7. 楽しい一週間
次の日から、クララはメアリーの家に行くとき、なぜあんなに気が進まなかったのか自分でも不思議になった。
実際のところ、メアリーの家での生活は自分の家にいるときよりもずっと楽しかった。
朝はカールとメアリーは職場に、クララは学校に行くからみんなで大急ぎで朝食を食べ、帰るとどんなに遅い時間でも家には温かい夕食が用意されている。
クララがシャワーを浴びたら、メアリーはクララの長いブリュネットの髪を乾かしてくれて、時々は素敵なヘアアレンジをしてくれる。
その後も、お菓子を食べながらベッドでおしゃべりしたり、化粧グッズで遊んだり、カールも参加してポーカーやモノポリーをしたこともあった。
学校は相変わらずの大忙しだった。
地上の勉強は通常の二倍で進むが、3週間目ともなればさすがにスピードに慣れてしまった。
勉強の面ではさして困らなかったが、困るのは、人間関係の方だ。
この前の金曜日以来、サラは事あるごとにクララにケンカを売ってくるようになった。
例えば、クララが空想をして先生の話を聞いていなかったら、真っ先に笑うのは必ずサラだ。
その上、ありもしないクララの悪い噂話をするようにもなった。
無論、クララの友達はそんな噂は気にもかけなかったし、クララはサラと違って友達が多い方だった。
また、サラの親友メグがクララの敵に回ったのは厄介だった。
メグはしょっちゅうクララが田舎に住んでいることを馬鹿にするし、ロサンゼルスがいかに賑やかであるかをみんなに聞こえるように大声で話すのだった。
アリソンもまたサラの親友だったが、メグとは違いクララの友達でもあるから親切にしてくれた。
また、秋のフェスティバルに向けた準備も進んでいた。
まず、クラスで一つずつ出す屋台を何にするかで、話し合いが行われた。
最初、クラス・ジョーヌのみんなは、やりたいことがバラバラでちっとも話がまとまらなかった。
しかし、学級委員のアレックス・ロドリーゴが見事にクラス全員をまとめてくれた。彼女はとても頭がキレるし、何事も人より上手にできる。
そのため、あの意地悪なサラやメグにさえ、一目置かれているのだった。
結局、屋台ではナッツ入りのクッキーを出すことになり、アレックスは屋台のシフトも決めてくれた。
それぞれの都合を聞き、パズルのようにシフトを当てはめていくアレックスの手際の良さには、スターヴィリック先生も舌を巻いていた。
次に、秋のフェスティバルで着るコスチュームも作らなければならなかった。
作ると言っても、14歳の生徒たちが作れるものなんてたかが知れている。
だから、ほとんどの生徒は家から持って来たり、パサージュで買ったりして手に入れた服をアレンジした。
クララはパサージュの古着屋で、下地となるワンピースを買った。
それは大人用で、クララにはぶかぶかだったので、クララはその服をロングドレスとして使うことにした。
シャトー・カルーゼルではそこら中に秋の葉っぱや木の実が飾られ、フェスティバルの会場は各クラスが当番制で少しずつ整えていった。
そのため、時々他のクラスの友達と会うこともあった。
例えば、キャメロンや、同じバレエ・クラブの仲間たちなどだ。
会場はシャトー・カルーゼルの橋を渡った向こうにある雲の大地にあり、シャトー・カルーゼルの生徒たちのために校長のマダム・マノンが貸し切ってくれた。
秋のフェスティバルの日まで、クララの期待は日を追うごとに高まっていった。
一方で、それはシャトー・カルーゼルの1ヶ月間の「お試し期間」がもうすぐ終わることも意味していた。
秋のフェスティバルが終われば、「お試し期間」も終わってしまう。それまでにスティーブンにサインをもらわなければ、クララはシャトー・カルーゼルに通い続けることが出来なくなってしまうだろう。
せめて、メアリーにでもシャトー・カルーゼルのことを話したいと思うのだが、どうしても勇気が出なかった。
バレエ・クラブのオーディションの日も近づいていた。
ありがたいことに、メアリーとカールは居間を整理して、クララがバレエを練習するためのスペースを作ってくれた。
メアリーはクララがバレエをまた始めたことをとても喜んでいたのだ。
次の土曜日のコンバチェッサーの訓練では、杖の突きを避ける練習をした。
盾を作るのももちろん大事だが、基本の動きを身に付けなければ元も子もないらしい。
その日は杖を使うことはほとんどなく、ひたすら体を動かしたから汗だくになった。ガッシュワット先生は4人が必死に、先生の突き出す杖を避けようとしているのを見ながら、
「動きが鈍い!」
「君たちの脚は何のためについておるんだ!」
「それではディアブレーヴのスライムに当たって身動きできなくなるぞ!」
などと言った。
最後には、レーナは疲れ過ぎて尻餅をついてしまったほどだし、ダグラスはシャワーを浴びた後のように汗びっしょりだった。
ザカリーは休憩時間になる度に居眠りしてしまい、クララは訓練が終わってからも、どこかからガッシュワット先生の杖が突き出されるように感じた。
さらに悪いことに、ガッシュワット先生はこれから毎週、訓練の始めにこれをやると言った。
「おいおい、噓だろう?訓練の始めにこんなのをやったら俺たち、他の練習は何もできなくなっちまうぞ。ガッシュワット先生は俺たちをフェンシング・クラブの特待生か何かにでもするつもりか?」
ザカリーは嘆いた。
日曜日には雨が降ったから、本を読んだり、メアリー、カールとゲームをしたり、メアリーのお古でファッションショーをやったりした。
メアリーにしつこく勧められてスティーブンとビデオ通話もしたが、話すことがなくてほとんどメアリーがしゃべり続けた挙句、3分くらいで切ってしまった。
今やクララは、一生メアリーの家で暮らしたいとさえ思うようになっていた。
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