3, 事件その2
次の日、シャトー・カルーゼルの生徒たちは秋のフェスティバルに向けて大忙しだった。
午前中で授業が終わり、午後はフェスティバルの準備に好きなように使っていいことになっている。
昼食の後、クララはレーナ、ザカリー、ダグラスと一緒にコスチュームの仕上げをした。
レーナは可愛らしいミニスカートに刺繡をし、ダグラスはマントをブローチで止めようと頑張っていた。
ザカリーのコスチュームは一体感のない奇妙奇天烈なもので、恐ろしく雑な縫い合わせだった。
クララは秋を思わせる黄金色のロングドレスに、赤い木の実や草花をバランス良く飾り付けた。それらは今朝、メアリーの家の近くの森から勝手に摘んできたものだ。
それが終わると、今度は秋のフェスティバルの会場となる広場に移動した。
そこで、広場を飾り付けたり、屋台を作ったりするのだ。
クラス・ジョーヌの生徒たちはスターヴィリック先生の指導で屋台を組み立て、ナッツや小麦粉といったナッツ入りクッキーを作るための材料を揃え、クッキーを焼くためのかまどを準備した。
「秋のフェスティバルというから、メイボンのようなことをするのかと思っていたよ。祭壇にキャンドルや農作業を飾って、魔女の儀式をするのかと思っていたのに。」
屋台の台を拭きながら、エドガーが不満そうに言った。
メイボンというのは魔女かケルト人が秋の恵みに感謝する祭りだったらしいが、クララにもよく分からない。
「エドガーが言ってることってホント意味不明。クララ、広場の飾り付けを手伝いましょうよ。」
レーナが言ったから、クララはエドガーの言葉に適当に相槌を打ってその場を離れた。
「じゃあ、君たちはこの木の実を飾ってくれ。」
渡されたバスケットを覗くと、小ぶりの淡い色の木の実がたくさん入っていた。
こっちの木の実のほうが、近くの森で摘んだ木の実より、ずっと雲の上らしくて素敵だ。
「あの、この木の実って余ってたりしませんか?」
クララはバスケットを渡してくれた上級生に聞いてみた。
もし余分にあるのなら、ドレスを飾るのに使いたいと思ったのだ。
「どうだろう?広場の反対側にこの木の実が山のように積まれているのを見かけた よ。まだ余っているなら使っていいんじゃないかな。」
クララとレーナは渡された分の木の実を全部飾り終えると、上級生に教えられた場所へ行ってみた。
見ると、山のようにとまではいかないものの、まだずいぶん木の実が余っている。
「やったあ!」
レーナとクララはハイタッチした。
二人は制服のポケットに木の実を詰め込み、再びシャトー・カルーゼルに戻った。
レーナは木の実をドレスに飾るわけではないのだが、裁縫が得意だからクララに付き合ってくれるらしい。
ところが、コスチュームを出したクララは、驚きのあまり悲鳴を上げそうになった。
―何ということだろう!
ゆったりとした長いドレスの裾が、ビリビリに引き裂かれていた。
「なんで?どうしてこんなことになってるの?」
驚きが冷めるとともに、クララのなかで悲しみが膨らんでいった。
あんなに頑張ってコスチュームを作ったのに、これでは努力が全て水の泡だ。
「分からない。他の子のコスチュームは無事よ。クララのコスチュームだけが偶然破れるなんて考えにくいわよね。
だとすると、誰かが破ったってことになる。犯人はコスチュームの置き場所を知っている人だから、クラス・ジョーヌの誰かね。」
レーナが言った。
コスチュームは、クラス全員の分をまとめて教室の後ろの棚に入れてある。
スターヴィリック先生は何か大事なものをしまうため、棚だと分からないように魔法をかけてくれていた。
だから、クラス・ジョーヌの生徒でなければ棚の存在を知らないはずだ。
「そして、私に秋のフェスティバルを楽しませたくない人だわ。」
クララは昨日のザカリーの言葉を思い出しながら言った。
クララは同時に、雨雲の繊維の事件も思い出した。
「犯人はサラよ。決まってるわ。スターヴィリック先生に告げ口してやりましょうよ。」
レーナは言った。
もちろん、雨雲の繊維がすり替えられていたことはレーナに話してある。
「そうしたいのは山々だけど、今は無理だわ。」
問題はどうやってその証拠を見つけるかなのだ。
ただスターヴィリック先生に、サラが犯人だと言ったところで、肝心の証拠がなければ裁くことはできない。
先生も、証拠がない以上はサラを疑うことはできないだろう。
「それより、コスチュームをどうすればいいのかしら?」
クララは声が震えないように気を付けながら言った。
裾が破れているのでは、もうコスチュームを着ることはできない。
サラはクララのコスチュームだけでなく、心までもを引き裂いた。
あれだけ楽しみにしていた秋のフェスティバルが、急にクララを苦しめる武器に変わってしまった。
「大丈夫よ。いつだって問題を解決する道はあるの。」
レーナは優しくクララの肩をなで、破れたドレスを眺めた。
「いいこと思いついた!私って天才だわ!」
レーナは急にポンと手を叩き、クララに何やら耳打ちした。
それを聞いたクララも、たちまち顔を輝かせた。
数十分後、クララとレーナは有頂天で出来上がったコスチュームを眺めていた。
「認めるわ。レーナは天才!」
クララはもう、大はしゃぎだった。さっきまで落ち込んでいたのが噓のようだ。
「これでサラもお手上げね。サラはクララのレヴェタッサーもコスチュームも台無しにしようとしたけど出来なかった。
あとは明日、秋のフェスティバルを思う存分楽しむだけだわ。」
レーナは言ったが、その言葉がクララの中で引っかかった。
「いいえ。サラはまだ私の邪魔をできるわ。
秋のフェスティバルの入場券よ!
私、ロッカーに入れたままなの。サラはアリソンと仲が良いから、私とアリソンのロッカーを開けられるはず。」
「マズイわ!」
クララとレーナは顔を見合わせた。
そして、大急ぎでコスチュームを棚に戻し、NGTに出た。
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