第22話 犠牲①
「皆様初めまして、西園寺伊鈴と申します。新学期が始まって10日という変な時期に転入してきた身で混乱していると思いますが、これからどうぞよろしくお願いいたします」
僕のクラスに天使が転校してきました。いや、西園寺さんなんだけど……え?は?あまりの事に脳が追いつかない。
お医者さんに『流石に回復までの速度がおかしくありませんか?』とバケモノを見るような目で見られつつ退院して次の日、案の定登校すると既に友達グループができあがっていて見事なボッチスタートを決めた僕は、前もって美咲さんに教えて貰っていた自分の席にうつ伏せになって時間を潰していた。
僕が去年1年間で培ってきたボッチスキル、『寝たふり』だ!こうすることでクラスメイトから『あ、寝てるのか。だから誰も話しかけてないんだな』という印象を持たせ、友達が居ないことを思わせない!なお、使いすぎるとこいついつも寝てるなと思われるので注意が必要だ!
はぁ、僕は誰に向かってこんな悲しい事を説明しなきゃいけないんだろう……そうですよ、ボッチだから朝のこの時間に暇を潰す相手が居ないんですよ。久しぶりの登校だったからライトノベルを持ってくるのも忘れたしさ?
そんな僕が腐っているとき、近くに居たクラスメイト達が興奮気味に会話をしているのが聞こえた。
「おい!聞いたかよ!?」
「なんだよ藪から棒に」
「今日、転校生が来るんだってよ!」
「はぁ?新学期が始まってもう10日経ってるんだぞ?」
「家の事情とかじゃね?それよりも男?女?」
「女子だ、しかも死ぬほど可愛いらしい」
「マジかよ!」
ふーん、転校生か。しかも可愛い女の子……うん!僕には全く関係ないね!お友達もコミュ力もない僕に話しかけてくれる女の子など皆無なのだ。美咲さん?彼女は特別な例だよ……
ともかく、ダンジョンとかいう特別な出来事が無い限り僕に普通の可愛い女の子とお近づきになることは無い!なんて考えていたのがつい30分前。
まさか転校してきた女の子が、そのダンジョンとかいう特別な出来事があった人だとは……
「西園寺ってあの……?」
「ほら、最近ニュースになってた……」
「え?マジ!?本物!?」
あーあー、ウチのクラスがざわめいちゃってるよ。それも仕方ないか……良くも悪くも西園寺伊鈴という存在は世間の注目の的。僕や美咲さんの名前は間一髪のところで
そんな彼女が今、目の前に居るのだ。肩まで伸ばしたセミロングの黒髪がお辞儀をする際にさらっと流れる。ただのお辞儀のはずなのにその一挙手一投足が美しく、整った顔や長いまつげがクラスメイト達の目を掴んで離さない。
そして顔を上げた西園寺さんはニッコリと笑う。それだけでクラスメイト、特に男子の心は完全に奪われていた……
そして僕は、視界の端でにんまりと笑っている美咲さんの顔に気付いて初めて、入院中に言われたサプライズとは何だったのかを悟った。
「西園寺さんは家庭の事情で西城高校に通うことになりました。彼女はまだ西城高校について知らないことが多いので、みなさんもできる限り彼女を助け上げて下さい」
『は~い!』
担任の言葉に元気よく返事をする我がクラスメイト達。いやいや、絶対西園寺さんが美少女だから元気になってるでしょみんな……
しっかし、こうなってくると困るのは僕だ。なにが困るって?どうやって西園寺さんと接触を図るかだよ?
西園寺さんは間違いなく1時間目の授業が終わった次の休み時間に囲まれる。そして美咲さんもその集団に自然に入って西園寺さんとお話しできるだろう……うん、僕が続いてそこに入れる自信が無いね!?
色々聞きたいことはあるけど、クラスメイト達が居る中で話しかけるのは僕にとってはレベルが高すぎる……ほら、クラスで浮いてるボッチがいきなり転校してきた美少女と話しているのを想像してみ?アイツ誰だよって目線と殺意の籠もった目線で僕は串刺しになる。
そもそもボッチの僕には空気を読むというものが苦手だし、西園寺さん自身も転校してきたからにはお友達はいっぱいいた方が学生生活を楽しめるだろう。
なんで西城高校に転校してきたのか?あの後事件の進展はあったのだろうか?疑問は尽きないが、これは僕の中に飲み込んでおこう。
そのまま1時間目の授業が始まる。ちなみに西園寺さんの席は僕の斜め前、授業中至る所からチラチラと西園寺さんを見ている男子が後を絶たずに先生に怒られていたのだった……まあ、気持ちは分かるよ。
そして勝負の休み時間。案の定ワッ!と西園寺さんの席の周りに集まるクラスメイト達。美咲さんも西園寺さんの席に行って仲睦まじく話しながら、二人でクラスメイト達の質問を捌いていた。
「なんで転校してきたの!?」
「西園寺さんってあの西園寺グループの!?」
「か、彼氏はいますか!?」
「テレビで事件見たよ!大変だったね?大丈夫だった!?」
「す、好きな人とかタイプは!?」
いくつか下心丸出しの質問が飛んでるな……そんながっつく男は嫌われるぜ?知らんけど。だって恋のノウハウとか僕分かるわけ無いじゃん。
なんかチラチラ西園寺さんがこっちを見ているような気もするが気のせいだろう。僕みたいな陰キャを相手にするより先にクラスメイト達を相手にしてください。
次は移動教室か……僕は化学の教科書を持って席を立つ。僕が教室から出て行く姿を気にするものは誰も居なかった。
「ボッチはっけーん!なーにしてるのおにーちゃん?」
「ん?瑠璃か。おにーちゃんはボッチじゃ無い、ちゃんと話せる相手ぐらい居るぞ」
「おにーちゃん、話すことが『可能』な相手がいるのと話す相手がいるのとは別物なんだよ……あと絶対それ奈々さんでしょ」
「ぐっ……!」
反論、出来ないッ!移動教室の途中で偶然瑠璃と出会い、ボッチとけなされる僕。泣いて良い?
しっかし、改めて妹の制服姿を見ると……激カワじゃない!?朝も家で見たけど、西城高校というロケーションが瑠璃の制服姿を一段と可愛く見せている!
「瑠璃、ちょっと写真撮って良いか?軽く10枚ぐらい」
「おにーちゃんの私好きは今に始まったことじゃないけど、せめて場所を考えよ?廊下のど真ん中だよ?」
「僕は気にしないけど?」
「私が気にするの!」
周りもなんか見てるし、と瑠璃が恥ずかしがっている。やだ、超可愛い!オラァ、見せもんじゃねえぞ散れ!何散ってんだ瑠璃の可愛さがわかんねえのか、あぁ!?
そんな風にオラ付いていると、小柄な女子生徒がとことこと瑠璃に近付いてくる。なんだ?同士か?
「る、瑠璃ちゃん。早く行かないと遅れちゃうよ……」
「あ!そうだった。おにーちゃんに構う暇なんて無かったんだった!」
「おにーちゃん泣くよ?ボッチがいるって絡まれたあげく僕のせいにされてさ?」
「え……と、瑠璃ちゃんのお兄さん?」
どうやら瑠璃のお友達のようだった。気が弱そうだけど……優しそうだからヨシッ!合格!
うんうん、と納得している僕を呆れた目で見ながら瑠璃は軽く紹介をする。
「
「ぁ……初めまして。瑠璃のお友達の美咲希乃、です……」
瑠璃の見る目は完璧だなぁ、こんな可愛くて性格の良い子と友達になるなんて……って、ん?美咲ってもしかして、
「もしかしてだけど。美咲奈々さんの、妹さん?」
「あ、姉がいつもお世話になっております。お噂はかねがね……」
「あー、大丈夫だよ希乃ちゃん。お世話になってるのはおにーちゃんの方だから。ね?おにーちゃん?」
「さあ次は理科室だったから早く行かないとなぁー!瑠璃もこんなところでかまけてないでさっさと次の授業に遅れないようにするんだよー!」
「あ、逃げた」
やめて?確かに友達の居ない僕が他人と話せる人は美咲さんだけだけどさ、せめて格好いいおにーちゃんとして紹介してよ瑠璃ぃ……
希乃ちゃんがさっきの紹介を聞いててどう思う?確実に僕のイメージは駄々下がりだよ!?
妹の新しい友達を見れたって事と、妹にボコボコにされたって事で自分の感情はプラマイで若干マイナスだよ、とほほ。学校に来てから色んな事で振り回されっぱなしだよもう……
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