魔操機装ミルスミエス~鋼と魔法のカレヴァラ戦役! 精霊姫と征く反転攻勢!
夜切怜
魔女と精霊姫
第1話 操縦型強化外骨格【マニューバ・コート】
鋼のゴブリンにはどう対抗すればいい? ――小鬼は機関銃の猛射を受けても飛び跳ねる。
鋼のオウガにはどう対抗すればいい? ――悪鬼は152ミリの徹甲弾に耐えた。
鋼のドラゴンにはどう対抗すればいい? ――最強の幻想は極超音速ミサイルでさえ弾いてみせた。
人類は祈ることのみ。為す術はない。
人類は禁断の扉を開いてしまった。ありとあらゆる幻想は存在し、この世界を狙っていた。
好意的な幻想など果たしてあるのだろうか。
二十一世紀を半分終わったにも関わらず、伝承の存在を我らは望むのか。好意的な妖精などは本当にいるのだろうか。
期待はできまい。
ならば今ある火力で押し切るしかないだろう。
2067年11月1日 幻想対策連合司令官ジェームズ・マーシャルの述懐より
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
鋼の戦士たちが編隊を組んで進む。
彼らは日本外征部隊所属の機装第三中隊。大和連邦の日本国から覇権された傭兵部隊である。
計十二機。偵察隊、歩兵隊二部隊、指揮砲撃部隊の四チームだ。
「噂には聞いていたがあれが機械のモンスターか。マニューバ・コートの初陣が機械のモンスター相手だとはね」
部隊長である広瀬大地が呟く。彼もまた機械の怪物は初見であった。
隊員も応じ、感想を漏らした。
「ダイチ隊長も初めて見たのですか。戦う相手が人間ではないだけましかもしれませんね」
彼らの姿は巨人そのもの。操縦型強化外骨格である機装ことマニューバ・コート<スプライト>だ。
歩兵を守るための防弾コート兼パワーアシストスーツという触れ込みではあるが、全長は7メートル弱。実際には搭乗する乗り物である。
日本とフィンランドの共同開発した兵器であり、開発中には米国も強制介入して完成したいわくつきの兵器だ。
「防弾コートという触れ込みだが、歩く装甲車だなスプライトは」
「服だとは思えませんね!」
二十一世紀初頭の戦争で投入されたドローンは大きく価値が向上。ドローン運用によって歩兵の役割が強化された。
しかしそれ故にまた歩兵とドローン対策も充実し、正規軍同士の戦闘には通用しないほどの火力が戦場を支配する結果となってしまう。
2020年代半ば日本は防衛方針を大幅に方向転換し、戦闘ヘリなどを廃止。無人機運用に切り替えた。
機械の装い。服と同様、目的に応じたコーディネートが可能な搭乗型強化外骨格――それがマニューバ・コートであった。
歩兵とドローン対策として主力戦車に装備された戦車の多砲塔化と機関銃の大口径。主砲からも発射可能になった散弾のように金属片を撒き散らす破片調整弾や高密度FRP弾。友軍戦車のアクティブ反応装甲。歩兵は従来の戦争よりも脅威に晒されることになった。
もっとも重視された性能こそ、ドローン運用も円滑に行うための母機機能。マニューバ・コートでは歩兵では運搬不可能な大型ドローンが操作可能になり、コントローラーとなる指揮車は不要だ。
パイロットたちは通信で会話する。モニタには各自の顔が映し出されて会話を行った。
「仕方ない。服と言い張らないと輸出制限を受ける」
ダイチは政治的な決定に苦笑すした。
スプライトは四肢にあたる部位が太い人型兵器。現在は白を基調としたパターン迷彩が施されている。
両肩の部位には防盾が装備され、ローラーダッシュが可能だ。戦場では安定性を増すため歩行が優先され、僅かながらジャンプも可能。
頭部にあたる部位は機体によって様々だが、スプライトはラインセンサーとカメラを併用したバイザー型の頭部だ。歩兵部隊のスプライトは両肩にシールド、脚部に追加装甲を装備している。
「まずい。通信が入った。幻想対策連合の空軍が怪鳥とドラゴンに襲撃され交戦中らしい。さらに幻想に侵食された友軍から奇襲を受けた」
ダイチの声で緊迫感が増す空気となる。
「どういうことだ?」
「ノヴゴロド連邦の連中が幻想に侵食されて乗っ取られた。欧州軍は撤退中だとさ。バルト海付近で展開していたフィンランド湾付近の連合艦隊が交戦中だそうだ。俺等の母艦ミカサも轟沈したらしい」
ダイチが隊員に情報を伝え、渋い顔をする。隊員が確認するかのように尋ねた。
「らしい? とは」
「魔女の結界内だ。通信妨害を受けている。――しかし旧式艦とはいえ、呆気ないものだな」
海外遠征に消極的な日本国は傭兵組織として日本外征部隊を設立。それに伴い海上自衛軍の旗艦だった排水量七万の旧式護衛艦である両用作戦指揮艦ミカサを日本外征部隊へ供与したのだった。
「元凶になった魔女を倒すしかない。カレヴァラの魔女ロウヒを」
カレリア地方での伝承に謳われる魔女ロウヒ。匿名の情報提供者によりフィンランド軍に復活が告げられ、北欧連合の偵察機がその存在を確認。
衛星写真は妨害され、その後詳細を把握することもままならず、国連所属の幻想対策連合軍が派遣され現在に至る。
「これだけの戦力で…… 無理だろ……」
隊長と所属の兵士が戦況に憂いている。状況が絶望的だ。
彼らは生き延びているが、他国の軍は撤退中。マニューバ・コートが選ばれた理由はただ一つ。
――ダンジョンが生成された場合、踏破し魔女ロウヒを討つためだ。大軍ではダンジョン攻略には不適なのだ。
「カレリアは森と湖ばかりだ。戦車も展開できん。ドラゴンなんざ空飛ぶ駆逐艦だ。戦車ですらない」
機装第三中隊はフィンランド国境を抜けてカレリアに発生した特異点ダンジョンに向かっている。
各国の軍隊もロウヒ討伐に向かっているが、続報は途絶えている。
北極圏に近い11月に入ったばかりのこの地域は約200日以上雪が降り続ける過酷な地であった。
「敵反応あり! 警戒を!」
前線観測員であるジンが警鐘を鳴らす。
隊員たちのなかではもっとも若い、日本人の青年だった。
「モンスターか!」
木立の陰から、機械の獣が姿を現す。
「これが……ゴブリンか」
ゴブリンと呼ばれた兵器は三メートル大の人型兵器。頭部は実に禍々しい。口を模した部位には牙まで見て取れる。実際に噛みつくことも可能だろう。雪原地帯だというのに緑色の機体で視認はしやすい。
迎え撃つ鋼の戦士。
「くらえ!」
隊長機のバイザーアイ型の頭部が機影を捕捉する。
前方にいた機装第三中隊のスプライト三機が機関砲を構え、ゴブリンに砲弾を浴びせた。耳障りな金属音が連続して響き渡る。瞬く間にゴブリンの装甲は削られ、やがて動きを停止した。
「どれ……」
隊長機が破壊されたゴブリンに近付き、装甲を斬り裂いた。
コックピットの中には本物のゴブリンとしかいいようがない、緑色の肌をした不気味な生物の死体があるだけだった。
「これが敵。幻想生物ゴブリンだ」
「ゲームまんまのゴブリンですね……」
画像を共有する日本外征部隊たちは絶句する。
猫背で邪悪そうな牙が映えた顔。緑色の皮膚はゴブリンとしか形容できない。
「あ! みてください!」
ゴブリンの死体が崩れて塵となる。風に吹かれて飛んでいった。
「死体を回収して分析も無理か」
「乗っている機体は消えないようですが、任務も遂行していない状態で運搬は避けたいですね」
「放置しよう」
ジンがレーダーの反応に気付き、声をあげる。
「敵小隊も接近中!」
ジンが飛ばしていた大型ドローンが敵機に撃墜された。
全長六メートル。全幅は十二メートルもある威力偵察も可能な飛行型ドローンが、たった一撃の火球らしき攻撃で撃ち落とされた。
「俺たちは<ソルジャー>系列だ。ジン、お前はスカウト系<リーコン>のスプライト。激しい戦闘に対応できまい。後退し戦線から離れろ」
ダイチがジンに勧告する。無表情だが、若いジンを絶望的な任務に向かわせたくないのだろう。友軍信号も途絶えている。他国の部隊は全滅したのだ。
「ダイチ隊長! 我々がここまで進軍できた理由はジンの索敵能力あってこそです」
「だからこそだ。ジンだけなら生還できる見込みは高い」
ジンだけなら敵の包囲網を抜けて人類勢力のもとまで帰還できるとダイチはいいたいのだ。隊員もはっとして頷く。
「そうか。ジンだけなら我々と行動するよりも確実。このゴブリンの情報も幻想対策連合司令部に持ち帰ることができる!」
「情報一つ一つが人類の命運をわける。――どうだ。ジン。お前だけでも引き返さないか」
マニューバ・コートは兵種を設定し、用途に応じた動きが可能となる。ジンのスプライトは
機体に設定されたブランチによる機体制御によって機能が異なる。歩兵であれば戦闘力が底上げされ、ジンの場合は各種の偵察機能が付随する。戦闘には不適だが戦えないというわけでもない。
「いや、俺はまだ……」
「お前は【ヴァーキ】が引き出せない」
ダイチが感情を込めずに告げる。ヴァーキが引き出せないということはマニューバ・コートを操縦する者にとってはハンデとなる。
「っ!」
思わず息を飲む。ジンに足りないもの。それはヴァーキと呼ばれる精霊力だった。フィンランド伝承に由来する言葉で、万物に宿る力や精霊のようなものであり、日本における精霊信仰とほぼ同じ概念と解説されている。
マニューバ・コートはフィンランドで開発された意識を持つ汎用人工知能<スピリットOS>を搭載した人型兵器。仮想精霊はマニューバ・コートの制御と同時にヴァーキの運用を可能にした。
――確かに俺はヴァーキを引き出せない。ヴァーキ適性が高いと判断されたにも関わらず、だ。
ジンはヴァーキ適性が高いと判断されたにも関わらず、ヴァーキを引き出せない欠点を抱えていた。適性が無いわけではない。ヴァーキが無ければリーコンなどという複雑な操作を要求されるスプライトを操縦することは不可能なのだ。不具合としか言い様がないのだ。
――それでもこの部隊のために戦いたい。
ダイチはジンがリーコン適性があることに着目し、機装第三中隊に抜擢してくれた。
不景気で就職先がなかったジンにとって恩人だ。
「それでも俺は行きますよ。位置情報は武器です」
「そうか。そこまでいうなら止めはしない。頼んだ」
実際、連携していた他軍のマニューバ・コートは撤退を開始している。
ジンによる索敵で奇襲を受けずにきたからこそ、彼らの部隊は戦えたのだ。
「目標地点の旧市街ロウヒ。――魔女ロウヒがダンジョン生成を行っている場所まであと少しだ。いくぞ」
かつてカレリア共和国の街ロウヒ。魔女とも女神ともいわれるロウヒ由来の地名であり、ロウヒのダンジョンが発生したことは偶然ではないのだろう。
日本外征部隊機装第三中隊は、進軍し続けた。
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