第3話 各々準備せよ

「準備に入れ」

 担任のその一言で、各生徒たちがパソコンを起動しアプリを開き始める。

「さあ、待ちに待ったゲームびの時間だ」

 孝徳タカノリは一言、そうつぶやくと、パソコンの電源を入れ、無線式のヘッドホンをつけた。

 そして両拳をガツンと合わせる。

 隣の席の和佳カズカはその気合の入れように苦笑いを浮かべた。

「ゲーム時間は十分後の開始から60分。せいぜい楽しめよ」

 まるで皮肉るように担任が吐いた。

 孝徳にあてがわれたキャラはα1(アルファ・ワン)。彼にとって慣れ親しんだキャラクターだ。

「今日も頼むぞα1」

 孝徳が小さくつぶやくと、再び和佳は苦笑いを浮かべた。

 その和佳にあてがわれたキャラクターはγ4(ガンマ・フォー)。番号自体は変わらないが、その様相はまたもや新しく見る女性のキャラクターだ。

 キャラクターは戦死するたんびに使用不可になる仕様だ。その度に生徒には新たなキャラクターが与えられる。

 和佳が使用するキャラクターは二年に入ってこれで102体目だ。これにより前回のゲーム後、和佳は教師から苦言をていされた。

 成績にも反映される項目なので、今日はできるだけ死にたくないな、と和佳は担任とのやりとりを思い出しながら武器選択画面に移る。

 使用する武器は、準備時間中に選択可能で各々好みの武器を選んでいく。

 和佳が選択したのは、対人狙撃銃のM24 SWSだ。前回、前線に出たことでられてしまったこともあり、今回は後方支援武器であるそれにしようと考えたわけである。補助武装サブアームとしては、短機関銃サブマシンガンであるSIG MPX、戦闘コンバットナイフであるKA-BARだ。他、手榴弾なども、持てるだけ装備する。

 和佳は孝徳の画面を覗き込む。彼のキャラクターが装備していたのは補助武装サブアームにおいては同様だが、主武装については小銃アサルトライフルのHOWA5.56を選択した。近接戦が得意な孝徳らしい武器選択となっている。

 和佳はそれを見て、顔をゆがめた。

 ━どうして波川くんは、近接戦特化なのにここまで死なないのだろう━と。

 孝徳は和佳のそんな視線を気にすることもなく、マウスやキーボードの感触を確かめていた。

 それと同時に、仲間がどのような装備をしているかの分析も始める。

 今回は、前回の戦闘で負けたこともあり狙撃銃を扱う人間がほとんど。それならば、後方に関しては安心しても良いと判断するが、そこで怖いのがFF(フレンドリー・ファイア)だ。

 このモダンベルルムは他既存きそんのFPSと異なり、FF(フレンドリー・ファイア)が有効となっている。

 敵味方が識別できるように、『青が味方』『赤が敵』と言う風に目印はついてはいる。だが、ゲームにおいても極度の緊張に襲われる混戦状態になった際には、敵味方を識別する余裕なくマウスをクリックし、味方を銃撃し、戦死させてしまう可能性が高い。

 孝徳が突然、隣の席の男子生徒から肘で突っつかれる。ヘッドホンを外し、そのぬしの方を見た。

「波川、今回は狙撃銃選んでいるやつ多いよな」

菱田ヒシダ、確かにそうだな。近接戦装備しているやつは俺とお前も含めて十人ぐらいしかいないぜ」

 菱田恭司ヒシダキョウジは孝徳のその返しに表情を歪める。

「ったく、前線に出ねえと、ロケランとか、戦車とか手に入らねえってのによ」

 RPG(ロケットランチャー)や戦車は、敵味方ぶつかり合う境界線に多く置かれている。もちろん他の要所要所にもありはするのだが。

 ここを制圧されれば、敵部隊に強力な武器をられてしまう。もし、これらの武器や兵器を盗られてしまえば、後方にいることなんて関係なく蹴散らされてしまうだろう。

「ここは俺たち近接戦闘組がチャチャっと倒してそれらを手に入れるしかないな」

「ちげぇねえな」

「それにしてもお前の武器、散弾銃ショットガンだろ?ただでさえ再装填リロードに時間がかかるんだ。よく好んで使うよな、それ」

 菱田が選択した主武装はレミントンM870。お気に入りの武器らしい。

「だって一粒スラッグ弾は威力が高いだろ?小銃マシンガンが使用する高性能普通弾だったら相手の防弾衣アーマーはなかなかつらぬけねえ。だが、この銃とたまなら一発ってわけよ」

「なるほどな」

 孝徳は菱田が自慢げに言うのを聞いて納得する。とは言っても、超近接用の兵装のため、序盤から装備しようとは思わないが。

「今回も、俺とお前でバディを組もうぜ」

「もちろんそのつもりだったよ。お前のケツは任せろ」

 この二人はこれまでもバディを組み、菱田が最前に出て敵のボディアーマーの無力化、孝徳がその後ろからサポートしつつ敵を仕留しとめると言う戦術をとってきた。

 彼らは今回に関してもその方針で行くように話がまとまったようだ。

「それじゃあ、鳩峰ハトミネ、お前俺たちを守る狙撃手スナイパーやってくれよ」

 孝徳タカノリ和佳カズカにそう提案する。和佳は孝徳達の話に聞き耳をたて、こっそりと盗み聞きしていたためか肩を跳ねさせた。

「いいけど・・・もしあなたたちに当てちゃっても責任取れないわよ。・・・私、狙撃もあんまり得意じゃないし」

 末尾の言葉はボソッと言い、孝徳しか聞くことはできなかった。

「オッケーオッケー、全然オッケー。専属狙撃手がいるだけありがたいもんだぜ」

 菱田は笑顔でふたつオッケーマークを作る。

 孝徳は、それを呆れた表情で見た後、和佳の方を見る。

「あのなあ、味方によるFF(フレンドリー・ファイア)も減点の対象になるんだから、そこはオッケーできねえよ」

「・・・仕方ないじゃない。難しいんだもん」

 和佳は対してほおふくらませる。

「大体、FF(フレンドリー・ファイア)ありなのもどうかしてるわ」

「ゲームの仕様しよう自体に文句を言うのはナンセンスだろ。それに、死んだら再び戦場に出るまで1分も時間がかかるんだ。間違えても味方を、俺たちを撃つんじゃねえ」

 ゲーム上で戦死した場合、キャラクターの選び直しから行われる上にスタート地点からの再出撃となる。再び戦線に合流するまでにも時間が取られるので、孝徳としては戦死だけはしたくない。

 それに・・・

「無用に死んだらその分、俺の、お前の成績まで落ちるんだからな。そこらへんちゃんとわきまえとけよ」

 和佳は「へいへい」と、まるで男児の如く返す。

「全く、勉強においてはポンコツなのに、ゲームになると上から目線で喋っちゃってさ」

「・・・ッ・・・・あのなあ」

「何よ、文句でもあるの?」

 二人の顔の距離が近づき、目から火花を散らした。

「まあまあ、お二人さん、あと1分で始まりますし、言い合いは終わった後で・・・と言うことではいかがでしょ・・・?」

 言い合いが始まりそうになるところを、菱田が間に入り止めにかかる。

 二人は菱田の方をチラリと見て、お互いに再度にらみつけ合うと「「フンっ!」」と言い放って、そっぽを向いた。

 そしてそのまま、ゲームの準備にかかる。

「あらら・・・大丈夫かな・・・・」

 菱田はそんなチームメイトを見て片口端を吊り上げ、眉をへの字にする。

 今回の戦闘の結果が、心配になってきた・・・、と心の中で呟いた。

 が、そうしたままでいるわけにもいかず、菱田は急いでヘッドホンをつけ、パソコン画面の方を向く。

「開始まであと40秒、準備しきれてないものは急げー」

 担任の気の抜けた声と共に、戦闘開始のカウントダウンが始まる。

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