第8話 クラスシステム実装

 ジンが目を覚ました翌日。早朝からサラマが来訪した。


「ジン。あなたのマニューバ・コートの修理が終わりましたよ。修理した人を紹介したいので一緒にきてくれますか?」

「わかった。行くよ」


 気力も回復してきた。


 ジンは立ち上がり、家屋の外に出る。

 

 ――森のベールとはよくいったものだな。


 深い森のなかにある集落のようだ。


 エルフやドワーフたちが遠巻きにジンを眺めている。


「珍しいのです。あの姿になってから初めて人間を見るので見方が変わっているのでしょうね」


「俺もみんなの姿が珍しいからな」


 リアルを突き詰めたヴァーチャルMMORPGはこんな感じになるのだろうかと場違いな思いを抱くジンであった。

 

 村外れにある古い時代の水車小屋。並び立つようにジンのスプライトが駐機状態で待機している。

 

 ――なんて光景だ。シュールにも程がある。


 水車とマニューバ・コート。これほど似合わない組み合わせもない。


「連れてきましたよー」


「おお。ようやくパイロットと話せるな!」


 小屋に入ると鍛冶場ではなく近代的な工場だった。


 すべてがオートメーション化された工場内を、ドワーフやエルフたちが巡回している。


 ――中の広さが全然違うじゃないか!


 外からみたら欧州風の水車小屋なのに、中は巨大工場。ギャップが物凄い。


 壮年の髭をたくわえた男性が近寄ってくる。彫りの深いイケメンという感想を抱くジン。


「はじめまして。ジンです」


「俺は……なんと名乗ればいいかな? 姫様」


「姫はやめてください……」


 からかうようにサラマに尋ねる男。


 力無く否定するサラマ。


「俺はセッポだ。大した存在じゃないから気にするな。ただの鍛冶屋だ」


「大した存在ですよね?」


 ジンからみても明らかに神様の類いであろうオーラを感じる。


「お前はロウヒを倒した。まだ戦う理由があるのかい?」


「ロウヒを倒したといってもまた復活する。仲間が全滅した今、再び戦えるのが俺だけならば、俺一人ででも戦う。これ以上の被害を防ぎたいんだ」


「そうか。戦う理由があるなら安心した」


「どういうことでしょうか?」


「お前のマニューバ・コートだ。ヴァーキが反応しなかったんだろ? どうしてヴァーキが反応せずにあんな状態だったか。日本に問い合わせたぞ」


「え?」


「スピリットOSが改竄されていたの」


「初めて会った時、サラマが言っていたことか!」


 ロウヒとの戦闘中に発したサラマの言葉を思い出すジン。


「お前さん。ヴァーキが扱えないって言われてたんだっけ。そりゃ無理ってもんだ」


「どういうことですか?」


「そろそろ俺に敬語は止めろ。敬意を持ってくれたらそれでいい」


「わ、わかった」

 

 ざっくばらんな男のようだ。


「Vakiは場や固有のものに宿る精神性。力。英語ならpowerかforce。forceに近いと思います。forceは力でもあり、軍勢を意味する名詞ですよね。Vakiもそう。集団を指す意味もあり、古代フィンランドでは万物に宿る純粋な力。それがないと存在が成立しないというもの。ゲームでいうマナですね」


「以前に説明を受けたことがある。日本でいう気や精霊信仰に近いんだな」


「万物に宿る力。日本でもチは血に通じ、魂が宿るといわれていますよね。カグツチ、イカヅチ、イワヅチ、ミツチ、オロチ、タチ――ヴァーキも似た概念です。有機無機関係ありません。場や形があれば宿るものなのです」


「本物の精霊からそんな言葉を聞くとは思わなかったな」


「私達と比較的近い概念を持つ日本と共同開発するようにと伝えたのですけどね。途中で邪魔が入ったみたいです」


「米国が開発中に横槍を入れたと聞いたが……」


「原因はおそらくその横槍です。本来ヴァーキは万物の力にも関わらず、何故か地水火風の四大元素に限定されてました。四大元素に絞ったことで出力は向上していましたが、あなたのように雷属性や光や闇属性は弾かれています。雷属性のあなたでは力を引き出すことなんて無理です」


「俺が? 雷の属性?」


 思いもよらぬサラマの言葉。自分の属性など気にしたことがなかった。


「雷に対する加護があります。私も気になって日本に確認を取りましたが間違いありません」


「日本に確認ってできるのか! 誰に?」


「日本の神様ですよ。世界中の神話体系、敵対関係でなければネットで繋がっていますから。もう少し上の次元になりますが」


「ネットで繋がるとは……」


「最大の誤解はそこですね。私たちフィンランドの精霊や日本も神様の技術水準はあなたたちの世界より上ですよ? だからこそ各地に発生したダンジョン対策のためにマニューバ・コートとスピリットOSの基礎情報を提供できたのです」


「日本の神様も関わっていたというのか」


「俺とコンタクトを取っている日本の担当はアメノマヒトツカミだな。鍛冶屋の神は火を見詰め続けるので一つ目になりやすい。俺は大丈夫だが!」


 胸を張るセッポ。


「セッポの意味不明な自慢はあとで。つまり本来の指向性とは異なるOSになっていました。これでは各地に起きるダンジョン、ましてやロウヒに対抗することなどできません」


「しかしヴァーキに指向性を持たせるという方向性はありだ。そこで姫と再調整したんだ」


「モンスターに対抗するための手段。ジンのスピリットOSを改良しておきました」


「頼もしい…… 助かる」


 開発者たち自ら改良してくれたのだ。


 ジンは彼らの言葉を疑うことはなかった。


「従来のブランチの他に、クラスシステムを実装しました!」


「クラスによって所得スキルが変わってくるぞ。魔法が使えないヤツでもアクティブスキルで色々できる」


 サラマが実装機能を話し、解説担当がセッポだった。


「ヴァーキを使いこなす練度によってクラスチェンジも可能です」


「バーバリアンやらパラディンからサムライまでゲームに登場するクラスは可能な限り仕込んでおいた。あとはスピリットOSの学習次第で共有されるから、勝手に増えていくだろう」


「ブランチが軍隊における役割なら、クラスはモンスターに対抗するための職能ですね。ただ兵器ですのでどのクラスもソルジャーからスタートです」


「いわゆる初期職だな。最初はブランチもクラスもソルジャーだ。わかりやすいだろ?」


「クラスを獲得するとクラスのなかから選択可能なスキルが所得できます。このスキルの組み合わせで上位クラスの選択肢が増えます」


「当然上位クラスほど稀少なスキルが獲得可能。組み合わせてお前だけのクラスを見つけろ!」


「サブクラスもありますよ。パッシブは適用されませんが、アクティブスキルは使えます」


「これで弱点を補う。ソロのモンスター討伐も安泰だ。当然スピリットOSだから目的に合わせて組み替えることも可能だ」


 ――ゲームの謳い文句か。


 ジンが内心呆れている。


「魔法職は系統化された魔法を行使可能になります。ヴァーキは存在力ですから精神力のようなものですね」


「攻撃魔法、付与魔法、修復魔法みたいなやつだ。人間を蘇生させる魔法は不可能だが、機体修理程度なら対応させておいた」


「元は人型機械なのでゲームのように大きな変化はありません。大切なことは機体の強化です。コーディネイトも重要になってきます」


「お前達の世界――顕界で入手困難なものは、モンスターを倒して手に入れろ。素材やコアだな。ゲームでもよくあるだろ? 乱獲してでも貴重な部位を獲得しろ。ひいては平和に繋がる」


 顕界は物質界、いわゆるジンがいる世界のことだ。


 聞けば聞くほどゲームの世界だ。


「どやぁ!」


「完璧だろ!」


 サラマもセッポもこれ以上にないドヤ顔だ。美少女とイケメンが台無しである。


「わかった。わかりやすい。完璧だ」


「でしょう? これでも一日がかりで考えたんです!」


 ――構想時間一日のアイデアをすぐに実装可能なのか。


 非常識な存在に言葉を失うジン。


 二人が自慢するだけのことだとは思う。しかし何よりも不可解な点。それを問いただす必要があった。


「でもさ! どんな原理でゲームのクラスがマニューバ・コートの機能になるんだよ!」


 ジン渾身のツッコミであった。

 

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