酒豪勇者〜まだ見ぬ酒を求めて〜

文月紅凛

序章 朝日が昇る

第1話 それはアサヒが眩しい場所

 女子校出身。アラサー酒好き女は、今日も同僚と飲んだくれる。会社が、終われば居酒屋、BARを梯子する毎日を。

 酒を飲むのは楽しい。一人でしっぽりと、同僚と盛り上がりながら、友と談笑しながら。三十路アラサーにもなって、バカするのが楽しい。年齢を重ねる毎に楽しみは減っていく。

 それが私……神楽旭かぐらあさひ


 何か始めようと思っても、体が着いていかない。仕事でPCをいじってばっかで、四十肩になるし、ならばゲームをって、最近のゲームは難しい……挫折。

 恋をしてみようなんてのも、今更起こらない。歳食った独身売れ残りをもらってくれる人なんて、少ないだろうし諦めている。


 今日はそんな私の類友あきらと、宅飲みの約束をしていたのだ。


「お久しぶり、あっちゃん!」

 私より2つ年下の、高校時代の後輩。

 

 日頃の鬱憤や愚痴を曝け出したりして、楽しんでいた。

 晶との出会いは高3の四月頃、吹奏楽部の練習で放課後居残り、サックスを吹いているときだった。突然音楽室を開ける。流麗な少女がこちらを、ちらりと目線を合わせてきて、滑らかな曲線美は秀雅で見惚れていた。それが晶との出会い。意気投合して、一夜を共に過ごしたり、カラオケしたり1年最後の青春を彩ってくれた最愛の友。


 深夜、静かな頃合い、着々とアルコールを蓄え酔ってきた。すると晶が、度数の高い酒を私に薦めてきたのだ。既にへべれけな私は調子にのって、それをいき良いよく飲み、力が抜け倒れるのだった。


「ちょっと、あっちゃん!?」


 私が一気飲みをするとは、思ってもみなかったようだ。

 溢れ落ちる酒が溜まりを作り、むせかえる私の息が溜まりに波たてる。

 心配する晶は、片手に携帯を持ち救急車を呼ぶ。


「あっちゃん、しっかりして!」

 友は動揺しあたふたしている。私の体を片手間に揺らしながら、呼びかけてくれている。意識が落ちないよう、ずっとずぅーっと私の名前を呼んで、悲しい顔をして。

「落ち着けよ。」


 掠れた声でそう友に助言した。

 喉が焼ける呼吸がしずらいまだ酒を飲みたい、まだ知らない酒があるのに。動悸で正常な判断ができない。

 次第に私は、何も考えられずに、目を閉じた。ただ晶の叫びが聞こえるだけだった。


 『酒で死ぬとは何とも愚かな者よ。そして酒が好きな者よ。』



      『



 あれから何日たったか、朝日が照らす温かい瞼を上げると身に覚えのないベッドで寝ていた。それにしては小さなベッド。私が収まるにはとても…いや、収まって……る?

「あうぅ〜」


 声を発してみたが、赤子の声がする私から。首を横に倒して、辺りを見渡すと柵が目の前にある。それを必死に掴もうとすると、小さな可愛いおててが、見えた。

 もうここで私は感づいた。私の手だと。さっきのは私の声なんだと。で今いる場所は赤ちゃん用のベッドなんだと。


 晶から貸して、もらったラノベというものを読んだ事があるけど、そういうのに似た状況。そう転生。読み疲れてほとんど覚えてないけど。これは神がくれた恩恵かとそう思うようにした。それか夢。


 そんなことを思っていると、ギィと木が軋む音が聞こえて、誰かが近づいてくる。段々と音が大きくなり、扉が開くと太ももまである金髪に、背後から見える翼のある天使の様な、女が私に近づいてくる。そして軽々と抱き上げる。

 私はもしかして、転生などではなく。やっぱり死んでいるんじゃないかという気持ちも、芽生えた。


「いい子にしてたかな! エルナちゃん!」

 女は私の背中をみて、撫でる。

「翼はまだ、生えてないわね」

 心配顔をして私をベッドに置き。頭を優しく撫でた。

「ミルク作ってくるから、大人しくしててねぇ〜」


 多分、母だろう。久々におぎゃって甘えたいと思わせる母性を感じた。抱かれたぬくもりは、安心をもたらしてくれた。これは間違いなく私は生きている。ならば、今は第二の人生を謳歌しよう。この世界を好きにいきたい。苦なんて無い人生を。


 そして時は遅くそして徐々に早く進み、7年が過ぎる。その時の流れの中で私はこの世界の事を少し知れた。母からはまだまだ成長途中なんだから遊んできなさい。と言われ深くまでは教えてはくれなかった。それは天使が余りにも長寿すぎる為だろうか。実際に母は幾千年生きているし、私の兄姉も居るみたいだし。私も追求はしなくていいかと思い。今は遊ぶことに専念した。元人間の私は楽な方に行くのもあるから。

 その中で気になることは、導きという能力と魔法というファンタジーありきの能力。導きという言葉を聞いたのは、生を受けて五ヵ月、九つの天使が描かれたステンドグラス が綺麗に輝く教会でのことだった。


「バクス司祭。よろしいですか?」


「おお、これは、アランカ・リシュブールさん。もしや、エルナさんの導きの事ですかな?」

「お話が早くて助かります」

「いえいえ、導きを授かるのは、生後五ヵ月ほどですからな。そんな気がしただけですよ」

「それでは、お願いいたします」

 司祭にエルナを任せ、豪華に着飾られたベッドに寝かされた。すると司祭が何かを唱え始めた。


「我が主神である。バッカスが認めたもう。ここに導きを示さんと」

 そう唱え終わると、司祭に神託が下りてきた。

「この子は、酒豪の導き……酒を求めて世界を回りみなを笑顔にする。主神バッカス様が、言っておられる」

「皆を笑顔に……いい導きをもらいましたね。エルナちゃん」


 ベッドをのぞき込む母の顔は、微笑ましくて、私も赤ちゃんながら、きゃきゃっと笑ってしまった。導きで記憶にあるのは、今の所、そこまでで、魔法に関しては、訳が分からなかったので、あまり覚えていない。


 そして、私は小学生並みに成長して、姿は前世の私とは似つかぬ、黄金の短髪美少女になり変わっていた。



 そういう導きも相まって、私は今日も出かける。

「お母さん、行ってきます!」

 私は外へ出る。踏み締める雲の感触。そうここは空島だった。赤子の時抱き上げてもらった時に見えた窓の外を見た瞬間私は驚いた。そこは雪の様に真っ白で羊の毛の様にふわふわした雲が地面だったから。


 弾力のある雲の上は歩きづらく、小さい頃はよく転んでいた。怪我をする事はないし、痛くもない。

 そんな雲の上、何処に行くのか。

 私の住む村から遠く離れた雲の端っこ。土が地面の地上が見える場所。


「あ、やっときた! おーい!」

 こっちに手を振る白髪ボブ少女は、こちらの世界初の友達アリス。

「まった?」

「ううん、ボクも今きたところ」

 彼女と地表を眺めるのが日課で、いつか降りて一緒に旅をする約束を交わしていた。

「いつ翼生えてくるかな」

 想像しただけでも。わくわくする気持ちが抑えられないでいる。

「わかんない。でも成人の日に飲めるお酒を飲べば生えてくるってママ言ってた。」

「そんな事あるの?」

「うん! 天酒って言うんだって!」

 翼が生える酒がある。それだけで飲んでみたくなってきた。私はある提案をした。

「ねぇ、飲みに行かない、天酒」

「え?」


 混乱が目に見える形にきょとんとしている。

 何を言っているのかわからないみたいに。

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