第2話 精霊の力【ヴァーキ】

 ジンの索敵能力は非常に優秀だった。


 敵の警戒網をくぐり抜け、ロウヒがいるもとへ侵攻を続けている。


「ゴブリンどころかオークにオウガ。新米冒険者ならイチコロだぞ」


 ゲームに例えて苦笑する隊員。


 ジンがいなければオークやオウガと交戦し倒されていたかもしれないのだ。


「そんな連中が人型兵器に搭乗しているんだ。やってやれるか」


 笑い事ではなく、不機嫌な声で応じる別の隊員。他のものも彼の気持ちは理解できた。


「オークが俺たちのスプライトと同程度。オウガが十メートル級か」


「遠視可能なことが救いだな。しかし大きくなるにつれ的だなとは思うが…… 相当硬いらしいな」


「フィンランドのカレリア地峡軍の戦車がまったく通用しなかったようだ。 最新の主力戦車パンターⅡの155ミリ滑腔砲による最新型徹甲弾によって、かろうじてオウガの装甲を貫通可能との報告が上がっている」


 フィンランド軍は旧ソ連であったノヴゴロド連邦共和国に備えて防衛力を強化していたが、オウガやオーク相手には苦戦している。


 目下量産配備を進めている最新主力戦車の砲撃や航空爆撃が有効ではあったが、航空戦力はドラゴンによって一掃されてしまっている。


「作戦ポイント到達。ドローンを飛ばします」


 ジンのスピリットが背後に背負っていた翼状のものを切り離す。


 全長は七メートル近いマニューバ・コートとほぼ同じ。展開した翼は十二メートルにもなる大型回転翼機のドローン。


 歩兵にとってドローンはもはや必須装備ともいえる。


「できるだけ接近します」


「無理はするなよ。ドローンによる情報だけが今は頼りだ」


「はい!」


 ダイチの言葉に頷き、低空飛行、低速で慎重にドローンを飛行させるジン。


 ――頼むぞドローン。今はお前の目だけが頼りだ。


 ヴァーキ適性が高いせいか、ドローンを直感的に操作可能なジン。


 これはダイチやジンと仲が良い一握りしか知らない事実。


「目標確認」


 ジンがダイチに報告する。


 カメラは巨大な女性型機械を捉えていた。老婆というよりは女王の彫像を思わせる。


「これがロウヒか。当然ながら生身ではない、か……」


「衛星地図との照合完了しました。転送します」


 現在地と照らし合わせ、もうすぐ魔女ロウヒがいるであろう地点に到着するということがわかる。


 ――攻撃かッ!


 直感的にドローンが旋回する。

 ドローンに向かい赤く燃える火球が飛来したところ、ぎりぎりで回避できた。


「ドローン、敵機に察知され攻撃を受けました。おそらくゴブリンシャーマンです」

「噂の魔法型か!」


 魔法弾を飛ばす存在の噂を聞いていたダイチが顔をしかめる。


 どの程度の威力かは未知数。主力戦車の装甲なら耐えることが可能らしいが、マニューバ・コートで直撃を受けた場合は不明だ。


「ヴァーキを用いた魔法行使型マニューバ・コートはまだ実験段階らしい」


「ヴァーキは未だ条件が不明だからな……」


 ダイチと隊員が周囲を警戒しながらも、魔法を使うというゴブリンシャーマンを警戒する。


「今あるヴァーキは地水火風の属性のみ。地は装甲アップ。風は機動性を、水は運動性を、火は出力アップ。精霊というものは理屈は不明だが兵器にも恩恵を与えてくれるらしい」


 ジンはその会話を無言で聞いていた。


 彼のみ、属性が確認できていない。四大のヴァーキが反応を示さないにも関わらずOSは誰よりも鋭く反応し、制御能力だけは部隊の中でも一番を争うほど。


 レーダーを確認して異変に気付く。


「待ってください。現在の経路ではオウガ部隊かゴブリンシャーマンがいる部隊か、どちらかとの戦闘になる可能性が高いです。さらなる迂回を……」


「いや、迂回したいところだが無理はできん。人喰い鬼か小鬼なら、小鬼とやりあったほうがましだろうな」


「オウガは三機小隊。ゴブリンは十二機はいますよ」


「ならばゴブリンだ。オウガは未知の敵。俺たちの火力で通じるか不明だ。ゴブリン相手はまだ機関砲弾でダメージを与えられる」


「はい!」


 ジンはダイチの判断に従う。彼は偵察結果を伝え判断材料を提供するのみに徹する。


 ――数も互角。あとはゴブリンシャーマンの魔法をどうするか。スプライトで対抗できるか?


 偵察部隊のマニューバ・コートも武装しているので戦闘に参加する。


 偵察隊である僚機のブランチはジンを除いてスカウト。


 ジンは35ミリのライフル型機関砲を。僚機のスカウトはマニューバ・コート用に改造された12.7ミリの重機関銃を構える。この重機関銃の設計は百五十年以上前だが、いまだに現役であった。



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




機装第三中隊のマニューバ・コートは前傾姿勢を取り、前進する。この姿勢になれば機体は四メートル以下まで低くなる。


ゴブリンとの距離を詰める。


「優先はゴブリンシャーマン。ゴブリンを掃討したら一気にロウヒに接近。目標地点から攻撃開始だ。――戦闘用意!」


「はい!」


 前傾姿勢のままローラーダッシュで加速する十二機。練度も高く、連携は取れている。


 大型兵器に乗っているゴブリンはまだ気付いていない。レーダーのようなものは備わっていないようだ。


 偵察小隊は後方に下がり、歩兵部隊の2小隊が先に進む。彼らのスプライトは重火力であり、装甲も強化されている。


「突撃!」


 ダイチの号令のもと、ゴブリンへの攻撃を開始する機装第三中隊。


 後方にいるジンは35ミリ機関砲で援護射撃を開始する。僚機も同様に援護するが、12.7ミリ機関銃ではゴブリンの装甲はなかなか削れない。


「ぐわぁ!」


 歩兵部隊の一機が爆散した。凄まじい火球が直撃したのだ。


「シャーマンか。くそ。見分けがつかない」


 ゴブリンは全て同じ機体に乗っている。ゲームなら呪術師風の出で立ちなのだろうが、兵器だとそうはいかない。


 ――ヴァーキを使うなら何か兆候があるはずだ。


 ジンのスプライトは確かに捉えた。風元の旋風が巻き起こっているゴブリンがいる。


「あのゴブリンです!」


 即座にレーザーマーカー照射するジン。


「でかした!」


 ダイチのスプライトが跳躍した。彼のいた地点に火球がかすめる。


 まさか人型兵器が跳躍するとは思わず、ゴブリンは咄嗟の判断に迷ったようだ。


「くらえ!」


 接近戦兵装は限られる。即座に装甲貫通用の炸薬式パイルバンカーを用い、コックピットごと穿ち抜く。


 薬莢が地面に転がった。杭で装甲を撃ち抜き、ゴブリンシャーマンを一撃で撃破した。


「いくぞ。みんな。あとは雑魚だ!」


 対戦車ミサイルなどは温存したい。


 後方に控えていた大型ガトリングガンを装備したスプライトが前進し、掃射を開始する。

 

 ――それは砲弾の嵐。対戦車用に開発された徹甲弾はゴブリンの装甲など易々と貫通する。


 徹甲弾仕様のガトリングガンを受け、ゴブリン小隊は全滅した。


「ゴブリン殲滅。――次の作戦行動に移行する!」


 ダイチが告げ、隊員たちは気を引き締めた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


後書きです!


【ロウヒ】

ロシアとフィンランドの国境沿いにある、実在する地名です。


【ヴァーキ】

綴りはVäki。発音サイトではヴァキにも聞こえます。正確にはヴァァキかもしれない。

某動画でボーカロイドが歌ったフィンランド民謡があるのですが可愛らしくヴァーキと発音していたことが印象的です。


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