第16話 魔法系統魔改造
サラマの問いにふっと笑うジン。
「大好きだぞ」
格闘ゲームやRPGでもコンボ可能なゲームは多い。
音ゲーだってコンボの連続。慣れ親しんでいる。
「実は概念を日本の神様たちが変えたスキルツリーがあるのです。発案者はタケミカヅチさんです」
「日本の神様たち何してんだよ?」
「仏教方面の方からも力を貸していただきました。帝釈天さんと摩利支天さんです。いわゆる武神一同です」
「よく知ってるよ!」
「天遁十法の概念をゲーム用魔法らしく改造してくれました」
次は球電を放つジュオヤタール。
シデンはいなしながら距離を取り、反撃の機会を窺っている。
「ろくな改造じゃない気がする」
「そういわずに聞いて下さい。本来遁法は逃げるための術らしいです」
「忍者はそうだな」
「武神一同たちは天遁十法も概念を改変し、『相手を遁走させずに殲滅する術。略して遁術』に再定義して攻撃的な魔法体系に改造してくれました。本来の用途に似た概念も残っていますので安心してください」
「魔改造にも程がある!」
「まず霧遁を使って下さい!」
サラマのアドバイス通り、ジンは霧遁を発動させる。
周囲に霧が立ちこめる。
放った球電の威力が減衰した。
「霧による対光学兵器の魔法――霧遁。レーザーや荷電粒子砲、プラズマは減衰し、その威力を無くすでしょう」
「ニンジャ強いな! でもこちらの魔法も効かないのでは?」
「そこでコンボです。私がいるのでさらに強化される――電遁と雷遁です! まずは近付いて電遁を!」
「おう!」
不可思議な霧に邪魔され、怒り狂うジュオヤタールに、シデンが接近する。
シデンの機体から放電現象が発生し、エネルギーが右手に集約されていく。
「電遁の術!」
シデンの掌に発生した球電をジュオヤタールに叩き付けた。
球電は爆発し、強力な電磁波を伴った稲妻が体に絡みつく。
「これが電遁。電磁波で相手の機体を麻痺させ、稲妻の鎖で相手の動きを止めます。オウガならそのまま容易く倒せるでしょう」
「さらに雷遁を叩き付ける、と」
「そうです!」
シデンは離れて機械の指を二本立て、呪文発動状態に入る。
「雷遁の術!」
轟音とともに発生した雷が直撃し、ジュオヤタールの内部から黒煙が発生し停止した。
「倒した、のか……」
ヴァーキを使い過ぎたのだろう。肩で息をするジン。
「倒しました。コンボ成功です」
「コンボになっていたのか」
「電遁でジュオヤタール自身が巨大な避雷針、いわば誘雷針になっていました。そこで数百メガジュールもの熱量を持つ落雷を追撃させたのです。本来なら一瞬ですが縛り上げていた稲妻の威力が増加して破壊できました」
「凄いな武神一同の魔改造魔術……」
凄まじい威力に言葉を失うジン。遁術と言うには気が引ける代物になっている。
「ところでシデン。術を発動挿せるとき、印を組む必要はあったのか?」
『ありました』
理由は説明しないシデンであった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「助かったぞジン。しかしこの場所も長くはもたないな」
セッポが戻ってジンに対し礼を言う。
背後にいるハルティアたちも感謝の視線をジンに送っていた。
「秘宝を狙っていると聞いた」
「魔女ロウヒの目的でもある。伝説のアーティファクト<サンポ>が目的だ」
「サンポ?」
「叙事詩カレヴァラの一節にサンポ戦争というものがあるほど有名なものでな。富を約束する自動工場のようなもの。概念的には無限に塩を生み出す石臼や食事がでるテーブルクロスに近いんだが……」
「セッポの作るサンポはそんなものじゃないな」
「よくわかっているなジン。俺が造ったサンポは核種合成可能なD-D反応の核融合炉。海水やそこらにある物質で無限のエネルギーを生み出すことが可能だ」
「核融合炉! 地上の太陽といわれるあれを作れるのか! 顕界でもようやく普及し始めたばかりだし、海水じゃなくてトリチウムが必要だったはずだ」
「俺は人工太陽を作った逸話があるんだよ」
「伝承的にもお手の物ってことか。そういえばミルスミエスも核融合炉搭載だったな……」
目の前の鍛冶神はやはりとんでもない存在と改めて実感する。
「元素合成ともいう核種合成機能は大事だ。発生した放射能廃棄物を無害にし、原子を次々
に変換する。星が発生してから水素が生まれヘリウムになり――最後は鉄となる。つまり万物を作り出せる」
「万物を生み出す工場…… 錬金術の世界だ」
「錬金術だぞ。水銀や鉛も金にすることも可能だ。未知の超重元素も核種変換によって創り出される」
「でも金を大量に生み出してはいないんだな」
「効率が非常に悪いからな。可能であることと、利益がでることは別の話だ」
「夢のある話なのに世知辛いな……」
「そういうな。とくに顕界では放射能にうるさいだろ。サンポが破壊された逸話は人類の手に余る技術の結果という教訓かもしれない。過ぎた繁栄は身を滅ぼす。戦争してまで奪い合うものは、な」
「確かに繁栄がもたらされる機能だけど……」
「俺と兄貴はサンポを巡ってロウヒと対立していたんだ。伝承が叙事詩になるにつれ、俺と兄貴がロウヒの娘を嫁に貰いにいき、ロウヒの要求で俺がサンポを鍛造する。そして色々あってサンポを巡った戦争に発展した。そんなストーリーだな」
「ではセッポは義母と戦うはめに?」
「あくまで伝承の寄せ集め。何度も殺し合いもしたし、俺もロウヒを捕らえたこともある。相容れない関係だ」
「そうか……」
「それに叙事詩カレヴァラではサンポは失われて海に消えた。俺も今製造可能なレベルのものは顕界より百年程度先の核融合炉ぐらいだよ」
「十分ありえない技術だと思うよ」
精霊たちの技術は科学が進んでいると実感するジン。
「そういえば度々話題にでるお兄さんも凄い人なんだよな?」
「カレヴァラの主役でいわば大魔術師だな」
「その人は別の幽世に?」
「いや。もう兄貴はいない。行方不明だ」
「えぇ……」
「補陀落渡海的な最後だったなサラマ?」
「そうね」
「変な例え方をしないでくれ。ノーコメントだ」
補陀落渡海なら二度と戻って来ないだろう。捨身行の一種だ。
「コメントに困る逸話が多いぞ」
「そういうことをいわないでください。私達も自覚はあります。生々しい逸話も多いですからね」
「そうだな……」
しみじみと呟くサラマとセッポ。
「太陽が閉じ込められたりね」
「力が強すぎて仕事をろくにこなすこともできず、暴れて手がつけられなくて追い出された奴とかいるしな」
ジンは口にこそ出さなかったが、日本神話にも似たような逸話を持つ神様たちがいると知っている。
やはりどことなく似た逸話が多いと実感するジンだった。
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あとがきです!
【カレヴァラの主人公】
偉大なる老魔術師で、生まれた時から老人です。
最後は処女懐妊した女性から産まれた子供に死刑宣告したところ、逆にその子供によって裁判され、一人で船を漕ぎ大海へ船出していなくなりました。
多神教から一神教への移り変わりを意味する寓話と解釈されることが多いです。
カレワラ(カレヴァラ)は面白いのでおすすめな物語です。生々しいですが……
魔女ロウヒは太陽を閉じ込め、セッポが人工太陽を作ったといわれています。
これは天岩戸伝説との類似性があると言われていますね。
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