第9話 魔操機装ミルスミエス
「え…… 説明しないと駄目ですか」
目を逸らすサラマ。嫌そうではなく、面倒臭そうだ。
セッポも同様に視線を合わせようとしない。
「話すとロウヒ降臨やらダンジョン発生から遡らないといけないので……」
「その話も重要だろう」
むしろジンが知りたい核心部分でもある。
「日が暮れます」
「概要でいい」
ジンも食い下がる。
さすがにマニューバ・コートにゲームのクラスを実装しました! 説明は面倒です! では納得できるものではない。
「わかりました。――本当にざっとした概要で。次元は大きく分けて五種類あります。ジンのいる物質界である顕界、そしてこのカレヴァのような古来から存在する神話や伝承を元にした存在がいる霊域
「なんとなくわかる」
「ダンジョンは幽世から顕界に進出を図った存在が、幻想界の概念を利用して侵攻しています。ロウヒもその一人です」
「待て。ロウヒみたいな存在が他にもいるのか!」
「たくさんいますよ? ダンジョン一つにつき、そんな存在が。ダンジョンマスターという役割で。古今東西どれほどの悪魔や悪魔とされた存在がいると思っているのです。彼らにとっても幻想界は便利な存在でした。多くの悪魔は中ボスとして実装されていますので!」
「悪魔はフリー素材みたいな扱いだな」
「目には目を。歯には歯を。ゲームにはゲームを。――マニューバ・コートを巫術師に見立て、クラスという概念を降臨させてヴァーキを管理することにしたのです。つまりファイターやウィザードという概念を降臨させてスピリットOSに宿らせるんですね」
「えぇ……」
「スピリットOSに幻想世界における<戦士>という漠然とした概念を憑依させることで戦士系スキルが使えるようになるという仕組みだな。人格も実体もないから降臨させやすい」
「可能なのか。いや、可能なんだろうな……」
「この機能を持ったマニューバ・コートはミルスミエスと呼称します。古代フィンランドにおける
「格好いいな! どんな意味なんだろう」
意味が気になるジン。
視線を逸らしつつ、セッポが意味を話してくれた。
「Myrrys mies――日本語に直訳すると‘騒々しい野郎’になるな」
「格好悪いな!」
「冗談だ。Myrrysは古フィンランド語で、雷を伴う激しい嵐。転じて騒音などを意味する単語。フィンランド語で雷はミルスキだからな。ミエスはフィンランド語でman――男や人間。意訳すると嵐を呼ぶ者や嵐を御する者。概念としては北欧神話におけるベルセルクに近い。咆哮し、苦痛をものともせず呪術を使い、剣を手に取るシャーマンだ。ひいき目で見てもベルセルクより賢いと思う」
「ベルセルク! 格好いい……」
「ジンも節操がないですね」
思わずサラマが吹きだした。
「これからマニューバ・コートならぬ人造巫覡のミルスミエスを使い、クラスという概念を憑依させてヴァーキを使いこなすと」
「そういうことだ。日本にデータを送った際には、魔操機装という呼称になると言っていたよ」
「もう日本に!」
「単機の兵器など何もできまい。経験値を溜める必要もあるんだ。早めに普及させたほうがいい。おそらく幻想対策として三機か四機単位の傭兵集団は増えていくだろう。パーティだな」
「経験値分割や支援職のパーティ外サポート対策は施していますので大丈夫です。消費アイテムみたいな真似はさせません」
若干鬼気迫る感のあるサラマであった。
「ゲームで嫌なことがあったのか。サラマ」
「いえ……」
再び目を逸らすサラマは、思い当たるものはあるらしいとジンは直感した。
「米国や欧州あたりが改悪しないといいけどね」
強引に話題を変えるサラマだったが、ジンとセッポは触れないことにした。
「どのみち戦争の道具にされる。なら大和連邦とフィンランドだけでも設計に忠実でいてもらったほうが性能を引き出せて有利になる。ヴァーキや気のような概念を直感的に理解できる人間に開発してもらったほうがいい」
「四大に限定されませんが、地水火風には強い魔法が揃っていますね」
「それでもウィンドカッターでは鋼鉄の装甲は切り裂けないからな」
「実質プラズマ投射である火系や雷撃系が効果的ですね。どんなに硬くても20メガジュール叩き出せば装甲を抜けるはずです。実体のない対戦車ミサイルを所有できる感じですね」
サラマは事も無げにいうが、歩兵にとってそんなものを何もない状態から発射できるなら革命どころの話ではない。
「ヴァーキで強化されている敵には、ヴァーキの魔法が有効だろう。オウガなんて連中は装甲特化だ」
「ドラゴンは…… 厄介な概念ですね。北欧全域にトカゲ型ドラゴンの伝承はないので、英国や東欧あたりからの概念が導入されているはずです」
「ゲームでより、兵器としての側面が強化されている。これは相当上位クラスではないと対抗は厳しい。第五世代戦闘機でも苦戦しているだろ? 空戦ではより強いはずだ」
「ドラゴンか。ロウヒを倒した時のようなサラマみたいな魔法はすぐに使えるのかな」
「あの時はジンにもスプライトにも多大な負荷をかけてしまいました。ジンは死にかけてスプライトは半壊になった理由はリミッターを解除して私が直接魔力を行使したからです。レベルアップしたら似たような事は可能です。もしくは私が一緒に、かつ魔法が使えるクラスなら可能です」
「希望が見えてきた感じだ」
「ですがレベルが足りなければ発動もしません。雑な四大限定だったから解除できたのです。今回はクラスを導入したことでリミッターは強固ですよ」
「強大な力を使いたい場合はレベリングあるのみ、か」
「なあに。どのみち機体を強化するための素材はいるんだ。頑張ってモンスターを乱獲しろ、ついでに経験値も溜まるさ」
セッポの言葉に頷くジン。そして核心に迫る疑問を、あえて口にする。
「やっぱりサラマは精霊ではなく神様なのでは?」
少女をじっとみると照れたように俯いた。セッポは口ひげに手を添えて笑うのみ。
「……精霊ですよ。力を無くした神霊、なのかもしれませんけどね」
「お前がいった姫って言葉が一番しっくりくるな。サラマは。俺たちの姫様だよ」
セッポが笑う。やはり姫と呼ばれることは気恥ずかしいのか、顔が赤いサラマだった。
「……まあ人間を滅ぼしかけた逸話もあるからな」
そっとサラマから目を逸らしながら付け加えるセッポ。
「それは私ではありません! 同族です! 多分!」
「どういう逸話なんだ……」
「フィンランドに広がる森林一帯を火の海にした逸話かな……」
「怖ッ! だからロウヒにあんな一撃が可能だったんだ」
「それは否定しませんけど! その逸話に関係あるからこそ、あの一撃は可能でした」
「何故火の海に」
「うっかりだ」
「え?」
「預かった【火】という概念そのものをうっかりフィンランドにこぼしてしまったんだ」
「うっかり」
思わずオウム返しになってしまうジン。
「しかも本人が気まずかったらしく隠していた。俺と兄貴が必死になって原因を探ったら……」
「もうやめてくださいー」
本人的に黒歴史なのか、顔を真っ赤にしていやいやと首を振るサラマ。
やはり本人ではないかと疑うジンであった。
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後書きです!
【魔装機装ミルスミエス/Myrrysmies】
ついにタイトル回収です!
ミルスは古フィンランド語。フィンランドにあった第二次世界大戦の戦闘機ミルスキは嵐という意味で綴りも似ています。
ミエスは男性や人間という意味となります。
フィンランドのデスメタルバンドにはMyrrysという曲もあります。
最初の第五界はカバラや神智学などをもとに設定しました。
物質界=地 幽界=水 真界=風 神界=火 根源=空として当てはまります。厳密な魔術用語はまた違う解釈になるのでこのあたりで!
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