第6話 Br Bl Po (3)

と、すぐに狙撃手がいたところにバツ印が浮かび、戦死したことが画面上に表示された。

「やった!」

 和佳カズカは即座にガッツポーズする。

 2000ヤード先の敵にスコープなしで当てる。それは奇跡とも呼べるほどの神業かみわざ。まぐれであったとしても彼女が喜ぶのは当然だ。

「ちょっとー、γ4(ガンマ・フォー)。これあなたの手柄てがらじゃなくて、私がったーんだけど〜!」

 ヘッドホンから流れる女生徒の声。

「あけ・・・じゃなかった、α2(アルファ・ツー)!?あなたがやったの!?私じゃなくて?」

 声の主は宮原明乃ミヤハラアケノ。和佳の親友であり孝徳の次に〈モダンベルルム〉の成績が優秀な女生徒。孝徳タカノリと異なりゲームだけではなく、学業においても和佳の次席と優秀な成績を残している。

「そうよ。私がやったの。そ・れ・と!あなたの弾、あと少し外れていたら私に当たってたんだから、気をつけてよね〜!」

 明乃は、そう言うと回線を切った。ビル内に残っているかもしれない敵兵士の掃討を始めたのだろう。

 一方その頃、孝徳タカノリはと言うと戦車強奪に一人で向かわせていた。大量に落ちているAKの弾倉マガジンを何度も拾い再装填しながら、次々と向かってくる敵をち倒していく。

 どうやら、別方向の最前線に出ていた敵部隊もα1(アルファ・ワン)の予想以上の進撃を危険視したようで、集結しつつある。

 孝徳が駆るα1は、それを確認しつつ、自身の定めたルートに沿って進撃。

 孝徳は前衛部隊を壊滅状態にすると、後方にひかえる敵支援部隊に突っ込んでいく。

 彼らはアサルトライフルにスコープをつけており、急接近してくるα1に気付きこそするものの、スコープ越しのせますぎる視野により彼を追うことができない。

 スコープから目を離そうとしてBキーを押した時にはもう既に遅く、喉元を自動拳銃で撃ち抜かれているか、頭を小銃で吹き飛ばされていた。

 孝徳はα1を敵が発射する弾丸の雨の中を、まるで弾丸の一発一発が見えているがの如くたくみにかわしていく。

 敵はついに業を煮やしたのか、前衛部隊を後ろに下げ、獲得かくとくした戦車でき殺しをこころみる。

 猛スピードで迫ってくるその巨体の迫力は画面を通してのものでも凄まじく、恐怖を覚えるものだった。

 しかし、孝徳はその状況におちいっても焦ること無く突貫してくる戦車に飛び乗ると、体制を崩すことなく操縦席に入ることをこころみようとする。

 その後ろに控えていた敵小銃部隊は戦車の巨大な装甲にはばまれ、α1を狙撃することができない。

 狙撃手も、α1を狙って狙撃し続けるが、間一発のところで孝徳がかわさせる。

 操縦席横の展望塔キューポラのハッチが開かれ、そこから機関銃マシンガンを持った敵兵がニョキッと一人姿を表した。

 孝徳にとって、α1にとってそれは危機的な状況だった。

 戦車の砲塔から顔を少しでも出せば、後方からの突撃銃アサルトライフルによる斉射を受ける、顔を出さなくても目の前の機関銃マシンガン男の射撃を受ける。

 孝徳はもう一人、菱田か誰かでもいてくれればと考えるが。あたりを見回した限り、近場に来ている味方兵はいない。

 かと思われたが・・・。

 近くの高層ビル十階の窓ガラスが叩き割られる。

 そこから飛び出してきたのは孝徳の次席である短機関銃サブマシンガンを片手に持ったα2、明乃アケノだ。何やらロープのようなものを伝って、地上に降りながら突撃銃アサルトライフル部隊に対して乱射している。

「α1、雑魚ざこは任せて!あんたは大物をるのよ!」

「悪い!助かる」

 孝徳はAKを投げ捨て、近接線において突撃銃よりも使い勝手が良い自動拳銃に持ち変える。

 α1は突撃銃アサルトライフルから乱射される弾丸群を、その銃口の方向から射線を予測しながら、かわしていった。

 機関銃マシンガン男から放たれる弾丸は全て、戦車の装甲板にはじかれていく。これにより、弾道の角度が変わって被弾することが最も怖いが、それに意識を集中している暇など孝徳には無かった。

 孝徳操るα1は遂には機関銃マシンガンの銃身にまで接近。ここまで来られれば、敵兵は機関銃マシンガンを近すぎて、α1に向けて撃つことなどできない。

 敵兵はそれを察したのか、急いで自動拳銃に持ち替えようとする。

 だが、時すでに遅し。

 孝徳はα1に自動拳銃の銃口を敵首元にあてがうと、左マウスをクリックした。

 撃鉄が上がり、自動拳銃のスライドが下がる。

 発射。

 空になった薬莢を吐き出したのち、スライドが再び前に押し戻され、撃鉄が降りる。

 と同時に、敵兵は甲板に崩れ落ちた。

 孝徳はα1を操縦室に侵入させ、表情がないくせに驚き戸惑うに見える敵兵に拳銃を向ける。

 口元あたりに照準を合わせると、引き金を引いた。戦車内に響き渡る轟音ごうおんと共に、敵の頭が天を見上げ、体ごと崩れ落ちる。

「α1、やった?」

 見計みはからったようなα2、明乃からの通信。

「こっちは終わった。そっちは?」

「こっちはちょっとやばい。今戦車のかげでなんとか耐えしのいでるんだけどさ。敵援軍の数が凄くて。しかも弾切れなの」

 明乃も健闘したようだが、ここが限界のようだ。

「操縦、代われるか?俺が奴らを仕留めるからさ」

「もちろん良いけど。たま、残ってんの?」

 明乃が心配するように言う。

散弾銃ショットガンがあるし。そこらへんにいっぱい落ちてるやつもあるだろ?それ拾えばいけるさ」

「うわ〜、私もこのゲーム得意だけどさ。そこまでのレベルになると、すごい通り越して引くわ〜」

 そう言いながらα1と、戦車に乗り移ったα2が操縦を交代する。

「勝手に言ってろ」

 孝徳はそう吐き捨てると、菱田から渡された散弾銃ショットガンに持ち替えさせ、敵群に突っ込んでいった。

 あいも変わらず脅威的な速度で、弾道を読み切り、ジグザグに動かす操作によって急接近し、ゼロ距離にまで近づいたα1は一粒スラッグ弾を打ち込んでいく。それは敵のアーマーを破砕し、血のエフェクトが飛び出させた。

 その後も順調にα1は敵を眼前の敵兵から次々と倒していく。

 明乃はそれを見て感嘆のため息をつくと、独り言を言った。

「んじゃ、ここは彼に任せて、私はキーアイテム回収しに行こー」

 明乃はα1の前方からN国の援軍がくるのを見届けると、敵陣地にあるキーアイテムを奪取しに戦車を駆った。

 そして60分が経ち決着。

 スコアはN国から百対五十四。

 強敵のC国相手に、ある程度余裕を持っての勝利だった。

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