第24話 犠牲③

 ぶえっくし!……あー、風邪?それとも僕の噂を誰かしてるのかな?それはないか、学校中が西園寺さんの転校してきたことで話題が持ちきりだし。


 僕は瑠璃が作ってくれたお弁当を開ける。『おにーちゃん、豚の生姜焼き学校で食べれなかったもんね~』と瑠璃からの好意で、今日は豚の生姜焼き弁当だ。やっぱうちの妹可愛い。写真撮っておくべきだった……ッ!


 体育館から先生達の車が置かれている駐車場にアクセスするための階段。コンクリートで三段だけ作られているこの段差が、僕のお気に入りポイント。

 春の暖かな日差しとそよ風が気持ちいいんだ。夏は暑いし冬は寒いしで春と秋限定のお気に入りポイントなんだけどね……


 結局今まで西園寺さんと話す機会が無かった僕。まあ自分から話しかけようとしてないし、これからもしようとはしてないんだけどね?

 瑠璃から飯一緒に食べない?って言われたけど、メンバーが僕を殺す編成だったので丁重にお断りした。女の子の中に僕が入れるとでも!?


 さて、弁当を開けたがここからが問題だ。僕は割り箸を割った……横に。

 デスヨネー、僕は横に割れた割り箸を置いて、別の割り箸を取り出す……あぁ!袋の中でバッキリ折れた感覚が!


 そう、僕はあの日から力のコントロールが利かないのだ……その原因がこれ。

――――――――――――

名前:小嵐緋色


Lv.1

HP:30

MP:6

STR:G12

VIT:G12

DEX:G6

AGI:G15

INT:G10

《スキル》

《称号》

・『オルレウスの資格者』

――――――――――――


 ゴブリン2体を倒したからなのか、かなりステータスが上がっている。STRが更に増えたのだ……そのせいで、もはや割り箸を普通に持っただけで縦じゃなくて横に割れてしまう現象が頻発してしまう。


「くっ……!持ってきた割り箸は後3本、プラスチックの箸を使わないといけない前に絶対に飯を食ってやるからな!?」


 弁当を残すのは絶対に無しだ!そんなことすれば瑠璃が悲しむだろ!うおおおおおお頑張れ小嵐緋色、割り箸を袋から取り出すんだああああああ!あ、割れた。

 悪戦苦闘すること10分、僕は今めっちゃ短い割り箸を持って弁当をチマチマ食べていた。


 うん……全部割れたよ横に……それはもう真っ二つにね。割れた箸でも良いから取りあえず食おう!って持ったら更に二つに割れてさ?もう箸で掴んでるのか指でつまんでるのか分かんないよこれ、瑠璃の料理が美味いことだけが救いだよホント?


 なんとか弁当を食べ終わり、本来ならここでライトノベルを読むんだけど今日は持ってきてないもんだから暇を持て余してる。

 かといって教室はなぁ……どうせ僕の席に誰か座ってるんじゃない?そうなったときに僕の居場所は教室に無くなる。お昼休憩ギリギリまでここに居とくのが得策かも。


――プルルルルルルル、プルルルルルルル……


 そんなとき、ポケットに入れていたスマホが震え出す。僕はズボンのポケットを破らないように慎重にスマホを取り出して、着信相手を確認すると……片岡さんだ!


「はいもしもし!小嵐です!」

『やあ小嵐君、今は昼休憩か?』

「あ、はい!そうです!」

『元気そうで良かった。私達警察はマスコミに責められて疲弊しているが……』


 いや、これも全部我々のせいだから君に言うのはお門違いだな……と自嘲する片岡さん。どうやら毎日のようにマスコミに追いかけられているようだ、昨日もテレビカメラが警察署前に大挙して押し寄せていたのをニュースで見た。


『そうそう、小嵐君に朗報だ。警察が新たに「ダンジョン課」を新設することが決まった。と言っても警察の中にダンジョンに入れる人が居なくて、実質閑職扱いになっているが』


 私も、今回の騒動を起こした責任をとってダンジョン課に異動になる。そう言った片岡さんの声はどこか未練を残しながらも、何かを吹っ切ったように感じた。


 何か妙にテンションが高い片岡さんについて行けない僕を置いて、片岡さんは話し続ける。

 何というか……片岡さんがなにか触れ辛い話題を勢いに任せて言ってしまおうという、焦りのようなものも僕は感じていた。


『ダンジョンの調査やダンジョンに起こった事件などは「ダンジョン課」が担当することになる。予算を引っ張ってこれるから、もう小嵐君にあのような軽装備を支給することもない』

「え……と、ありがとう、ございます?」

『みっともない話だが、我々警察は君たちに協力を仰がないといけない……警察に恨みや不信感を持っていることは分かっている、それを承知でお願いしたい。もう一度、力を貸してはくれないだろうか?ダンジョンに……潜ってはくれないだろうか?』


 片岡さんが電話越しに頭を下げているのが分かる。片岡さんが触れ辛かった話題は多分これのことだろう、だから「ダンジョン課が出来た」や「予算を引っ張ってこれるから」といった利点を先に話してから僕に取引を持ちかけてきたんだ。


でも……


「すみません片岡さん……僕はもう、ダンジョンには、行けません」

『……そうか』

「警察が嫌いとか、そういうわけじゃ無いんですよ?それに、僕だってファンタジーな世界に登場するダンジョンには憧れのようなものを持ってましたし。ただ……」


 二回も死にかけて、家族に心配をかけて……嫌というほど現実を思い知った。僕は物語の主人公じゃ無いし、家族を安心させるほどの強さも無い。そう僕は片岡さんに伝えると、片岡さんはもう一度、そうか……力なく呟いた。


 僕が黙っていると、片岡さんがおもむろに現状を僕に話し始める。


『実は、警察署に毎日のように被害者団体が来て「死んでるところを見るまで息子が死んだなんて信じないぞ!」と怒鳴り散らしていてね。映像も見せたが加工だフェイクだと信じない』

「はあ……」

『息子が死んだと言って西園寺家に賠償責任を負わせようとしたのに、今度は証拠が無いから息子は死んでないと言い出す……彼らは、子ども失って何も得ることが無いという現実を認めたくないんだ』

「話が、読めないんですが……?」

『……あの白骨化死体の側に遺品があっただろう?アレを採ってきて欲しい。もうゴブリンと戦わなくていい、我々も今度は装備と機材、共に予算を出してバックアップをする……なんなら西園寺グループに出向いて契約書を交わしても構わない。どうか、もう一度だけ、ダンジョンに行ってくれないだろうか?』

「もう、一度……ですか」

『ああ、それで最後だ』


 僕は考える。もう一度、あの地獄に行くのか?また瑠璃を泣かせてお父さんを心配させるのか?思い出すのは瑠璃とお父さん、お母さんの顔。

 個人的な意見としては……戦わないのなら、もう一度だけなら潜っても良いかなって思ってる。


 確かに怖いよ、死にかけたし。でもさ、ちょっと考えるんだ……確かに僕たちは彼ら被害者団体によって相当な被害を受けた。


 でも、それも全て自分の子どもを思う気持ちや失った喪失感をぶつける相手が僕たちしか居なかったからなんじゃないかって……


 くそ、頭の中がぐちゃぐちゃだ。だってそうじゃないか!?いきなりそんなこと言われたら、もうダンジョンに行かないっていう、せっかく決めた僕の決断が揺らぐ!


 こんなんじゃ、どっちにせよ即答なんて出来ないよ。


「少し、考えさせてください……」

『……良い返事を、期待しているよ』


 そう残して、片岡さんは電話を切った。僕は誰も居ないこの場所で考える。どうしたら良いんだろう?僕は……僕は……

 グルグルと頭の中で思考が空回りする。結局、お昼休憩が終わる5分前の予鈴が鳴っても、僕は決断をすることは出来なかった。


 あんなことを聞かされたもんだから、その後の授業なんて耳に入ってすら来ない。チラチラと美咲さんと西園寺さんが見てきたような気もするが、僕はそれに気がつく余裕すら無かった。


 そして、放課後。クラスメイトのみんなが西園寺さんを囲っているのを尻目に、僕はフラフラと教室を後にした。誰かが呼び止めてるような声がしたが、僕のような陰キャを呼び止めるような人はいないだろう……気のせいだね。


 ダンジョンに行ったら瑠璃達が悲しむ、でも、ダンジョンに行かなかったら被害者団体の親御さんたちは止まったままだ。

 子ども達の死を受け入れることも出来ず、ただ警察に恨みをぶつける日々。それは確実に、自身の精神をすり減らしてしまうだろう。


 それを僕が遺品を回収することで良い変化が生まれるのなら……してあげたい。でも、被害者団体には個人的な恨みもあって。

 彼らの理不尽な怒りで、西園寺さんや美咲さん、瑠璃が危険な目に遭った。マスコミが押し寄せ、身元が特定されて、僕は結果的にダンジョンで死にかけた。


 恨みと、慈愛。僕は二つの感情に板挟みにされている。


 ボーッと道を歩く……頭の中が今もぐちゃぐちゃでどうすれば良いのか分からない。僕はループする思考に答えを求めて、僕の足は自然にとある場所へと向いているのだった。

 そして僕は、その建物の前にたどり着く。


「ははっ……結局、ここに来るしか無かったんだね。僕は」


 の前で、僕はそう呟いた。受けるにしても断るにしても、顔を合わせて話を聞かないと……僕は片岡さんを探しに、警察署の中へと入っていくのであった。

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