第2話 翼を授ける者

 ただの迷信かもしれないがそんな珍酒呑まないわけがない。


「それで何処にあるの」

「エルナの家にあるよ?」

「え?」


 次はこっちがポカンとしてしまった。7年もいながら、その様な物は見た事がなかったからだ。酒好きが、見落とすわけがない。家にあるならば、こうしてはいられない。酒は人生において百薬の長である。


「よし、家に行こう」

「本当に飲むの?ボクは嫌だよ…怒られたくない」

「それじゃ、私だけ行ってくる。アリスは待ってて、こっそり飲も!」

「うん」


 笑顔で頷くアリスを、置いて走って家に帰る。愛しのマイハニーが待っているのだ。アリスにも飲ませてあげたい。得手不得手あるかも知れないが一度飲んでほしい、そんな思いで走った。ニヤけながら走った。


 雲の上をトランポリンで跳ねる様に歩き、ルンルン気分のまま家へ帰りつく。漆喰壁の家、四角くてまるで豆腐。醤油でもかけて食べたくなる。そんな家の扉を開けて、ただいまと母に告げる。


「あら、おかえり随分早いじゃない。どうしたの?」

 母は平手を頬に当て、不審な顔をみせた。

「いや、ちょっと忘れ物」


 と定番の言い訳をかまして、部屋や廊下などを細かく探した。そして見つける、不自然な形の穴を、自室の天井から。しかしながら私の身長では届かず、部屋にあるものをとにかく積み重ね、不安定ながら登山家の如く、登り穴にたどり着く。髪につけてあったヘヤピンを抜き、弄ってみるとカチッと音と共に天井の一画が開き、落っこちる。少し痛かったが我慢できる程度。


 立ち上がると、目線の先に瓶らしき物が落ちている。その瓶に近づき、拾い上げてラベルを見てみると、解読不可能な文字が、刻まれていた。多分言語が、この空島のものではないためだ。だがこれが天酒だという事はわかる。感だけど。これを抱き抱え急いで外へ出て、アリスの元に向かった。


「お待たせ!」

「本当にもってきたの!?」

 目をかっぴらいて驚く。

「飲もう!」

 そう言い瓶のコルクの蓋を、開けるとフルーティーな香りが鼻をくすぶる。だがアリスは苦手な臭いだったらしく、鼻を摘まんで、嫌そうな顔をした。それを気にせず直瓶で飲み始める。

「おいしい……」

 味はワインを、彷彿とさせ芳醇な日本酒で……複雑ながら纏まって、美味であった。さながら酒の神が想像したかのような、完璧を思わせられる。アルコールのせいなのか、にやけ顔が止まらない。


「お、美味しそう……だね」

「嫌な顔したから、あっげなーい!」

「エルナの意地悪! ちょっと苦手だっただけじゃん!」

 そっぽを向いてしまった。からかい過ぎたかなと「嘘だよ!」と天酒を差し出した。

「う、うん」


 しどろもどろながら渡された天酒を同じく直瓶でいく。雲の上絶景を観ながら友と飲む酒は格別。何にでも代えがたい。ぽかぽかの日差し心地よく酔いも回ってきた。

「美味しいね!エルナちゃん」

「顔真っ赤っかだよぉ……うふぇえへへへ」

「エルナちゃんも酔ってるじゃん……」

「え? なに? 聞こえなかったぁ、ふへへへ」

「もう、美味しいねって、言ったの!」

「そうだね……私酒好きだからさ……こうして友と飲むのも最高だなって……」

「うん! 急に真面目になるから、怖いけど。でも、これで翼が生えるのかな。楽しみ。」

「あぁ、それまで空でもみてよーよ。雲ないけど!」

「私たちが、雲の上に居るもんね!」

 そういいながら、2人とも寝っ転がり、笑い……そして私たちは眠ってしまった。




 目を覚ますともう夜だった。だけど妙に集落方面が紅く照っている……そして騒がしい。

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