第29話 不思議④
「はぁ……はぁ……」
「はぁ……はぁ……」
「あー……外の匂いだぁ……」
「お、お疲れ様。小嵐君のスマホを見てからいきなり慌てていたがどうしたんだ?」
片岡さんが早足でダンジョンの入口から走って帰ってきた僕たちを見て、困惑しながらもホッとした様子で近付いてきた。す、すみません……ちょっと(精神的に)追い詰められてて。
「こ、これが頼まれていたものです」
「確かに受け取った。お疲れ様三人とも」
片岡さんに遺品を回収した袋を渡し、早速警察側で調査すると車に乗って帰って行った片岡さん。いやあの……装備……
防刃ベストやトランシーバーがそのまま持ってるんだけどこれどうすれば良いんだ?と悩んでいるところに創さんがやってきた。
「装備に関しては西園寺グループが預かることになっている。これ以上君たちがダンジョンに行くことはないと思ってはいるが念のため、な」
「あ、ありがとうございます」
そういえば西園寺グループからの出資でグレードが上がったんだっけこの装備……高校生の身体にフィットするように作られてたから、大人の警察の人が使おうにも小さくてキツそうだし持って帰っても仕方ないか。
防刃ベストとトランシーバーを創さんに託し、さあ帰ろうというところでピロンピロン鳴っていたスマホが気になってついその場でスマホを取り出してしまう。
その内容は……
《第0層には試練用に用意したゴブリン3匹いないので大丈夫ですよ》
あ、そうなんだ。僕の早とちりでバタバタしちゃったなぁ……その後も管理人からのメッセージは続く。
《魔法とは超常現象を引き起こす奇跡、MPの消費量が多ければ多いほど強い力を持ちます》
《本来魔法は「魔道書」と呼ばれる書物を読んで習得します。その魔道書はこのダンジョン内に多数存在します》
《ダンジョンの攻略は命がけ、それでもそれに見合う報酬を我々は約束いたします》
そして……
「小嵐さん?帰りますよ?」
「《最下層には次元を超越する魔法や死者を蘇生する魔法が存在します》……!?」
「っ!?」
西園寺さんがスマホを見て固まっている僕を気にかけて声をかけたが、僕はその管理人からのメッセージに釘付けになっていたのか無意識に声に出して読んでいたようだ。
西園寺さんが固まる、美咲さんが僕たちの異変に気がついて心配して近付いてきた。
「ヒイロ?イスズ?なんしたんこんなとこで固まって?」
「……小嵐さん、今の言葉本当なんですか?」
「え?」
「《死者を蘇生する魔法が存在する》と、そう言いましたか!?」
「は、はい!」
西園寺さんが再起動していきなり僕に詰め寄る。近い近い近い!めっちゃ近い!西園寺さんはすごい剣幕でその目は真剣、死者蘇生の魔法があることを何度も僕に聞いて来た。
「本当に管理人がそう言ってるのですね!?」
「そ、そう書いてますぅ!」
「そんなことが……いえ、しかし……」
あ、西園寺さんが一人の世界に行ってしまった。僕、超至近距離で西園寺さんと話してたから心臓バックバクなんだけど?あと一人の世界に行ってしまうのは良いんだけど離れてくれないかなぁ!?
僕から離れればいいじゃないかって?はっはっは、美少女の顔が目の前にあるのに陰キャな僕が冷静にそんな思考が出来ると思うかい?
あまりの出来事に固まっていると、美咲さんがふくれっ面で僕と西園寺さんを引き離してきた。助かった……
「ヒイロ、イスズと距離近い!」
「僕が怒られている理由がよく分からないけど助かったよ美咲さん!」
「ん?助かった?」
美咲さんが首をかしげる。いや、気にしないで……ちょっと心臓が破裂しそうだっただけだから。
「そうそうヒイロ、魔法使ってみてよ!」
「え?」
「ほら、ステータスにあった《水魔法》ってやつ。手のひらからブシャーッって出るんでしょ?」
見たい見たい!と子どものようにねだる美咲さん。いやあの、見せますし分かりましたから腕にひっつかないで……!
「私も魔法というものに興味があります。見せて貰えませんか?」
「いや、僕も気になるのでやりますけど……」
西園寺さんがすがるような目で僕を見ながらそう言ってくる。いやそんな顔しなくても見せますから……
ええっと、管理人が言うには。ウォーターボールと心の中で『使用する』と念じることで魔法の発動が出……っ!
――――バシャーン!
手のひらを見つめながら管理人の言葉を脳内で復唱していると、いきなり水の塊が手のひらから出て来たと思えば、かなりのスピードで僕の顔面にをぶち当たる!
「ごぼぁ!」
「ヒイロ!?」
「小嵐さん!?」
ゲッホゴッホ、水が気管に!あー、鼻にも入った……!鼻の奥がつーんってするよ。しかもウォーターボールの勢いが強すぎて、僕頭から地面に叩き付けられたんだけど!?
「な、何も無いところから水が出てきたように見えましたが……!」
「多分あれが魔法なんだよ!ほら……あの、ウォーターボール?ってやつ!」
興奮気味に西園寺さんと美咲さんが話してる。僕はその間に起き上がって、びしょびしょになった服を脱いでぎゅっと絞っていた。うっわ、すごい水が出てくるよ……これ無限に撃てたら世界の水不足とか簡単に解決出来るんじゃない?
しっかし、この威力……確かにゴブリンも食らえばひとたまりも無いだろう。これでLv.1なんだよ?これでレベルが上がったらいったいどうなるんだ?
試してみたい、実際にゴブリンに対して撃ってみたい。自分の中のダンジョンそのものへの憧れがチラッと復活した気がした……
と、そんなことを思っていると西園寺さんと美咲さんが顔を赤くしながらチラチラこっちを見てくる。ん……?
「あの、その……」
「ヒイロ、大胆……」
ん?大胆?あ、僕上半身裸じゃん!すみませんすみません、こんな貧相な身体を見せてしまって!
僕は急いで絞った服を着る、うえぇびちょびちょで気持ち悪いよぉ。
その後、もう一度見たい!という美咲さんのリクエストに応えて二発目を今度は誰もいない方向に手のひらを向けて撃つと、自分の中のなにかがごっそり抜け落ちる感覚と共に身体が重くなった。
急いでステータスを確認すると……
――――――――――――
名前:小嵐緋色
Lv.1
HP:28/30
MP:2/6
STR:G12
VIT:G12
DEX:G6
AGI:G15
INT:G10
《スキル》
・水魔法Lv.1
《称号》
・『オルレウスの資格者』
――――――――――――
HPやMPが減っていた。HPはさっきウォーターボール顔面自爆事件のせいだとして……何かが抜けたと感じたのはMPの方か。
横から僕のステータスを覗いてた西園寺さんが考察を述べる。
「おそらく、MPを消費して先ほどの水球を出していたようですね」
「多分、そうだと思います」
「ヒイロ、マジで魔法使いじゃん!」
同じく僕のスマホを覗いていた美咲さんがそう言う。やめてね美咲さん?刺さっちゃうから……
そんなことを考えていると、何か思い詰めたような表情をした西園寺さんがいきなり「すみません、どうやら疲れてしまったようなので私は先に帰らせていただきます……」と、フラフラと帰って行った。
大丈夫だろうか?死者蘇生の魔法にあんなに興味を持っていたし、誰か大切な人を亡くしてしまったのかな……
僕はそういった経験は幸いにも無いけれど、もし瑠璃が死んだとなれば僕もあんな風に思い詰めることは想像に難くない。
残された僕と美咲さんはお互いに顔を見合わせた後、取りあえず最後までメッセージを読もうとバックグラウンドに待機させていたメッセージアプリを再び開く。
《これからのダンジョン攻略に幸多からんことを、願っています》
《いつか、あなた達が『オルレウスの遺志』を見つけることを――――》
「『オルレウスの遺志』……?」
「ごめんヒイロ、あーしもう頭パンクしそう」
「僕もだよ美咲さん。取りあえず、まずは無事に帰ってきたことを喜ぼうか……」
「や、やったー?」
あまりにも拍子抜けすぎて実感湧かないけど、と美咲さんは罰が悪そうに笑う。僕も2回のダンジョンアタックと比べてあまりにも楽すぎて実感湧かないよ……
とりあえず、僕たちも帰ろうか?と僕たちは別れて自分たちの家に帰る。あれ?なんか忘れてたような?
「ん?もしもし~、おとーさんどったの?え!?帰ったら説教!?そんなぁ……でも仕方ないじゃん!」
あ、美咲さんが頼人さんから怒られてる。流石にダンジョンに行くことを事後報告はダメだと思うんだ?
創さんから帰ってきたことを聞いて、早速美咲さんに電話したんだろう……あーあ、こってり絞られてしょげちゃってるよ。
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