第14話 クラス【シノビ】

 五分ぐらい応答なしのシデン。


 フリーズしたのかと心配した頃、シデンの合成音声が流れた。


『クラス完了。最適化処置を行いました。経験値はまだ残っています。他のクラスが必要になったときの獲得用として使えます』


「今のクラスはどんな感じなのか。楽しみだ」


 モニタを確認するジン。


『更新後のデータを表示します』


 表示されたデータに言葉を失うジンであった。



◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇ 



◆製造:五稜重工業

◆スプライト一式


 全長:6.78メートル

 空虚重量:20トン


 【ブランチ】 アサルトパイオニア

 【クラス 】 シノビ

 【アクティブスキル】

 天遁十法/地遁十法/忍術/隠密/クリティカルアーツ

 【パッシブスキル】 

 運動性向上(高)/機動性向上(高)/状態異常抵抗(高)/精神攻撃無効/致死攻撃向上(高)/天空の加護

 攻撃魔法/精霊魔法/剣術

 【フレームスキル】

 ダメージ軽減(中):スプライト一式スキル

 【所得クラス】

 ファイター/ニンジャ/シノビ/サムライ/ムシャ

 メイジ/ウィザード/シャーマン/ウォーロック

 

 BP:200

 EN:200

 MP:100

 精霊力:7

 武装

 30ミリ機関砲/ヴァーキライフル/近接用長剣



◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇ 



「どこからツッコミをいれていいかわからない」


 ジンの正直な感想だった。ゲームのような項目が増えすぎている。


「ツッコミじゃなくて質問して欲しいです」


 背後にいるサラマからマジレスされるジン。


「天空の加護はサラマのことだよな?」


「不思議ですね? 自然霊みたいなものですから。私」


 とぼけて露骨な作り笑いを浮かべているサラマ。


 追求すると気まずい雰囲気になると確信したジンは別の問いに変える。


「何故サムライとニンジャなんだろう」


「私も知りません」


 目を逸らしながらサラマがこたえた。彼女にも不明だからだ。


『パイロット適性にあわせてクラスを所得しました』


 犯人が名乗り出た。


「そうか。残りも一つずつ解決していこう。見慣れない単語から。ウォーロック?」


「所得できてしまったんですね」


「何か問題が?」


「精霊魔法が使えますが、あなたがかの唯一神の契約を破り、精霊を行使する異端者であることを意味します。いわば異端者ということになります……」


「何か問題が? 俺は雷神の系譜だし、サラマの相棒だろ?」


 なんとなくタケミカヅチの氏子が誇らしくなってきたジンであった。


「そうでしたね! 私のバディです。そしてかのお方の加護があるあなたには無用な心配でした」


 若干ニュアンスが違うような気がしたが気のせいだろう。


「そうだぞサラマ。でなきゃお前と会話できるはずがない」


 セッポも大して気にしていないようだ。逆に言えば気にする人間が多いということなのだろう。


「ジン。何か聞きたいことはあるか」


「似たようなクラスがいくつかあるけど」


「下位職と上位職だ。古い概念ほど強力になる傾向があるな。漢字変換機能もある。好きに表示しろ」


「ケンジュツはサムライ系の技能だな。ミルスミエス用のケンジュツということか」


「サムライは攻撃魔法も使える」


「何故だ……」


「知らん。俺に聞くな。色んな神様が介入してよってたかってクラスを作ったと思ってくれ」


 取り付く島もないセッポだった。


「わかったよ。――メイジとウィザードも強そうだな」


「メイジ、ウィザードも攻撃魔法系のクラスになる。ウォーロックはそれらに加え精霊魔法、より根幹に触れる上位クラスになるな」


 使える魔法を確認し、気になる項目をチェックするジン。


「攻撃魔法と精霊魔法の違いは?」


「攻撃魔法は顕界の物理法則を元に行う対象を限定したゲーム的な魔法だ。お前が使ったファイアボールやボーライトだな。だいたいはプラズマの現象で説明つくから使いやすい。精霊魔法は攻撃に限らず精霊がやってくれる汎用性の高い魔法だ。強力だがMP消費は激しい」


「空を飛んだりできないのか」


「可能だがヴァーキの消費が激しい。スラスターを装備して推力でぶん回してミルスミエスを飛ばしたほうが簡単だ」


「飛行パックみたいなものを開発しないと駄目か。それは今後の課題だな」


「材料を取ってこい。開発してやる。それに時速70キロも出せない地上歩行機械が飛んだところで的だぞ」


「わかっている」


 パッシブスキルの項目も確認する。


「アーチャーみたいなクラスはないんだな」


「砲を担げる兵器で弓を引いてどうする。ガンナーやマークスマン、砲兵のアーティラリーはブランチだな。マニューバ・コートやミルスミエスは人型兵器。重火器装備だ。いくらヴァーキでも弾速は上がらん」


「だよな!」


「とはいいたいところだが、ちゃんと用意してある。シューターと上位のシャープ・シューターだな。電熱砲やプラズマコーティングなどを反映させるヴァーキで弾速強化魔法はある。お前が近接や工作にこだわりすぎて該当クラスを所得しなかっただけだ」


「俺じゃない。シデンだ!」


『パイロット適性に応じた最適化です。ジンの場合、機関砲にヴァーキを使うぐらいならライトニングを撃ったほうが効率的です』


「ごもっとも……」


 ジンとて実際にはそう戦うだろう。ゴブリン相手に機関砲。強敵には魔法という運用になるだろう。


「フレームスキルは何だ……」


「マニューバ・コートもミルスミエスもコーデできるだろ? 基本フレームの組み合わせによってスキルが変化する。スプライトは五稜重工業の一式装備だからセット効果だな」


「マニューバ・コートは共通規格だから他社製品の四肢や頭部も付け替え可能だが…… それでスキルが変化すると厄介だな」


「コーデによって隠れたフレームスキルも発揮されるかもしれん。それはお前が探せ」


「攻略wikiが欲しい……」


 しみじみと呟くジン。何から何までゲーム的な仕様だ。理解はしやすいが戸惑いもある。


「ミルスミエスとマニューバ・コートの区別は?」


「魔法対応のスピリットOSを組み込んだらミルスミエス。なければただのマニューバ・コートだ。規格は共用だから安心しろ」


「魔法か。ロウヒは物理無効といっていたな。魔法以外に対抗する手段はあるのか」


「あるぞ。物理をバグらせる圧力をかけてやればロウヒの物理無効は貫通できる。1ギガジュールぐらいの熱量が最低必要だな」


「1ギガジュールってどうやったら出せるんだ」


「荷電粒子砲なら可能性がある。ミルスミエスで魔法を撃ったほうが早いな。投射する魔法以外では剣術系スキルには近接武器限定でヴァーキ付与や固定ダメージがある。フィンランドには鉄の伝承が多くてな。語りかけると鉄や剣が返答する場合も多い」


「凄いなフィンランドの伝承。前衛系でもダメージを与えることは可能になるということは心強い」


「俺が鉄に【そうなるように】教えた伝承があるんだ」


「凄いのはあんただよ、セッポ……」


 これならロウヒ対策の手段も増え、機装第三中隊のような全滅を免れるかもしれない。


 それにロウヒ以外の敵も物理無効を保有している可能性が高いとジンは考える。


「ヴァーキライフルってなんだ」


「魔砲――ヴァーキを使ったマジックカノン。魔法クラスが使える砲だな。ミルスミエスにおいての魔法系とは重火力制圧装備とおもっていい。こいつは携行装備しかないが、肩に装備する大型砲も開発してある」


「どんなタイプの武器になるんだろう」


「ヴァーキとエネルギー、両方消費する、ある種のビーム兵器だと思えばいいさ。ヴァーキもエネルギーも両方消費するからいささか燃費は悪いがね」


「小型兵器にビーム兵器が搭載可能なんだ。燃費はよくないだろうな」


 パラメータを確認していくジン。


 ゲーム画面を見ているようだった。もっとも大きな変化を質問する。


「最後に質問だ。BPとMPが跳ね上がっている。いや、MPは経験値を積んで効率が良くなったとかそんな感じだろうが…… 機体構造値とエネルギーが跳ね上がっている理由がわからん」


「フレームや外装はこのセッポ様謹製の特殊鋼に換装してある。そのせいで多少重くなっているだろ? 正面装甲は20メガジュール程度の徹甲弾なら簡単には貫通できまい。パワーパックのエンジンはリアクター――核融合炉に変更しておいた」


「……鍛冶屋様。もう信仰するよ」


「ははは。そうだ。信仰しろ。敬え!」


 豪快に笑い流すセッポだが、言葉通りならオーバーテクノロジーに他ならない。


 見た目はただの鍛冶屋だが、やはり神なのだと実感する。


「今は用意可能な素材をかきあつめてシデン用が精一杯だ。モンスターを倒して材料をもとに創り出せばもっと強化可能になる」


「逆にいえば、それほどの装甲を持つ機械のモンスターが敵ってことか……」


「早急にミルスミエスは普及させなければいけない理由もわかったか? マニューバ・コートの基礎設計でも伝えておいたが、大きな施設は要らない。自動車が作れる産業レベルがあれば形は作れるはずだ。あとは底上げだな。おそらく作業機械として使うなら装機装甲車ほども費用はかからん」


「どうすれば普及するんだろうな」


「簡単だ。お前が活躍すればいい。顕界はいまだ外交問題もあって開発が進んでいない。ロウヒ以外にも続々とダンジョンが発生している」


「それだけダンジョンマスターがいるということか。そしてそれらを倒せると証明する必要があると」


「お前の活躍にかかっている。そのためにもまずは各種の稼働テストだな。シミュレーターなんて便利なものはない。森外れに行こう」


「いよいよ動かせるのか」


 ヴァーキという概念を実感するジン。


 これなら戦闘力も底上げされそうだという予感がした。

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