4, 事件その3

「ない!入場券がないわ!」


 教室のドアを開けた途端に、ドロシーの声が聞こえてきた。クララたちは一歩遅かったらしい。

 クララとレーナは無重力空間が許す限りの速さでドロシーの元へと急いだ。

 ドロシーは自分のロッカーの前で、ロッカーの中身がフワフワとNGTに飛び出ているのにも気づかず、呆然としている。


「ドロシーと私は同じロッカーなの。ドロシーの入場券がなくなったなら、私の入場券もないかもしれない。」


 レーナはそう言って、ロッカーの中にあるはずの入場券を探し始めた。

 クララも、大急ぎで自分のロッカーを開け、入場券を探した。

 しかし、確かにそこに入れたはずの入場券がなかった。

ロッカーの中身を全て出して、ノートの隙間に挟まっていないか確かめたが、やはり入場券は見つからない。


「私の入場券もなくなってる!レーナは?」

「私のもない。おかしいわね。アリソンと同じロッカーだから、サラはクララのロッカーを開けられるかもしれないけど、私とドロシーのロッカーは開けられないはずよ。」


 レーナの言う通り、ドロシーとレーナのロッカーが開けられるのはおかしい。

だが、ドロシーもレーナもクララの友達だ。仮にクララが入場券をなくさなかったとしても、友達が一緒でなければ秋のフェスティバルは楽しめない。

 そして、悪知恵が働くサラなら、クララを困らせるためだけの目的で、ドロシーとレーナのロッカーの鍵を盗むくらいやりかねない。


でも、一体どうやって……


「レーナ、もしかして昨日、ロッカーの鍵をなくさなかった?」

「ええ、確かになくしたわ。4時間目のレヴェタッサーを作る授業のときよ。

でも、お昼ご飯を食べてからちゃんと探してみたら、いつもとは反対側のポケットに入ってたわ。」


それだ!


「サラはレヴェタッサーを作るとき、レーナと同じグループだったでしょう?

あの時はレヴェタッサーを作るために動き回っていたから、サラはどさくさ紛れてレーナの鍵をとったのよ。

それで、ドロシーとレーナの入場券を盗んでから、カフェテリアで人が混み合っているところを狙って、あなたのポケットに鍵を戻した。」


 クララは自分が推理したことを言った。


「でも、ロッカーの場所は本人にしか分からないはずでしょ?スターヴィリック先生が言ってたじゃない。」


 ドロシーが言った。


「ちょっと注意して見ていれば、誰がどこのロッカーを使っているかなんてすぐに分かるわよ。現に、私はクララが薔薇の絵のロッカーを使ってるって知ってるもの。」


 レーナが言う。

 それにしても、どうしたらよいのだろう。入場券がなければ秋のフェスティバルには参加できない。

 クララだけに嫌がらせをするならまだしも、友達まで巻き込むなんて、クララはサラのことが許せなかった。

 こんなことになるなら、肌身離さず入場券を持っておけばよかった。



「大きな声が聞こえてきたけど、一体何があったの?」


 そう言いながら入ってきたのはアリソンだ。


「実はね、私たちの入場券がなくなっちゃったのよ。アリソンのはある?」


 クララは言った。

 アリソンはロッカーを開けるとすぐに、自分の入場券を取り出した。

クララはほっとして、胸をなでおろした。

アリソンのことは、事件に巻き込まずに済んだようだ。


「ねえ、もしかしてアリソンが犯人じゃないの?クララの入場券が盗まれたのに、アリソンの入場券は盗まれていないなんて不自然だわ。

それに、雨雲の繊維の代わりに置いてあったのは、猫の毛だったんでしょう?アリソンは猫好きだから、猫を飼っているじゃない。」


 クララはレーナの言ったことには賛成できなかった。


「違うわよ!入場券が盗まれたなんてさっき聞いたばかりだし、雨雲の繊維のことに至っては、今知ったところなのよ!」


 アリソンが言った。彼女は本当に何が何だか分かっていないようだ。


「アリソンは犯人じゃないわ。雨雲の繊維の代わりにあったのは灰色の毛だったけど、アリソンが飼っている猫は……」


 クララはロッカーの内側に貼られたアリソンの猫の写真を示した。そこには、まぎれもない純白の猫が写っている。


「確かにそうね。考えてみれば、アリソンの入場券だけが盗まれていないのは、ちっとも不自然なことじゃなかったわ。サラはアリソンの親友だもの。

疑ってごめんなさい、アリソン。」


 レーナは素直に認めて謝った。


「待って、待って。何でサラの話になるの?まさか、みんなはサラが犯人だって言うの?」


 サラと仲良しのアリソンはショックを受けている。残念ながら、サラが犯人であることは、ほぼ確実だ。


「サラがクララのことを嫌ってるの、アリソンも知ってるでしょう?」


 ドロシーが言った。


「確かにそうだけど、まさかここまでするなんて。」


 アリソンはなかなか事実を受け止められない様子だ。


「それより、私たちはどうすればいいの?入場券がないと秋のフェスティバルに参加できないわ。」

「スターヴィリック先生に頼めば、再発行してくれるかもしれないわよ。」


 ドロシーが言った。


「もし、してもらえなかったら?

私たち、秋のフェスティバルに参加できないじゃない。だったら、先生には入場券が盗まれたことを黙っておいて、どうにかして受付を突破するのが一番じゃないかしら?」


 レーナはしれっととんでもないことを言った。

ザカリーと一緒にいるせいで、思考回路までザカリー化してきたのだろうか。


「みんな、ごめんなさい。私のせいでこんなことになってしまって。」


 クララはみんなに謝った。

 サラと対立したせいで、レーナやドロシーの秋のフェスティバルまで台無しにしてしまった。


「謝らないで、クララ。あなたがそんな風に思う必要はないのよ。

私は、例え嫌がらせをされても、あなたと友達でいることを選んだんだから。」


 レーナの言葉に、ドロシーも頷いた。


「私も、あなたの味方よ、クララ。みんなが秋のフェスティバルに参加できないなら、私だって参加しない。

もし、フェスティバルの受付を出し抜くつもりなら、私だって協力するわ。」


アリソンも言った。クララは胸が熱くなった。


「アリソンが協力してくれるなら、それを逃す手はないわ。

聞いて。秋のフェスティバルに侵入する作戦を思いついたの。」

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