第25話 犠牲④
「いいから息子を返せーっ!」
「我々は警察の怠慢に強く抗議するーっ!」
「あんな適当な説明で納得するわけ無いだろーっ!?」
警察署に入った瞬間、そんな怒声が聞こえる。警察のみなさんはまたか……というような顔で迷惑そうに仕事をしていた。
あれが、被害者団体……実際に見るのは初めてだけど、テレビで取材されていた人が数人混じっているのを発見して僕は思わず身を固くする。
その中の一人がこちらに気がついて、怒気をはらんだ顔で僕の方に向かってきた。その人の行動に気がついた他の被害者団体の人も僕を見つけ、続々と僕を取り囲む。
「お前、小嵐緋色だろ!」
「あなたのせいで子どもが居なくなったのよ!」
「息子を返せこの殺人鬼!」
「返してよ!返しなさいよッ!」
口々に僕に詰め寄るみんな。その顔は一様にどこか焦ってるように見え、余裕が無い感じに思えた。彼らの非難は止まらない。
「何とか言ったらどうなんだ!?」
「そもそもあなたが生きて帰って来れたことから不自然なのよ!」
「あんたが代わりに死ねば良かったんだ!!」
警察は黙って遠巻きに見ているばかり。非難の方向が僕の方に変わってホッとしてるのだろう、止めることもせず嵐が過ぎるのを待っているように見えた。
「あんたが代わりに死ねば良かった」、か……
「ごめん、なさい……」
「っ……ごめんで済んだら息子は帰ってくるのかよ!?」
「謝れば済む問題じゃ無いでしょ!?」
どうすることも出来ず、思わず口からついて出た僕の謝罪に彼らは怒り狂ったかのように責める。
じゃあどうすれば良いんだよ……今から僕が死ねば良いの?それで満足?結局は西園寺さんや美咲さんに攻撃の対象が変わるだけだ。
僕だって死にかけたんだぞ、それも二回も。二回目は彼らが騒ぎ立ててしまったせいでダンジョンに行かないといけなかったんだから実質彼らのせいで死にかけたものだ。
いや……西園寺さんがいなかったら間違いなく僕はあそこで死んでいた。そこまでして証拠を持ってきたのに、彼らは信じずにこうして僕を責めている。
僕の努力はなんだったんだ?僕だって同じ境遇でたまたま生き残っただけだと言うのに……ッ!
「どうすれば……良かったんですか……」
「あぁ!?もっとハキハキ喋れよ!」
「……ッ、どうすれば良かったんですかッ!?」
もう限界だった。僕は
「ダンジョンに拉致されて!訳わかんない間に殺されかけて!?やっとの思いで脱出したと思ったら今度はあなた達のせいでもう一度行くハメになって!」
「なっ……!?」
「何が私達のせいよ!責任転嫁も
「なにが『責任転嫁も甚だしい』だ!?マスコミに僕たちの情報を広めて殺人鬼の汚名を着せておいて!警察が動かないと分かれば連日警察署に行って騒いで、今度は僕を責めている!」
涙が溢れる。悔しかった、怖かった、ただの高校生だった僕が背負うには……あまりにも大きすぎる重責だった。
肩に背負った責任を下ろしたくて、潰されそうになってぐちゃぐちゃな僕の思いを吐き出したくて……僕は叫ぶように言葉を続ける。
「僕がどれだけ怖い目に遭いながらあの証拠を手に入れたと思ってるんですか!?生きながら肉を削がれて!骨に
「…………」
「文字通り死にかけながら手に入れた証拠をあなた達は信じず!僕はまたそのダンジョンに行かないといけないかもしれないんですよ!?あなた達が信じないせいで!」
恨みの感情が大きくなっていく。叫ぶ度に『なんでこんな奴らを助けてあげないといけないのか』という思いが強くなっていく。
彼らが僕の勢いに気圧されながらも恨みがましい目で僕を見てくる。いいさ、どうせ恨まれているのだから全部言ってやる!
「僕は運が良かったから生きている!死に物狂いで足掻いたから生きているんだ、文字通り死に物狂いでね!なのに大人は『もう一度』『もう一度』って迫ってくる!世間が!お前らが!僕が死にに行くことを望んでるんだよ!」
「わ、私たちはそんなんじゃ……!」
「『ない』なんて言わせない!僕がお前らのせいで、ダンジョンに『もう一度』潜れって言われてるんだから!」
「…………っ!」
「殺人鬼はッ!お前らの方だ……ッ!」
「っ、このガキ!」
彼らの一人が思わず拳を振り上げる。ビビってやるもんか、僕はこれより怖い目に何度だって遭ってきたんだから。その拳が振り下ろされる直前……
「ただの高校生を、よってたかって大の大人が取り囲んでリンチするのは目に余るぞ」
片岡さんが、腕を掴んで彼らの前に立っていた。片岡さんが腕を掴んだまま鋭い目をして取り囲んでる被害者団体を見渡す。
「そもそもここが何処か分かってるのか?警察署だぞ、警察署。暴行で即しょっぴくことも出来るんだ、今日の所は帰れ」
「ぐっ……しかし」
「聞こえなかったのか?帰れと言ったんだ私は。君たちの深い悲しみも理解しているつもりだ、だから今こうして説得という形で優しくしている間に帰るのが得策だぞ」
「……チッ」
警察署からわらわらと出て行く被害者団体の人達。やっとうるさい人達がいなくなったのか、他の警察の人もホッと一息ついていた。
片岡さんは僕に向き直り、頭を下げる。そんな……別に片岡さんが頭を下げるような事じゃないのに。
「被害者団体が来ていると騒ぎを聞きつけてな。急いで向かったのだが……すまなかった」
「いえ、片岡さんが謝るような事じゃ……僕も事前に何も言わずに警察署に来てしまってすみません」
そうだよね、普通は事前に片岡さんとかに行きますの一言ぐらい入れるべきだったよね……僕は頭の中がぐちゃぐちゃで、気付けば自分の事しか考えられていなかったことを反省する。
「ここに来たと言うことは、了承したって事で良いのか?」
「いえ……僕も、どうしたいのか分からなくなっちゃって。こうして片岡さんに直接会ったら何か分かるんじゃないかって思って、それで」
「なるほど、確かにこの問題は高校生である小嵐君一人で決められるものではなかったな。ダンジョンに敵対生物、そこで起こった殺人事件……何も分かってない中で大人から責められることも含めて、もっと我々警察がしっかりしないといけなかった」
そう言いながら周りの警察を睨む片岡さん。さっき僕を遠巻きに見ていた警察の人達は気まずそうに目をそらしていた。
片岡さんは僕に向き直り、できる限り僕を安心させようと笑う。それでもちょっと顔が怖いです片岡さん……
「西園寺創さんからは事前に話を通してある。『彼がもし話を聞きに来るような事があれば私も参加させてくれ』とも言われているのだ、ちょっと待ってくれ」
そういって片岡さんが電話を取りだしどこかへ連絡する。多分創さんのところだろう。二言三言会話を交わした後……片岡さんが冷や汗をかいている。何を言ったんだ創さん?あ、片岡さんがペコペコしてる。
「はい!はい!失礼いたします!……ふぅ、『今すぐ西園寺グループの会議室に来い』だってさ。私はファイルとパソコンを持って車を回してくるから少しここで待っていてくれ」
「あ、はい……」
「……君の叫び、私にも聞こえてきたよ。本当に、すまなかった」
そう残して何処かへ消えていった片岡さん。僕の叫びって……被害者団体の人達に啖呵を切ったときのやつ?恥ずかしい!
いや、僕のそのままの思いだけどさ。こういう自分の素直な気持ちって聞かれてると思うと恥ずかしくない?涙もいつの間にかひっこんじゃったしさ。
その後、車を回してくれた片岡さんと一緒に西園寺グループ本社へ向かう。なんかちょっと片岡さんが顔を青くしてるけど、ホント何言ったんだ創さん!?
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