第三章 罰則
1. 罰則
朝、幸せな気分で目を覚ましたクララは、罰則のことを思い出してたちまち気分が落ち込んだ。
何か、もっともらしい理由をつけて罰則を免れたかったが、レーナやザカリー、ダグラスも一緒だから、休むわけにはいかない。
重力が二倍になったかのように、体をベッドから起こすのは面倒なことだったが、クララは何とか起きて、身支度を整えた。
シャトー・カルーゼルの中庭で、他の3人と待っていると、昨日のあの厳しそうな先生がやってきた。
先生はなぜか騎士のように鎧に身を包み、武器も携えて完全武装で来た。
完全武装の先生は、昨日よりもさらに厳めしく見える。
これから何が始まるのだろうかと考えると、クララは恐ろしくてたまらなかった。先生はのっしのっしとクララたちの前まで来ると、だしぬけにこう言った。
「さあ、それではコンバチェッサーの訓練を始めよう。」
この先生の口からコンバチェッサーという言葉を聞くのは初めてではなかったにもかかわらず、クララたちは混乱した。
「あの、そのコンバ何とかの訓練というのが罰則なんですか?」
クララは聞いた。あまりに予想外のことを言われたので、そう言うだけで精一杯だったのだ。
「罰則?何の?」
ますます驚いたことに、先生は罰則という言葉を聞いて不思議そうな顔をした。
「だって、先生は1年生なのにイスト・エルに来て、勝手に教室に入り、教室をぐち
ゃぐちゃにした生徒は当然罰則を受けなければいけないっておっしゃったじゃない
ですか。」
クララは言った。
「そうとも。だが、それが君たちのことだとは一言も言った覚えがないぞ。わしはそ
う言ったあと、『だが、事情がある場合は別だ。君には何か事情があるようだな、
ミス・ブルック?』と、言うつもりだったんだ。それを遮ったのは君たちの方じゃ
ないか。」
先生はレーナたちを手で示した。
「じゃあ、初めからクララに罰則を与えるつもりはなかったんですか?!」
レーナはまん丸の目をさらに見開いている。
「もちろんだ。ミス・ブルックに何の非がある?悪いのは何もかも、あのジェラルド
の間抜けじゃないか!ヤツがちゃんと生徒を見ていないからこうなったんだ。後
は、わしが忠告したにもかかわらず、教室に鎧を置き続けた校長のせいでもある
な。わしは、あの教室を見回した時にすぐ、何が起こったのか分かったぞ。」
先生はあの鎧が動くことを知っていたのだ。
クララは何だか拍子抜けしてしまった。
「それじゃあ、そのコンバチェッサーの訓練というのは何なんですか?」
ザカリーはまだ驚きが冷めないようだ。
「そうだ。そのことを話していなかったな。わしはチャールズ・ガッシュワット。シ
ャトー・カルーゼル専属のコンバチェッサーだ。雲の上の世界にはディアブレーヴという厄介者たちがいる。奴らは夢を悪夢に変えたり、人から眠りを奪ったり、逆に人を眠りに縛り付けたりして、苦しめて楽しむのだ。もちろん、人を殺すほどのことはしないぞ。奴らは遊び半分だからな。わしのような熟練のコンバチェッサーにとってはディアブレーヴなんぞ、いたずら小僧のようなもんだ。」
ガッシュワット先生は、クララたちが怯えているのを見て、慌てて最後の言葉を付け足した。
「しかし、だからといって放置するわけにはいかん。そのためにいるのが、わしのようなコンバチェッサーだ。訓練とは、ディアブレーヴと戦うための訓練のことだ。戦うというよりは追い払うと言った方が正しいかな。君たちは、14歳という若さでの鎧から人を助けた。わしはそのことに感心したから、君たちにコンバチェッサーの訓練をしようと思ったのだ。これはラッキーなことなんだぞ。普通は、他の先生からの推薦がなければ訓練は受けられないのだからな。」
ガッシュワット先生は何でもないことのように言う。
「でも、僕はあの鎧に捕まってもがいてただけですよ?それなのに訓練を受けていいんですか?」
正直なのはザカリーの良い所だが、さすがに正直すぎるのではないかと思うときもある。
今がまさにそのときだ。
「おお、そうだったな。では、帰っていいぞ。」
先生の反応はあっさりしていた。
ザカリーは驚きとも失望ともつかない顔で数秒間、かたまっていた。
「冗談だ、冗談だよ。わしは君の、得体の知れない鎧に触ったり、ずけずけとものを
言ったりする度胸に感心したのだよ。もちろん、友達をかばう勇気にもな。」
ガッシュワット先生は豪快に笑った。
「さて、少し時間を無駄にしたぞ。早く訓練を始めよう。最初は防御からだ。ここに、君たちの訓練用の服が入っているから、着るといい。」
先生は、彼の足元にある箱を指さした。
四人は我先にと箱の周りに集まって、中を覗いてみた。
中にあったのは、紺色のシンプルなズボンとシャツだ。
ガッシュワット先生が着ているような鎧や兜が入っていることを期待していた四人は少しがっかりした。
全員が自分の分の服を取ったところで、先生は携えていた槍を掲げた。
と、思う間もなく、槍の穂先から目も眩むような光線が走った。
次の瞬間、中庭には服屋によくあるような、カーテンのついた試着スペースができていた。クララは目をこすった。
「せ、先生は魔法使いなんですか?」
ダグラスが言った。
「バカなことを聞くでない。わしはコンバチェッサーだとさっき言ったばかりだろうが。」
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