狂気 5/6

 僕らは昼時に中庭で集まって、寒空の中でご飯を食べる。

 食堂は不良たちが集まっていて、利用することができない。

 猿山の中に餌をぶら下げて入っていくようなものだ。


 大人たちは見て見ぬふりをするけど、僕らには僕らの社会がある。


 大人より分かりやすくて、大人より表面に出てくるカースト制度だ。

 君子危うきに近寄らず、ってわけではないけど。

 わざわざ自分達から危険な場所へ足を運ぶことはしなかった。


「リョウマ、……大丈夫かな」


 だからこそ、僕らの絆は固いのだろう。


 傷の舐め合いじゃない。

 一人だけ欠けた昼食時は寂しかったが、友達を忘れてワイワイやれるほど、僕らは薄情じゃなかった。


「足と、……アバラだっけ?」

「うむ。ちょうど、真下に渡り廊下の屋根がなかったら、本当に死んでおりましたぞ」

「っぶねぇ真似しやがって。ケッ」


 リョウマは3階から飛び降りた。

 下には、渡り廊下の屋根があって、その上に落ちたのだ。


 もしも、僕らのクラスが校舎の端っこではなく、真ん中やその隣りだったら、助かる要因なんてどこにもなかった。


 運が良かったとしか言いようがない。


「しっかしぃ、全治2か月は余裕でいくだろ」

「リハビリ考えると、それ以上ですな」


 ヘイタは寂しげに、スマホに付けたストラップを弄る。

 ハイレグバニー豊崎のグッズだ。


 僕らはリョウマと同じグッズをスマホに付けている。

 豊崎ちゃんがアヘ顔ダブルピースをして、M字開脚をしているアレなキーホルダーだが、これは僕らにとって友情の証だ。


 女子からは、もれなく「きっしょ」と心ない罵倒をされるが、半分は仰る通りなので何も言い返せない。


「あいつ悩みとかあったのか」

「いんや、聞いてないぜ」

「しかし、あのタダならぬ様子。マズい事があったのは違いないですな」


 僕らは考えた。


「クソ。助けたいな」

「どうやって? つか、何が起きたのか把握しないと」

「では、三人でお見舞いに行くというのは?」

「本人に直接聞いてみるしかねえか」


 予定が決まったところで、僕らはご飯を再び食べ始める。


 僕はサンドイッチ。

 ヘイタはカツ丼3人前。

 ケンイチはゼリー食。


 それぞれ食べながら、こんな事を話した。


「見舞いに行くなら、品が必要だな」

「豊崎のゲーム持ってく?」

「いやいや。病室で喘ぎ声は……」

「あいつ、絶対に退屈してるからな」

「無難に果物を持っていくというのは?」


 などと話しながら盛り上がってしまう。

 何だかんだ言って、みんなリョウマと会いたがっていた。


 笑い合いながら話していると、視界の端に黒い影が見えた。

 それは残像を残し、僕とヘイタの間に落ちてくる。


 ガチャンっ。


 花瓶だった。


「うわあああっ! っぶねえええ!」


 突然の事に、僕は飛び上がった。

 ヘイタのカツ丼の中身がベンチの上にぶちまけられ、大きな肉の塊は無残な姿になっていた。


「いやああああああっ!」


 ヘイタは発狂。

 当たり前だ。

 食べ物と女の子が大好きなヘイタの大好物が一つ、目の前で壊されたのだ。


 どこの不良が投げやがったんだ。

 犯人を見つけるべく、僕は花瓶が落とされたであろう、校舎の窓を睨む。


 換気のために開けている窓。

 全クラスの内、1カ所だけ違和感があった。


「あい、……つ」


 窓からこっちを覗き込む姿を見つける。

 相手は強面の男子じゃない。

 女子だ。


 なら、勝てる。という謎の理屈で僕は怒りのボルテージが上がった。


「ちょっと行ってくるわ」

「え、いやいや、ボキは大丈夫だから。おい、モリオ!」


 花瓶は教室に飾ってる花だろう。

 それを3階から落とすとか、狂ってるとしか言いようがない。


 正義は僕の方にあるのだから、相手は何も言い返せないはず。

 大事にしたら、僕が勝つんだから、怯む必要はない。


 階段を2段飛ばしで駆け上がり、途中で派手に転び、肘を押さえながら犯人のもとへ向かった。

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