5. ロッカーメイト
「これから、諸君に大切な物を配ろう。」
スターヴィリック先生が言った。
今、クラス・ジョーヌの生徒たちは教室にいる。あの後、四人は無事にスターヴィリック先生とクラス・ジョーヌの生徒たちに合流できた。先生ははぐれたことを怒るかと思ったが、そうではなかった。それどころか、クララとレーナをおいて行ってしまったことに対し、何度も謝ってくれた。ザカリーとダグラスは、少し注意されただけで済んだ。その後は、先生は劇場や寮、シャトー・カルーゼルの学生専用のパサージュなどを案内してくれた。
さて、スターヴィリック先生はポケットから鍵束を取り出した。
「これはロッカーの鍵だ。この学校では、ロッカーは二人一組で使う。諸君に鍵をわたすまえに、まずはロッカーを共有する人を教えよう。」
スターヴィリック先生は次々と生徒の名前を呼んで、ペアを作った。
「レーナがいい。レーナがいい。」クララは心の中で必死に願った。しかし、クララとペアとなったのはアリソン・ムーアという子だった。
ペアができると、先生はそのペアになった人と一緒に立っているように言った。クララはアリソンがどんな子なのか分からなかったが、アリソンの方は自己紹介を覚えていて、クララに声をかけてくれた。アリソンは明るい子で、クララはすぐに彼女が好きになった。アリソンの髪は巻き毛のブロンドで、クララと同じくらい長い。制服のスカートをとっても短くして履いていた。
「アリソン、ロッカーってどこにあるのか知ってる?私、一度も見かけなかったんだけど……」
「私も分かんない。でも見てよ、この鍵!超イケてる!」
アリソンはさっきもらったばかりの鍵を振って見せた。スターヴィリック先生はペアができた順から生徒たちに鍵を配ってくれていたのだ。鍵は一人一つだ。その鍵は金色で、握るところはオシャレにくり抜かれている。まるで、魔法の国に行く扉の鍵のようだ。
全員に鍵を配り終わると、先生は生徒たちをNGTに連れて来た。NGTの壁には、額縁に入った絵がほとんど隙間なく掛かっているし、絵と絵の間にある僅かなすき間にさえ、不思議な模様や文字が描かれている。ここのどこにロッカーがあるのだろうか。みんなが不思議に思っていると、スターヴィリック先生は何と、掛かっている絵のうちの一つをコツコツと叩いた。
「諸君、ご紹介しよう。これが、我がシャトー・カルーゼルのロッカーだ。」
生徒たちの間にざわめきが広がった。「これがロッカー?」、「絵じゃないの?」、「どういうこと?」……
すると、先生は近くにいた生徒の鍵を借りると、鍵の持ち手を少し眺めてから、犬が描かれている絵を指さした。
「これが、ミスター・フォックスと、ミスター・ガルシアのロッカーだ。見ていたまえ。」
先生は鍵を、その絵の額縁に空いた穴に差し込んだ。鍵を回すと、カチリと音がして、驚いたことに、絵が額縁ごと扉のように開いた。
「どうだね?諸君も自分の鍵をよく見てみるんだ。自分のロッカーを見つけるためのヒントがどこかに隠れているだろう。ちなみに、そのヒントは持ち主にしか分からないよう、魔法がかかっている。鍵に魔法をかけた人(つまり私)は別だがね。だから、万が一、鍵を落としても他の人にロッカーを開けられることはないよ。」
クララとアリソンも、早速自分たちの鍵を調べてみた。ヒントを見つけたのはクララだった。
「見て、アリソン。この鍵の持ち手のところ、薔薇に似てない?」
「あ、ホントだ!クララ、あなた冴えてるわ!」
NGTをくまなく探して、二人はついに薔薇が描かれた絵を見つけた。額縁を手でなぞると、左側に鍵穴らしきものがあるのが分かった。
「私が開けて見てもいい?」
アリソンが言った。クララがうなずくと、アリソンは興奮しながら鍵穴に鍵を差し込み、ロッカーを開けた。ロッカーの中は意外と広く、いくつかの仕切りがあった。二人でどこをどっちが使うか決め、早速、今日の朝に配られた教科書やノートを何冊か入れてみた。重力のない状態で物を出し入れするのは意外と大変だった。
それが終わると、アリソンは言った。
「絵がロッカーになってるなんてクール!扉の裏側はデコってもいい?」
「もちろん!」
実を言うと、クララはロッカーの裏側を飾り立てるタイプではない。だが、アリソンに言われると、やってみてもいいかな、という気になる。アリソンはそういう子なのだ。
「クララ、あなたとロッカーを一緒に使えて嬉しいわ。私たち、ロッカーメイトだね!」
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