僕らは日陰者 5/5

 東北のとある地域に、奈落市という僕の住んでいる場所がある。

 奈落市は、西に山があり、東に海があって、大自然に恵まれた土地だ。


 夏は虫が多いけど都会より暑くはない。

 冬はメチャクチャ雪が降るので、都会より寒い。


 よくあるド田舎だ。


 そのド田舎に『私立大嵐学園高等学校しりつおおあらしがくえんこうとうがっこう』といった、僕の通う学校が建っている。


 地元では有名なバカ学校で、名前を書けば誰でも入学できる。

 普通は滑り止めにして試験を受けるのだが、僕のように勉強はおろか、スポーツすらできない底辺野郎は、第一志望で受けるのだ。


 これは偏見だが、バカ学校というのは普通の学校とは違って、男女共に顔面の偏差値は低く、まるで動物園のような監獄である、と僕は入る時まで想像していた。


 ていうか、中学の時に先生や他の生徒も同様の事を口にしていたし、僕だって他の人が言う偏見を信じて疑わなかった。


 ところが、僕の住む地元にある、この学校。


 皆の偏見を一刀両断するが如く、なぜか男は世紀末が多いのに対し、女の子はこれでもかというくらいに、可愛い子が多かった。


 まあ、芸能人とかモデルなどと大差がないくらいに、可愛い子が多い。


 しかし、そこはバカ学校なので、色々となのである。


 そういった大嵐学園で、世紀末な連中に囲まれながら、僕らみたいないわゆる陰キャは、日陰にひっそりと咲くお花のように、自分達の世界に入り浸っていた。


 高校2年生の5月5日。


 この日もまた、僕らは共通の話題で盛り上がっていた。


「ハイレグバニー・豊崎とよさきの8話。マジで半端ないですなぁ」


 デュフフ、と気色の悪い笑みを浮かべる百貫ひゃっかんデブは、ヘイタ。

 頭はキノコヘアーで、大きなメガネを掛けているのが特徴。

 肌荒れが酷いこの友人は、太り過ぎて瞼が腫れぼったくなっており、目が糸のようになっている。


 ヘイタの話を聞き、隣に座った別の友人が鼻で嗤う。


「ケヒヒ。豊崎の真髄しんずいは、お肉ムッチリの食い込み。あの肉皺の描きは、万人を魅了する魔力がある。ケぇっヒヒヒ」


 と、またまた気色悪さ全開のこいつは、ケンイチ。

 脂ぎったロングヘア―の髪をロリっ子のように、ツインテールにしている見た目や言動が気持ち悪い友人だ。


 見た目のインパクトは、髪型だけではない。

 今にも死にそうなくらい痩せこけた、細い体つき。

 メガネまで細く、全体的に不健康な感じの男子だった。


「でもさ。8話って敵にやられるシーンが一番最高だったよね。触手で足を絡めとられて、もうやられちゃう、って感じの、あれ」


 そして、僕の友人の中で、唯一と言っていいイケメン様が、このリョウマ。


 ヘイタと同じキノコヘアーなのに、髪はさらさらしていて、全体的にみると、王子様系ってやつだった。

 背は高くて、体つきは細いながらも締まっている、と言った感じ。


 何より特徴は、泣きボクロだ。


 はかなげな雰囲気があり、黙っているだけで女子の心臓をもぎ取り、無理やりマッサージするくらいの破壊力があることだろう。


 でも、そんなイケメンは日陰で、僕らと猥談をしている現実。


 君の居場所ってここじゃなくね?


 何度、疑問を口にしそうになった事か。

 思う所が色々あるけど、友達に外見なんて関係ない。

 一緒に共通の文化を楽しむ心が大事なのだ。


「モリオは、どう思う?」

「え?」

「やっぱさぁ。ほら、股下のお肉って、……ロマンじゃん?」


 リョウマがそう聞いてくるのだ。

 唐突とうとつに聞かれて、しどろもどろになってる僕は、モリオ。


 特徴を挙げるなら、前髪だけが長くて、黒縁のメガネを掛けたチビ助。

 典型的な陰キャ、そのものだった。


 急に話を振られたので、どもりながら僕は答える。


「レオタードでハイレグって、まあ、……うん。いっぱい好き」

「でゅっふ!」


 ヘイタが吹き出した。


「スケベと一緒に派手なアクションを楽しめる」

「今期の覇権は決まりですなぁ!」


 などと、僕らはアニメの話題で盛り上がっていた。

 そこへハイレグバニー・豊崎のオープニングが流れ、皆の注目がリョウマに集まる。


 チャットの通知音をオープニング曲に変えるあたり、ガチだった。


「宅配便?」

「……え、……あぁ、……いや」


 いつもなら、「買ったゲームの限定版届いたみたい」とか、笑顔で答えて笑いの種になる。


 だけど、その日は明らかに様子が変だった。


 急に青ざめて、ガタガタ震えだし、堪えるように目を瞑り始めたのだ。

 僕らは他の奴らと違って、友情に薄くない。


 ドライな関係じゃなく、友人としてお互いをちゃんと仲の良い友達として見ていたから、リョウマの様子を見て、心配になっていた。


「どしたよ?」

「はぁ……ハァ……っ……お……おれ……さ」


 リョウマが顔を上げ、口を開こうとする。

 その時だった。


「リョウマくん」


 クラスの女子が話しかけると、大きく肩を震わせ、勢いよく立ち上がった。そのまま逃げるように、「い、嫌だ」と一言だけ漏らし、足を掛けたのである。


「ほあ?」


 間抜けな声が出てしまった。

 なぜなら、リョウマは何の躊躇いもなく、3階の窓から飛び降りたのだから。

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