第30話 エピローグ

 さて、僕たちがダンジョンから帰った後の後日談。片岡さんに渡した遺品を鑑識に回して鑑定した結果、僕たちの容疑は完全に晴れた。

 付着していた血痕は本人のもので、遺品にあった皮膚組織はおよそ人間ではないものだらけだったらしい。


 これらを証拠に片岡さんが再度被害者団体と話し合って、『現実を見ろいい加減!』と啖呵を切ってついに被害者団体は折れた。その場は僕たちもいたけど、まあ泥沼だったよ……


 証拠もある、映像もある、証言もある。なのに信じない!加工だ!そんなわけがない!の大合唱……片岡さんと創さんがブチ切れてやっと事態が収まった。


 ダンジョンの事はまだ何も分かっていないが、警察も何も分かってないなりに僕たちを庇ったせいかマスコミの批判が集まっている。


 国の見解としても『調査中につき詳しいことは分からない』の一点張り。まあ、すぐに国の意見を変えられるもんでも無いだろうし仕方ないけどね?

 

「はーい離れてー。ここから先はダンジョンにつき立ち入り禁止でーす」


 家の窓から見える距離にあるダンジョンには、おまわりさん達が立ち入り禁止のテープを貼って民間人が誤って侵入しないように見張っているのは変わらないまま。


 おまわりさんの中の数人はダンジョンの入り口の方を見て、いつでも銃を抜けるように厳戒態勢げんかいたいせいを敷いているのも依然と同じだ。


「まあ、分かってるけどさー。結局色々あったけど何かが劇的に変わるもんでも無いし」

「おにーちゃん、またダンジョンの話~?ご飯だよー」

「あーい、今行くー」


 ぶつくさ文句言ってたら妹の瑠璃るりに見られてしまった。おにーちゃん反省。

 こうやって凄い近くにダンジョンがあるというのに、あんな風に厳重に入口を封鎖しては国の対応を待つばかりなのも、最初の頃とそう変わらない。


 ただ、最初の頃と全然違うことは1つ。僕の冒険は、間違いなく物語フィクションから現実に出たってことだ。


 妹の瑠璃と二人で夕食を囲う。そういえばまだアメリカにいるんだっけうちのお父さん達?

 『ほんとお前マジ危ないことすんなよ!?お父さん心臓バックバクだったんだからな!?』と昨日電話で散々怒られたもんだから、つい思い出しちゃったよ。


 ……まあ、『緋色ひいろが女の子や瑠璃を護るために立ち上がって動いたことは褒めてやる。自慢の息子だよ』って言われたときはちょっと感動したけど。


「ズズズ……あ、そだ瑠璃。お父さん達、いつ帰ってくるか聞いた?」

「ふも?ふぃっふぁほはっへ(三日後だって)」

「ふーん、三日後なんだ」


 はしたないから口の中全部食い切ってから喋りなよー、と一応注意だけしながら飯を食べる。今日は豚の生姜焼きとお味噌汁、あの時と一緒だ。


「瑠璃ー、生姜焼きのおかわりある~?」

「ダメだよおにーちゃん。明日のお弁当用に残りの生姜焼きは冷蔵庫!」

「ええー!頼む瑠璃!一切れ、一切れだけで良いから!」

「そしたら明日のおにーちゃんの弁当に入ってる生姜焼きは一切れ少なくしますぅ~」

「くっ……デジャブ!」


 瑠璃が作った料理はどれも美味しい。おにーちゃんはもう瑠璃無しでは生きてけないよ!ん?これも前に思った気がする……


「おにーちゃーん?私デザート食べたーい」

「んー?冷凍庫にアイス残ってなかった?」

「ちょっとお高めのデザートが食べたいのー!」

「ふっふっふ……瑠璃よ、おにーちゃんはお小遣いを貰ったばかりだからこの前のようにどちらか我慢するような事はさせないぞ!どっちも買ってやる!」

「きゃー!おにーちゃん格好いい~!」


 ソファーに寝っ転がってテレビを見ていた妹が立ち上がり、三つ編みのおさげを激しく揺らしながらぴょんぴょん跳ねて喜ぶ。

 妹が可愛すぎる。もうコンビニのスイーツ全部買っちゃう~!


「じゃあ、お皿洗い終わったらコンビニ行ってくるから、それまでに何系のデザートがいいか決めといて~」

「やった~!おにーちゃん大好き!」


 はい大好きいただきましたぁ!おにーちゃんの皿洗いが体感15%ぐらい速くなっちゃうよ~!

 エクレア~、プリン~、ハー〇ンダッツ~♪とテレビを見ながら買ってもらうものを考えてる妹の声を聞きつつフライパンを洗う。新しく買って来たフライパンを丁寧にキュキュッと。


「瑠璃ー、もう決まったー?」

「んー?まだぁ。エクレアもプリンも新発売のサクラショートケーキっていうのも食べたーい!」

「太るぞ?」

「あー!おにーちゃん女の子に言っちゃいけない事言ったぁ!スイーツは別腹だからカロリーはゼロなんだよおにーちゃん!」

「その理論は流石に分かんないかなぁ!?」


 スイーツは別腹だからカロリーゼロとかどんな理論なんだ……っと、洗い物終わり!これから僕たち小嵐家の料理を任せるフライパンだからな、これから美味い飯作ってくれてよという感謝の気持ちを込めて水気を拭き取る。


 1ヶ月前より死ぬほど力が上がっているから、水気を拭き取ってたらフライパンごと曲げないように慎重に慎重に……


「んじゃ取りあえずコンビニ行ってくるかぁ……瑠璃、決まった?」

「んー……2つじゃダメ?」

「2つと言わず3つでも良いぞ?」


 ふっ……相変わらず魔性の女だぜ瑠璃は。つい買ってしまいそうになるじゃないか。まあ買っちゃうんだけどね!コンビニのデザートは高いけど僕には貰ったばかりの小遣いがあるんだから!


「さっすがおにーちゃん!じゃあ一緒に行こっか!」

「ん?瑠璃も来るの?」

「おにーちゃん前にコンビニにスイーツ買いに行ってダンジョンに拉致されたから心配で……」


 私が付いてっても仕方ないけど……ダメ?と上目遣いにお願いしてくる瑠璃。誰だ魔性の女とかいった奴!?こんなくっそ可愛い瑠璃が魔性である前に女神に決まってるだろ!


「今度はダンジョンに拉致されるのは瑠璃の方だったりしてな?」

「もーやめてよおにーちゃん!縁起でも無いんだから!」


 冗談だよ冗談、一ヶ月前の事なのにすごく濃い体験の始まりがこんなのだったんだから、ついね?

 僕は財布を持って瑠璃と一緒に家から一歩出た。その瞬間……瑠璃が消える。


「は……?」


 どうやら僕は、ダンジョンと強い縁が出来てしまったようだ。突然の出来事に一瞬だけ思考が止まる。そして何が起こったのか理解した瞬間、僕はダンジョンに駆け出した!


 あの日と同じ光景、あの日と同じ状況……!今度は瑠璃か!?


「瑠璃……瑠璃ッ!瑠璃ぃ!くっそおおおおおおおおおお!」


【資格者の皆様に、さちあらんことを。そして……『オルレウスの遺志』を見つけてくれることを願って】

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