8. 秋のフェスティバル

 今日は、契約書のことは忘れて、思う存分秋のフェスティバルを楽しもうと思っていた。

くだらないことに頭を悩ませて、楽しい時間を台無しにしたくはなかったのだ。

 実際、それは上手くいった。

秋のフェスティバルはクララの想像以上に楽しいものだった。


 クララはあの後、ドロシー、アリソンと別れ、レーナと一緒にザカリー、ダグラスと合流した。

ザカリーとダグラスにさっき起こったことを多少脚色しながら話すと、2人は驚き、面白がり、サラが秋のフェスティバルから追放されたことを喜んだ。

 午前の残りは、プロのフェレーヴェルから夢を買い、それらを見て過ごした。

その際に、「調合学」で作ったレヴェタッサーを使ったが、レヴェタッサーは最高の出来だった。

メグはクララとザカリーのレヴェタッサーがきちんと出来ているところを見て、腰を抜かした。

その様子があまりにもおかしかったから、4人ともしばらく笑いが止まらなかった。


 太陽が空高くまで昇ると、4人はお腹が空いてきた。

そこで、屋台をまわって食べ物を買うことにした。

雲の上にはビニール袋がないから、シャトー・カルーゼルの生徒たちは各々で布袋や革袋を持参し、そこに買った物を入れる。

 4人はミートパイ、フルーツタルト、ハーブ入りパン、蜂蜜ケーキなどを買い、広場の中央にあるベンチで食べた。

どれも、雲の上でしか採れない果物やハーブが使われている。


 午後からは、4人ともクラス・ジョーヌの屋台のシフトが入っていた。

 シフトを決めてくれたアレックスは、仲の良い人同士が同じシフトに入れるように配慮してくれていたのだ。


「私、お客さんにクッキーを渡す役割がいいわ。」


 シフトを交代すると、レーナが言った。

クララ、ザカリー、ダグラスは3人ともこれに賛成した。

レーナは愛嬌のある顔立ちだから、生徒たちは屋台に立ち寄りやすくなるだろう。


「じゃあ、私はクッキーをかまどで焼くわね。」


 このクララの意見にも、反対はなかった。


「それじゃ、俺はクッキーの生地をこねることにするよ。」


 ザカリーが言った。


「「「ダメ!」」」


他の3人は、見事に口をそろえて反対した。

ザカリーには、はっきり言ってお菓子作りの才能が全くない。


「何でダメなのさ。」


ザカリーは、ちょっぴり悲しそうに言った。


「だって、ザカリーの試作品、控えめに言ってもひどい味だったじゃない。覚えてるでしょ?」


 レーナが言っているのは、屋台で出すナッツ入りクッキーをクラスの全員で試しに作った時のことだ。

その時は、敢えてレシピを決めずに各自で好きなようにクッキーを作った。

全員が全員のクッキーを1枚ずつ食べたが、ザカリーのクッキーは本当にまずかった。

生地は生焼けでドロドロしていたし、ダマになっていた。

その上、塩を砂糖と間違えていて、あろうことか木の実は殻ごと入っていた。


「生地作りはダグラスがやるべきだわ。」


クララは言った。

 実は、ダグラスはお菓子作りが大得意で、試作品のクッキーの中でも彼のクッキーが一番だった。

クラス・ジョーヌの中には、ダグラスほどクッキーの生地作りに向いている人はいないだろう。


「じゃあ、俺は何をすればいいんだよ?」


「「「雑用!」」」


今度も、クララ、レーナ、ダグラスの声がそろった。

ザカリーは渋々ながら、雑用をやることを承諾した。

 結局、ザカリーは雑用係として素晴らしい活躍をした。

彼は、3人がお願いしたことを全部正確に覚えていてくれたし、残りのクッキーの枚数や、生地の割合なども素早く計算して教えてくれた。

暗記と暗算にかけてはザカリーの右に出る者はいないのだ。

4人がシフトに入った時間帯は、ちょうどお客さんが大勢きたが、4人が協力し合ったおかげで、何とか切り盛りすることができた。

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