第23話 閑話 マニューバ・コート開発秘史【追加アップデートで新クラス実装】

 次世代陸戦装備研究所内。


 守山と堀川はミルスミエス<エルヴズ>から回収されたデータを分析していた。


「やっぱりブランチはそんなに多くないな」


「あらかた出尽くしましたね。現代兵器の兵科対応ならバリエーションは多くないでしょう」


「ブランチは機体の操作系統に関するものだからな。やはり能力面ではクラスのほうが重要か」


「スキルと魔法に関わりますから」


 資料置き場にはパイロットたちからあがった報告書が大量に積み上げられている。


 アナログを極めた紙資料だが、とてもモニタ画面とデータだけで対応できるものではなかった。


「サムライとニンジャ、日本外征部隊やたら多いですね。なんなのかしらこの偏り……」


「海外の傭兵たちはナイトとかファイターしかやってないな。アタッカーばかりのネトゲみたいじゃないか、レイドで詰むぞ」


「ゲームではないんです。真剣に分析してください」


 堀川に怒られ、肩をすくめる守山。


 ゲームの話は欠かせないというのに、と無言で訴える。


「ゲームと違うから、だろうな。何せサムライとニンジャは魔法と専用スキルが使える。強化外骨格だからゲームと違って柔らかいということもない」


「ナイトやファイターは地味ですからね。基礎能力の高さは目を見張るものがあるのですが。それよりなんでサムライが魔法が使えるんですか?」


「俺に聞くなよ。おそらく百年前のコンピューターRPGが原因だ。サムライというクラスがあって魔法が使えたらしい」


「なんでそんなことに…… ――それに変わった上位クラスになった者もいますね」


「へえ。ジン君はニンジャの上位シノビになったそうだが、やっぱりまだまだあるんだ」


「ケンシですね。おそらく次のクラスはケンゴウ。剣特化で魔法は使えない、スキル特化クラスですが強いそうですよ」


「そうか。ミルスミエスは何らかの方法によってアップデートされているんだな」


「どういうことですか?」


「追加クラス実装! だよ。ブランチは増えていないのにクラスは新たな発見がある。剣豪はその代表だろう。ミルスミエスで接近戦はコーデが大変そうだ」


「エルヴズは運動性と魔法行使特化ですからね。耐久性は乏しいです」


 守山はそこで初めてため息をついた。


「二年ぐらしか経過してないのに、増えたな。ミルスミエスやマニューバ・コートの製造会社」


「予想通り英国のBritisharmsfieldTechnologies,plc――BAFテクノロジーズ社が台頭しましたね」


「変態発想の元祖だからな。妖精と伝承の国。発想は柔軟かつ兵器開発については老舗。我が国とも五稜重工業と戦闘機をF-3を共同開発している」


 当然といったように頷く守山。


「トロールもうまくいった。PアメリカもAアメリカも独自開発に入ったそうだ」


「エルヴズの機密開示の要求はしつこかったですね」


「情報戦機扱いにして正解だったな。他国はトロールからマニューバ・コートは独自開発に移行する。日本は知的財産だけで莫大な収入になる。大蔵省からも激が飛んできたよ。予算はでるらしい」


「基本設計が良かったのか、安かったですからねえ。マニューバ・コート。日本円でも数千万程度。大量生産する国なら高級車感覚で作れるでしょう」


「傭兵たちも頭部腕部脚部などは組み合わせて装備しているみたいだね。それでいい。部位単位なら何処でも作れる。巨大な合板は必要ないんだから」


「冶金技術提供も助かりました。現在の高炉でも十分対応できるものです」


「まずは傭兵にレンタル。ダンジョンでレアメタルや魔石と呼ばれる触媒を回収してもらったらすぐ返済できるぐらいの額にはなる」


「戦車はダンジョンには入れませんからね」


 堀川は米国で発生した事件で思い出す。


 無理矢理ダンジョンに戦車小隊が突入し、オウガたちに全滅させられたのだ。


 ダンジョンマスターは悪魔アンドラスとされている。


「マニューバ・コートはコックピットとリアクターさえやられなければ稼働する前提だからね。変種の脚部も各地で開発中らしい。フィンランドでは追加ユニットとしてスキー板が開発されたようだ。発展型としてホバー型も検討中だという」


「フィンランドのハリ社やタイヴァス・パヤ社も高性能ミルスミエスの開発に成功したようだ。ミルスミエスは我が国とかの国が起点。他国に負けてはいられないからな」


「問題はヴァーキウェポンの取り扱いですね」


「ヴァーキウェポン――ヴァーキライフル。ヴァーキカノン。そしてヴァーキロケットとヴァーキミサイル。多連装プラズマ弾や追尾プラズマ弾なぞ、敵どころか仮想敵国にとっても悪夢だろうな」


「アルカイム連邦も独自のマニューバ・コートの開発に入ったそうです」


「上手くいかない可能性が高いな。東欧や中央ユーラシア文化は北部東部西部で神話体系が違う。ただアルカイムこそスラヴ神話、北欧神話、ゾロアスターの根源という概念が存在するが、それらをまとめることが可能なら最強のマニューバ・コートが生まれるだろう。ロウヒからヴァーキの概念が提供されている可能性も高い」


 堀川は想像したくない懸念を口にする。


「ルースキー・ミールですか。欧州並びにアジアの起源こそルーシに。アルカイムであるという考え方ですね。つまりルーシに属する人間はすべてルーシ人といえます。相当強力な概念です」


「その通り。ばらばらの国家をまとめあげるには都合が良い概念だ。その口実で他国へも侵攻するだろう。マニューバ・コートを纏ってね」


「マニューバ・コートやミルスミエス同士の戦闘も発生する可能性があります」


「そりゃ大いにあるさ。今まで無かったほうが不思議なぐらいなんだ。みんな魔石収集に夢中だ」


「魔石とはどういう代物なのでしょうか」


「――超高効率の熱電発電物質。ゼーベック効果という温度勾配によって物質から発する熱から電気に変換する。そうとしかいいようがないものだ」


「魔石が超高効率の熱電発電物質? 熱発電物質は知っています。かつてはボイジャーなど宇宙探査機にも使われたものですよね。魔石は人工的なものですか」


「熱電発電物質自体は自然界でも存在する物質だよ。テトラヘドライトという鉱物は変換効率7%相当の熱電発電物質となる。人工物では層状コバルト酸化物の単結晶だな。種類によっては超伝導反応まで示す。この熱電発電物質はメンテナンスも不要の発電機となる。欠点は発電量の低さだが、魔石は桁外れの発電量を持つ物質なんだ」


「それが事実ならまさにマジックストーンですね。夢の物質としか言いようがありません」


「あるんだから仕方ない。ゴブリンたちの乗っている兵器が無限行動可能なのは魔石によるものだよ。当然、人類側としても有効利用したい。しかもゴブリンやオークはダンジョンから無限に湧いてくるんだ。新たな資源となるかもしれない」


「欠点は出力ですか。確かあのシステムは排ガスなどを有効利用する仕組みだったと思います」


「実は2000年代に熱電発電動力を使った自動車は日本において試作されている。魔石のサイズにもよるが今後のマニューバ・コートやミルスミエスのリアクターは低ランクは魔石によるエンジン。高性能機は小型核融合炉に棲み分けされるようになる」


「需要が追いつきますかね?」


「そこだな。ゴブリンは乱獲される未来しかない。ついでに侵略外来種として根絶してくれると助かるが。魔石はどの国も研究確保に必死だ。可能なら人工的に複製もしたいだろう」


「でしょうね。いくらあっても困らないでしょう」


「そういうこと。クリーンエネルギーだよ。世界を変えるね」


 守山は大きくため息をついた。


「世界の均衡までは手が回らない。私達はミルスミエスをより強力な兵器にし、幻想に対抗することだ」

「歩兵保護の観念が、世界を救う手段になりそうですね」


「技術的優位を得るため必死になってモンスターを乱獲している世界に救う価値があるかは別問題として、ね」


 皮肉めいた笑みを浮かべる守山に、堀川はかける言葉がなかった。

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