第27話 不思議②

『声はちゃんと聞こえているかい?』

「はいお父様、ちゃんとダンジョン内でも聞こえていますよ」

『全く……伊鈴がワガママを言うのは何時ぶりだろうな』


 耳に嵌まったイヤホンからそんな創さんのため息が聞こえた。


 はい……僕にお説教をした後、足が痺れて動けない僕を余所にダンジョンに行くのなら私達もついて行きます!って西園寺さんと美咲さんが言い始めましてですね。

 必死に止めようとする創さんに西園寺さんが必殺技である『お父様なんて大っ嫌い!』を使ったからもう大変だった。


 創さんはその場で崩れ落ちるし、僕は足が痺れて動けないしで会議室の床に男が二人寝転がっているという謎な状況が生まれたのだ。


 片岡さんは片岡さんで瑠璃と美咲さんからゴミを見る様な目で見られて死ぬほど居心地悪そうにしてたし……


 そしてその結果がこれ、西園寺さんと美咲さんが僕と一緒にダンジョンに居るという状況。


 ちなみに美咲さんはもはや頼人さんに相談すらせずにここに居る。『事後報告で良いっしょ!』とは美咲さんの談だ……いやダメでしょ!


「はぁ……」

『諦めるんだ小嵐君、女性というものは時に感情を優先してしまうものなのだよ』


 私の妻もそうだった、と西園寺さんの強行を諦め半分で容認している創さん。こちらから頼人さんには伝えているよ……とげっそりした創さんの声がイヤホン越しに聞こえた。


「そもそもヒイロがダンジョンに行かなければこんなことにはならなかったし」

「……うっ、でも今回は遺品とってくるだけだし」

「この前ゴブリンから逃げるって言って、お腹から刃物を生やして帰ってきた人は誰でしたっけ?」

「…………」


 西園寺さんがさっきからブスブス痛いところを突いてくる。えぇ……いつものニコニコ西園寺さんは?初めて会ったときは何でも褒めてくれる慈愛の女神の印象があったんだけど?


「あーしらは瑠璃ちゃんから頼まれてるの。ヒイロを一人にさせるなって」

「だから私達もついて行きます。小嵐さんも妹のお願いを、無碍むげにはしませんよね?」


 うっ、僕の弁慶の泣き所である『妹のお願い』が。弱いんだよそれ言われると……項垂れているとイヤホンから今度は片岡さんの声が聞こえてきた。


『小嵐君が前に撮ってきてもらった映像から、簡単ながらマップを作成している。もし敵対生物と鉢合わせるようなことがあれば、出来るだけマップの道から外れること無く逃げて欲しい』


 そう言って片岡さんは僕たちのスマホにマップを共有してくれた。それを見ると、僕がどれだけ慌てて逃げていたのかが分かる……同じ道を何度も何度も通った跡があった。


『取りあえずこのマップ通りに歩いてくれ。装備が重かったり不慣れなこともあるだろうから、慎重にな』

「…………」

『ん?どうした?』

「いや、前回ダンジョンに行ったときとは真逆の対応にちょっとビックリしちゃって……」

『うっ……あのことは本当に済まなかったと思ってる。この程度で汚名を返上できるとは思っていないが、今は警察の無力さを認識して少しでも君たちをサポート出来る様に最善を尽くそうと考えている』


 片岡さんがダメージを受けている。西園寺さんはなんかちょっとすっきりしたような顔してるし、美咲さんも当然だという風にうんうんと頷いていた。


 雑談もそこそこに、僕たちはダンジョンの内部を慎重に歩いて行く。前回通ったときも罠は無かったけど、念のため。でも今回は3人も居るから以前のような亀の遅さじゃなく、サクサク進んで行っていた。


「……三人も居ると、見なきゃいけない場所の負担が減るから大分楽ですね」

「当たり前です。あらゆる面において人的有利は古来より強いとされてきたんですから」

「あ、あーしだって役に立つよ!」


 美咲さんがぷるぷる震えながら役に立つって言ってる姿がとっても可愛いんだけど、落ちてくる水滴とか風で転がる石ころの音が鳴る度に僕に抱きついてくるの止めてくれないかなぁ……


 普段の服ならはち切れんばかりの胸が押しつけられて役得だと思うけど、残念ながら僕も美咲さんも今は防刃ベストを装備してるせいで腕から伝わるのはかったいベストの感触だけだ。


 いや、女の子特有の良い匂いが至近距離に近付くから別の意味でドキドキするんだから止めて欲しいのは同じなんだけどね?

 そんなハプニングがありつつも僕たちは順調にあの白骨化死体があった場所まで来た。


「うっ……映像では見ていましたが、実際に見るとやはり……」

「うぅ、あーし無理。これ以上見てると絶対夢に出る……ヒイロ、イスズ、さっさと採るもん採って帰ろ?」


 西園寺さんと美咲さんが彼らを見て口を押えている。分かるよ、生々しいよねこれ……僕は記憶を頼りに側に落ちていた遺品を探す。


「お、あった」

『よし、それを支給した手袋をはめて袋に入れていってくれ。もちろん素手では触るなよ?』

『指紋が付いちゃうとそれこそ君たちがやったんじゃ無いかって思われちゃうからね』


 片岡さんと創さんのアドバイス通りに、僕は手袋をはめて指紋が付かないように慎重に袋に入れていく。制服、財布、アクセサリー……損傷の酷い物もいっぱいあって、地面から拾い上げるだけでポロポロと崩れてしまって上手く拾えないや。


 それでも何とか全部拾いきり、その間死体を見ないように周りを警戒していた西園寺さんと美咲さんに声をかける。一仕事終えて、少しホッとしたのか警戒心が緩んでいた。次の瞬間……


――――ピロンッ


 軽快な通知音が、僕のスマホから流れた。……ビックリしたぁ、気が緩んだときに通知来ないでよ!


「……び、びっくりしました」

「もう!驚いて損したじゃん!ヒイロ、ダンジョン攻略中はスマホはサイレントにしといてっ!」

「あ、あれ?僕スマホはずっとマナーモードのままなんだけど……」


 僕が取り出したスマホを僕より先にのぞき込む二人。いやいや、僕だってプライバシーというものがですね……?そんな僕の思いとは裏腹に彼女たちは僕のスマホに出ていた通知欄を見て……固まった。


 そんなヤバい通知来たの!?僕が不思議に思ってスマホ画面を見ると……そこには。


《小嵐様に対するお詫びとお礼について。おるれうすちゃん1号バージョンすりぃ~!より》


 ダンジョンの管理人からのメッセージが来ていたのだった。

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