだけど』


 僕らは途方に暮れていた。


「い、家に火を点けるとか」

「それ殺人じゃねえか!」

「し、しかしですな。相手は凶悪な双子ですぞ!」


 ていうか、予想以上に切羽詰せっぱつまる状態だった。


「アニメでは、どんな感じだっけ。僕は、ほら。ラブラブで、えちえちな女の子が好きだからさ。はは」


 メンヘラ系とか、一ミリも分からない。


「メンヘラって、キャラを扱ったアニメは見たことがないよ。のはいるけどさ。メンヘラそのものをキャラクター化したのは、……な」

「似たものに、ヤンデレというものがありましてな」

「ヤンデレ?」

「ふむ。言ってしまえば、病んだ女の子ですな」


 いくつかアニメを観ていると、たまに見かける根暗っぽい子だろうか。

 アニメは皆と一緒に見たりしているので、大体イメージは掴める。


 しかし、それがどういったものなのか、となると途端に分からなくなるのだ。


「恋するあまり、相手をどこまでも欲しくなって、果てには人肉まで……」

「それゾンビじゃね? え、ヤンデレってゾンビなの?」


 ケンイチが割って入ってきて、代わりに説明をしてくれる。


「分かりやすく言うと、メンヘラは”愛されたい”タイプだ。しかし、ヤンデレは”愛したい”タイプだ。どっちも病んでるから、混同しがちだが、実は対極の関係にある。こいつが言ってるのは、よくあるヤンデレの末路ってとこかな」


 僕は冗談抜きで聞いてみた。


「リアルで、……起こりうる?」

「ない。……と、言いたいが」

「実は昭和時代から、ヤンデレと同じ性質を持つ女子がいたので、、というのが正しいかと」


 グロすぎて、検索してはいけない言葉になるので、二人は濁して言うが、実際に事件にまで発展したことがあったとのこと。


「その二つは、、恐ろしく早いんだ。そう。えちえちな関係は築けるんだ。最高だ」

「しかし! 問題は、でありますな!」

「リョウマは双子と、その、致したのかな?」


 我ながら野暮なことを聞いてしまった。


「やった、というよりは、やられたのかもな」

「リョウマはハイレグの食い込みを愛する者の1人。あの性癖は、そう易々と叶えてくれる女子はおりますまい」


 いくら、男子が求めても、「きっしょ。来んな」とか拒絶されたら、「もういいわ」となる自信がある。


 だって、これは愛と欲が合体したものだから、譲れない。


「じゃあ、話を戻そうか。どうすんの?」


 二人は沈黙した。


「とりあえず、調査だ。敵を知れば百戦あぶねえって言うだろ」

「合ってる? それ、違うくない?」

「ボキたちは、双子を調べようかな。モリオはもう一度リョウマに会って、安否の確認と詳しい事情をもう一度聞いてくれないか?」

「分かった」


 メンヘラ。ヤンデレ。

 どうなるかは知らないけど、やれることはやろう。


「ちょろいツンデレの方が可愛いよな」

「それぇ! 絶対にそっちの方がいいもん!」


 ケンイチの一言に激しく同意し、僕らは懐かしのアニメ鑑賞をすることに決めた。

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