2. 学校探検
「おはよう、ミス・ブルック。」
スターヴィリック先生の大きな声に迎えられて、クララは教室に入った。
教室には、制服をもらい終えた生徒たちが席についていた。
「おはようございます。」
「これで、まだ来ていない生徒はあと8人だ。」
スターヴィリック先生が芝居がかった口調で独り言を言う。
「おはよう、クララ!」
「おはよう、レーナ!」
クララはレーナに挨拶を返した。
するとレーナは立ち上がり、クララの方に寄ってきた。
「ねえ、聞いてよクララ。もうメグにはウンザリだわ。」
レーナが声を潜めて言う。
今はアルファベット順で席が決まっているので、レーナとメグは隣同士なのだ。
「私が席についてから、メグは自慢話ばっかりなの。自慢話をやめたと思っても、あの子の話にはどこか自慢が混じってるの。例えば、あの子のリムジンの運転手が浮気したらしいとか、家の庭にあるプールでどれくらい泳いだとか、専属のピアニストがイケメンだとか、彼女の3つ目の寝室を丸ごとクローゼットにすべきかどうかとか……。専属のピアニストですって、専属の!信じられる?あの子、どうせ音楽の右も左も知らないわ。こっちは古ぼけたアップライトピアノを調律もなしで弾いてるっていうのに!もう嫌になっちゃう!」
レーナは息もつかずに言った。メグの隣に座るのは、よほどストレスのかかることらしい。
クラスメイトが全員揃うまでは、好きなことをしていても良さそうだったので、クララはしばらく、レーナの愚痴を聞いてやった。
「さて、今日の予定を説明しよう。今日は午前中に学校探検をする。そして、午後からはついに授業だ。2時間、授業を受けたら、その後はクラブ活動を見学できる。これからクラブ活動のリストを配るから、事前にどのクラブを見学するか決めておくように。」
生徒が全員揃ってから、スターヴィリック先生が言った。
そして、紙を2枚配った。
一つはクラブ活動のリスト、もう一つは学校の地図だ。
「毎年、この時期は学校内で迷って授業に遅刻する生徒が続出する。そこで、マダム・マノンがこの地図を作ってくださった。学校に慣れるまではこの地図を見て行動するといい。」
先生はそう説明した。地図が必要なほど広いとはびっくりだ。
学校内で迷子になるなんて……
方向音痴なクララは気が遠くなった。
「では早速、諸君にシャトー・カルーゼルを案内しよう。」
スターヴィリック先生は生徒たちの案内を始めた。NGTを通ってホールに行くと、先生はこう言った。
「私たちが今いるのはアプロンドル・バティモン、『学びの館』だ。ここには授業で使う教室と、クラブ活動で使うロッカールームや練習場がある。ここはウェスト・エルとイスト・エルに分かれているが、諸君はウェスト・エルを使うことが多いだろう。初等部のクラスはほとんどこっちにある。イスト・エルには危険な物がある教室もあるから、用事がない限りは立ち入り禁止だ。」
先生はホールの左側の階段を上り、ウェスト・エルに入った。
クララは昨日からこの階段を上りたくてたまらなかったので、階段を上ることができてうれしかった。
先生は廊下を進みながら、次々と教室を指差して説明していった。
「信じられないくらい広いわね、この学校。ここはまだたくさんある建物の一つに過ぎないっていうのに。」
レーナが言った。
「ホントよね。時間通りに教室にたどり着ける自信がないわ。」
ウェスト・エルには様々な教室があった。
地上の学校のように机と椅子と黒板がある教室もあれば、物が何もない教室もあるし、机と椅子の代わりに長机とベンチが置いてある教室もある。
その他にも、教室内に雲が浮かんでいる所や、床に芝生がある所、天井がプラネタリウムのようになっている所まであった。
ほとんどの教室は上級生が授業を受けていて、中に入ることは出来なかったが、時々空いている教室もあったので、そんな時、スターヴィリック先生は生徒たちが教室に入ることを許してくれた。
また、廊下の中央には螺旋階段があって、それを使って上の階に行ったり、下の階に行ったりできるようだった。
ウェスト・エルは5階くらいまであったから、クララはここもNGTにすればいいのにと密かに思った。
ウェスト・エルの全ての教室を見て回ってから、先生はみんなにこう尋ねた。
「さあ、この中にイスト・エルを見てみたいと思っている人はいるかな?」
クラス・ジョーヌの生徒たちは口々に「見たい!」と答えた。もちろん、クララもそのうちの一人だ。
「そう言うと思ったよ。」
クラス・ジョーヌの生徒たちはワクワクしながら、ホールに戻って右側の階段を上った。
イスト・エルはウェスト・エルとは随分違った。
ウェスト・エルは楽しくて面白そうな教室がたくさんあったが、イスト・エルの方はもっとダークで繊細で、神秘的な感じがした。
スターヴィリック先生は奥までは行ってくれなかったが、クララはイスト・エルに入ることができただけで満足だった。
偶然、すぐ近くに空いている教室があったので、スターヴィリック先生はみんなを入れてくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます