5, 作戦開始!
今日はついに、秋のフェスティバルの日だ。
シャトー・カルーゼルの生徒たちは、大興奮だった。
生徒たちはまず、シャトー・カルーゼルに行き、自分たちで作ったコスチュームを着た。
ただし、クララは別だ。クララは目立たないようにコスチュームの上にメアリーの家から持ってきた、黒いマントを羽織った。
これから実行する作戦では、目立たないことが何よりも重要なのだ。
それから、生徒たちは会場となる広場に移動して、受付で入場券を見せてから会場に入った。
クララ、レーナ、ドロシー、アリソンも、一番人が多いときを狙って、受付の列に並んだ。
クララは列の一番混み合っているところに潜り込んだ。
マントのフードを目深に被っているため、クラス・ジョーヌの生徒とすれ違っても、誰もそれがクララだとは気づかない。
―よし、ここまでは順調だ
クララは早まる心を抑え、冷静に辺りを見回した。
クララはすぐに、列の中で一番ケンカっぱやそうな人を見つけた。
人混みをぬってその人の背後まで来ると、クララは思い切りその人の足を踏んだ。
「誰だ、俺様の足を踏んだヤツは?」
彼は、後ろを振り返って言った。
もちろん、クララはとっくにそこから逃げていたため、彼は友人の一人を疑うことになった。
「よくもお前、俺様の足を踏みやがって!」
「踏んでねーよ。目、見えてんのか?こいつがやったんだろ?」
「俺じゃねーし。どうせ自分で自分の足を踏んだんだろ、このマヌケ!」
たちまちケンカが始まった。周りの生徒たちはワイワイはやし立て、誰も黒いマントの人物には目を止めなかった。
一方、騒ぎの中心から少し離れたところで、アリソンは合図を出そうと身構えていた。
この騒ぎで、みんなの気がそれている間に、こっそり会場に入ろうという作戦なのだ。
アリソンはとても背が高いから、周りを把握できるし、合図がそれぞれバラバラの場所にいる他の3人にも見えやすい。だから、この役目はピッタリだった。
アリソンは受付係の目が完全にケンカ騒ぎの方に向いていることを確認し、事前に決めておいた「侵入開始!」の合図を出した。
アリソンを除く3人はそれぞれ別の場所から、広場に入り込もうとした。
ところが、そこで問題が起きた。
一番受付に近い場所にいたドロシーが、受付係に見つかってしまったのだ!
―どうしよう!
ドロシーが受付係と話している間、アリソンは気が気でなかった。
ドロシーが捕まって校長先生の前に突き出されることになったら、タイミングの悪い合図を出した私のせいだ。アリソンは自分を責めた。
冷や冷やするあまり息もできないような時間だった。
しかし、ドロシーはホッとした表情を浮かべて戻ってきた。
アリソンは胸をなでおろした。ドロシーは何とか受付係に言い訳できたらしい。
アリソンは深呼吸で息を整え、すぐに、「作戦B決行!」の合図を出した。
そう、作戦は一つだけではなかったのだ。
一つや二つの失敗で、全てがダメになるような作戦をクララが立てるはずがない。その上、4人で何度もシミュレーションして、決して落とし穴がないようにチェックしてある。
4人は移動して、それぞれ新しい持ち場に着いた。
騒ぎがある程度収まると、アリソンは列に並んだクララが受付係のところに行くのを見た。
ついに作戦Bが動き出す。
「ねえ、アリソンって子がここを通らなかった?長い金色の巻き毛で、笑うととても可愛いの。見なかった?」
クララがそう言うと、受付係は首を振った。
「そう。じゃあ、ここで待っててもいい?広場に入ると人が多すぎて会えないかもしれないもの。」
「そういうことなら、どうぞ。」
受付係は、クララが入場券を持っていないことには気づいていない。
まさに、狙い通りだった。
クララは広場の入り口のそばで、アリソンが来るのを待つふりを始めた。
実際のところ、クララはすぐ近くに待機しているドロシーと目配せしていた。
そして、ドロシーの準備ができていることを確認すると、いかにも待ちくたびれたという風に伸びをした。
これが、アリソンへの「準備OK」の合図だった。
クララの合図を受けたアリソンは、今度は受付の後ろにいるレーナに合図を送った。
受付の後ろには、受付係が休んだり、荷物を置いておいたりするための小さなテントがある。
レーナはあのケンカ騒ぎの最中に、ここに隠れたのだ。
アリソンが合図を送った数秒後、突然そのテントが倒れた。
言うまでもなく、それはレーナの仕業だ。
2人の受付係は驚いて後ろを振り向いた。
ドロシーはそのチャンスを逃さなかった。
彼女は瞬きする間もないような素早さで、秋のフェスティバルの広場へと走った。
今度は、誰にも気づかれずに済んだ。
受付係の一人がテントを元に戻そうとすると、レーナは逃げようとはせず、
「お手伝いしますよ。」
と言って、テントを立て直すのを手伝い始めた。
受付係には、レーナがもともと広場でフェスティバルを楽しんでいたのに、わざわざテントを直すのを手伝いに来てくれたように見えたことだろう。
テントを立て直すと、レーナは受付係に見とがめられることなく、広場に入った。受付係はレーナが会場に戻ったのだと思っているが、本当は入場券を見せることなく広場に入ったのだった。
レーナが無事、広場に入ったことを確認したアリソンは、今度はクララが待っているところへと歩いていった。
「アリソン、遅いわよ。もう10分は待ったのよ。」
クララは受付係にも聞こえるように大きな声で言った。
「ごめん、ごめん。さ、早くフェスティバルに行きましょう。」
アリソンもクララに合わせて言った。
そして、アリソンだけが受付係に入場券を見せ、二人とも一緒に会場に入った。
受付係は、クララがもっと前に入場券を見せていたものと思い込んでいる。
だから、クララが入場券を見せなかったことに、何の疑問も抱かないというわけだ。
こうして、4人はフェスティバルの会場に入場券を見せることなく入ることができた。
会場の中で再開した4人は、大喜びでハイタッチした。
「やったね!私たちってホント天才!」
「クララの作戦のおかげだわ。」
「いいえ、みんなが上手く動いてくれたからよ。」
「とにかく、これで私たちもフェスティバルを楽しめるわ!」
4人は大盛り上がりで、背後に背の高い影があることにも気がつかなかった。
「失礼ですが、お嬢さん方、入場券を見せてもらえないかな?」
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