第五章 秋のフェスティバル
1, エドガー・ハマースタイン
火曜日の朝、クララがクラス・ジョーヌの教室に入ると、ダグラスの席を囲むようにして、レーナとザカリーが何やら話していた。
「おはよう、みんな!」
クララが声をかけると、レーナとザカリーはほっとしたようにクララの顔を見た。
「おはよう!クララが来てくれてよかった。クララが来るまで、ダグラスは槍投げクラブの入部試験の結果を教えようとしないのよ!」
槍投げクラブの入部試験!
すっかり忘れていた。
槍投げは誤って別の方向に槍が飛んでしまう可能性があるため、試験を見ることはできないのだ。
だから忘れていたのだが、昨日は槍投げクラブの入部試験の日だった。
「ほら、クララが来たんだから、もったいぶらないでさっさと教えてくれよ。」
ザカリーはじれったそうにダグラスを揺さぶった。
「はいはい。入部試験は……」
ダグラスはここでちょっとためた。
クララ、レーナ、ザカリーの視線がダグラスに集中する。
「……合格だ!」
3人は一斉に歓声を上げた。
ダグラスはその真ん中で、照れくさそうに微笑んでいる。
ところが、そこに邪魔が入った。
「水を差すようで悪いけど、僕の意見を言わせてもらえるかな?」
そう言いながら4人の間に割り込んできたのはエドガー・ハマースタインだ。
オレンジっぽい赤毛で、大きな黒縁メガネをかけている。
特に話したことはないが、英語と歴史を得意教科としていることが印象的な子だ。
「いいや、君の意見を聞くことはできないよ。悪いね。」
ザカリーはそう言ってさっさとエドガーを追い払おうとした。
しかし、エドガーもそう簡単には引き下がらない。
彼はザカリーの言葉を無視して話し始めた。
「槍投げなんかをやって君は一体どうするつもりなんだい、ダグラス?
戦いになれば、槍なんかほとんど使い捨てだぞ。
重いし、すぐに折れるし、刺したら抜けなくなることが多いし、剣みたいに名前をつけられることだって少ない。
兵士や騎士はあっさり槍を捨てるんだぞ。
そんな槍を使う練習なんかして時間を無駄にするより、もっと役に立つことをしたらどうだい?」
4人とも、この言葉には大憤慨した。
せっかくダグラスの入部を喜んでいたのに、槍投げクラブは時間の無駄だなんてよく言えるものだ。
「黙れ!偉そうに言うけど、あんたはどうなんだよ?フェンシング・クラブの入部試験に落ちたって聞いたぞ。」
ザカリーは怒ってエドガーをなじった。
「そうさ。槍投げなんかより役に立つことをしたかったから。でもいいさ。僕はポエム・クラブに入ったんだ。どっちにしろ、僕には戦士より吟遊詩人のほうが向いているんでね。」
「お言葉ですけど、あなたは間違っているわ。」
エドガーに殴りかかりそうな勢いのザカリーを制し、クララはきっぱりと言った。
この手の議論なら、クララには自信がある。
「そんなはずはない。」
エドガーも譲らない。
だが、何が目的でクララたちの話に割り込んできたにしろ、彼は自分の意見に反論されることは想定していなかったに違いない。エドガーの声には揺らぎがあった。
「まず、槍は剣より使い道が多いわ。飛び道具として投げたり、目印にしたり、旗をつけたり、骨組み代わりに使ったりね。
それに、剣よりも簡単に作れるし、鞘に収める必要がないから人が密集しているところでも使える。
さらに、ローマ人の重装歩兵すなわちホプリテスは槍を使って戦ったわ。特に陣形戦の際に中央で戦う者に重量は必須なの。
そして、重装歩兵戦術を取り入れたブリテン人は、しばらくの間サクソン人の侵略を防いだ。
中世の騎士たちが行った伝統的な馬上槍試合をする時も、槍がなければ話にならない。
さあ、これでどうかしら?あなたも槍を認める気になった?」
クララは一気にここまでを言ってのけた。
エドガーばかりか、レーナ、ザカリー、そしてダグラスでさえもが驚いてクララを見つめている。
「分かった、僕の負けだよ。槍は確かにそれほど使えないものでもないのかもしれない。」
エドガーは認めた。
「すまなかった、ダグラス。僕は入部試験に落ちたのに、君が受かったと聞いたから悔しかったんだ。」
気のいいダグラスはニヤリと笑うと、
「気にするなよ。フェンシング・クラブに入れなかったのは残念だけど、頑張ってポエムを作ってくれ。よく知らないけど、吟遊詩人とかいうやつは重宝されるんだろ?」
と言った。
「まあね。本物の吟遊詩人になるためには竪琴の技術や声の良さなんかも必要になってくるけど、僕もせいぜい頑張るさ。」
エドガーはそう言った後、今度はクララの方を向いた。
「ところで、ミス・ブルック、君は僕が思っていたより物知りなんだね。」
「そう?私、『アーサー王』を読みまくっているおかげで戦術には詳しいの。」
「それは素晴らしい!僕もそういう種類の本が大好きなんだ。」
というわけで、これ以来、エドガーとクララは友達になった。
クララの周りの友達は、どうして変人のエドガーと仲良くなれるのかと不思議がった。
だが、古典や民話が好きな人はなかなかいないので、二人はお互いに良い理解者になったのだ。
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